1. トップ
  2. エピソード
  3. 患者の妻「息子が帰るまであと20分だから待って」救急搬送直前の要望に…救急隊が取った対応とは

患者の妻「息子が帰るまであと20分だから待って」救急搬送直前の要望に…救急隊が取った対応とは

  • 2026.9.21
undefined
出典:photoAC ※画像はイメージです

こんにちは。ライターのとしです。

救急車に傷病者を収容し、搬送先の医療機関が決まれば、基本的にはそのまま病院へ向けて出発します。

しかし、いざ出発というタイミングで、家族から思いがけないお願いをされることもあります。

今回は、発熱で動けなくなった50代男性を搬送しようとした際、妻からあるお願いをされた事案をご紹介します。

発熱で歩くことも難しかった50代男性

あるとき、50代男性が発熱し、歩くことも難しい状態になったとして、妻から救急要請が入りました。

現場へ到着した救急隊は、男性の意識状態や体温、血圧、脈拍などを確認しながら、現在の症状や発症までの経過を聞いていきました。

男性は自力での歩行が難しい状態だったため、安全に配慮しながら救急車内へ収容しました。

その後も男性の状態を観察しながら、受け入れ可能な医療機関を探していきます。

しばらくして搬送先が決まりました。

医療機関側にも男性の状態を伝え、受け入れてもらえることになったため、あとは救急車を出発させるだけです。

そんなタイミングで、同乗する妻から声をかけられました。

「あと20分だけ待ってもらえませんか」

妻から、

「あと20分くらいで息子が帰ってくるので、それまで待ってもらえませんか」

とお願いされました。

話を聞くと、息子が間もなく自宅へ戻ってくる予定で、帰宅してから一緒に病院へ向かいたいようでした。

父親が救急搬送されるという状況ですから、家族としては息子にも一度会わせてから出発したい、あるいは家族がそろってから病院へ向かいたいという気持ちがあったのだと思います。

しかし、すでに男性を救急車内へ収容し、受け入れ先の医療機関も決まっています。

救急隊として、そのまま20分間待つという判断はできませんでした。

「息子さんには搬送先を伝えてください」

そこで妻には、

「息子さんには搬送先の医療機関を伝えて、帰宅後に病院へ向かってもらってください」

と説明しました。

救急車は、家族がそろうまで現場で待機するためのものではありません。

傷病者を必要な医療につなげるために出動しています。

また、この時点では男性の状態が大きく悪化していなかったとしても、この先20分間、同じ状態が続くとは限りません。

発熱があり、歩くことも難しい状態であるため、救急搬送が必要だと判断しています。

その状態で家族の帰宅を待っている間に症状が変化してしまえば、搬送を遅らせたことにもなってしまいます。

さらに、医療機関側も受け入れを了承し、患者が搬送されてくることを想定して準備しています。

そのため、妻には男性の状態を第一に考え、このまま医療機関へ向かう必要があることを伝えました。

妻も最終的には理解してくれました。

息子には搬送先を伝え、あとから病院へ向かってもらうことになり、救急車は現場を出発しました。

「20分だけ」でも救急隊には待てないことがある

その後、男性の状態を観察しながら医療機関へ搬送しました。

搬送中に大きな容態変化はなく、無事に医療機関へ到着しました。

現場からの経過や観察した内容を医師へ申し送り、引き継ぐことができました。

今回、妻が「息子が帰ってくるまで待ってほしい」とお願いした気持ちは、家族として自然なものだったと思います。

ただ、救急隊にとっての「あと20分」は、単に時間の問題だけではありません。

その間に傷病者の状態が変化する可能性もありますし、すでに受け入れを了承している医療機関を待たせることにもなります。

救急現場では、傷病者の安全と必要な医療につなげることを第一に考えて判断する必要があります。

家族の希望に応えられない場面であっても、その理由をきちんと説明し、別の方法を提案することが大切だと感じた事案でした。


ライター:とし

元救急隊員。消防で17年、主に救急隊として活動し救急救命士資格を取得。現場経験をもとに、救急の分かりにくい部分を一般向けに噛み砕いて発信しています。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる

注目コンテンツ