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70代女性「孫に風邪薬を飲ませたい」→子ども用の“市販薬”を案内するも手に取らず…女性が希望した薬に薬剤師が困惑したワケ

  • 2026.9.30
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

処方箋を持たずに来局した70代の女性が「孫に飲ませたい風邪薬をください」と申し出ました。

市販薬コーナーへご案内しようとしたところ、「これじゃなくて、前に夫が飲んでいたあの薬がいい」と言い出したのです。

彼女が指さした先にあったのは、市販ではまず手に入らない処方薬。その要望の背景には、敬老の日ならではの切ない事情がありました。

処方箋なしで訪れた「孫に飲ませたい」の相談

9月の敬老の日を数日後に控えた金曜の午後。処方箋を持たずに来局された70代のAさんが、少し遠慮がちに声をかけてこられました。

「あの、孫に飲ませたい風邪薬が欲しいんですけど」

小学生のお孫さんが週末に泊まりに来る予定で、その前に少し咳と鼻水があるとご家族から聞いたとのこと。

「うちに常備薬がなくてね、念のため用意しておこうと思って」

ごく自然な相談内容でしたので、店内の市販薬コーナーへご案内しました。

小児用の風邪薬をいくつかご紹介したところ、Aさんはどれも手に取ろうとされません。

しばらく棚を眺めた後、少し離れた場所を指さして「これじゃなくて、前にうちの主人が飲んでいた、あの薬がいいのよ」と言われました。

「指さされた方向を見ると、調剤室の奥の棚に置かれていた処方薬の箱でした。(参考展示用のものです)。

しかもAさんが指しておられたのは、成人向けの処方箋医薬品でした。

当然、市販では販売できませんし、そもそも小児に使うようなものでもありません。

孫のためではなかった、本当の目的

「Aさん、こちらは処方箋がないとお渡しできないお薬なんです。それに、お孫さんが服用されるようなお薬ではないんですよ」

と丁寧にお伝えしました。

Aさんは少しがっかりされた様子で、「そう……あれ、よく効いたのよねぇ」と、独り言のようにつぶやかれました。

会話を続けているうちに、Aさんがぽろりとこぼされた一言で、状況が少しずつ見えてきました。

「久しぶりに孫が来てくれるからね、風邪なんかで具合が悪くなったら困るのよ。あの子、いつも忙しくてなかなか来られないから」

そして、こう続けられました。「うちの主人が生きていた頃はね、孫が風邪ひいたときにあの薬をちょっと飲ませて、すぐ元気にしてあげたことがあったの。よく覚えてるのよ、あの薬で楽になったって」

お話を伺っていると、時系列に少し不自然な部分がありました。何より、成人男性用の処方薬をお孫さんに服用させたという記憶自体、実際にあったことなのか、それとも記憶が混ざっているのか、判然としない部分がありました。

ご本人にとっては、「久しぶりに会える孫を、絶対に元気に迎えたい」という切実な思いが先にあり、それが過去の記憶と結びついて、「あの薬なら大丈夫」という思い込みになっていたようでした。

処方箋を持たない相談への向き合い方

「Aさん、お孫さんが来られる前に、しっかり準備しておきたいというお気持ち、よくわかりました」

とお伝えしたうえで、いくつかご提案をしました。

まず、お孫さんの年齢に合った市販の小児用風邪薬を1つご紹介しました。実際に症状が出た場合の使い方も、お孫さんのご両親と相談してから使うようお伝えしました。

そして、少し踏み込んでこうお話ししました。

「Aさんご自身も、最近よく眠れていますか? お食事はきちんと召し上がっていますか?」

Aさんは少し驚いた表情で、「よくわかったわね。実はここ最近、あんまり眠れなくて」と答えられました。

孫のことで頭がいっぱいで、ご自身の体調管理が後回しになっている。そのことが、記憶の混同や思い込みにもつながっているのかもしれない——そう感じ、「敬老の日の前に、一度ご自身のかかりつけの先生に体調を診てもらってはいかがでしょう」とお勧めしました。

Aさんは「そうねぇ、来週にでも行ってみるわ」と、少し明るい表情でお帰りになりました。

処方箋を持たないご相談は、市販薬をご案内して終わりではないことがあります。特に高齢の方の場合、相談内容そのものよりも、その背後にあるご本人の状態にヒントが隠れていることが少なくありません。

読者の皆さんの中にも、ご高齢のご家族が「昔飲んでいた薬」の話をされたり、市販薬コーナーで長時間迷われている姿を見かけたりすることがあるかもしれません。

そんなときは、「何のために必要か」を少しだけ聞いてあげてください。

その一歩踏み込んだ会話から、思わぬ気づきや、必要なサポートが見えてくることがあります。薬局は、処方箋がなくても立ち寄れる、地域の健康相談窓口でもある——そう思っていただけたら幸いです。


ライター:下田篤男

京都大学薬学部総合薬学科を卒業後、調剤薬局やドラッグストアグループで薬剤師として勤務してきました。総合病院の門前店舗では管理薬剤師を務め、たくさんの患者さんと向き合う日々の中で、「薬を渡す」だけではない、人と人との関わりの大切さを実感しています。現在は薬剤師として現場に立ちながら、医療記事の執筆・編集や薬局経営コンサルタントとしても活動中。読者の皆さまに、薬局がもっと身近で頼れる場所になるような情報をお届けしていきたいと思っています。


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