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「そんなこと聞かんでも分かるやろ!」口調が強い患者さん…→食事中にみた“意外な姿”に「第一印象だけで判断してはいけない」

  • 2026.9.23
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

「そんなこと、聞かんでも分かるやろ」

「もういいって。ほっといて」

病棟で働いていると、患者さんからこのように強い口調で返されることがあります。

もちろん、スタッフも人間です。

何度も強い言葉を向けられると、どうしても「この人には慎重に関わらなければいけない」という意識が生まれます。

今回紹介するのは、入院していた中年男性、Aさんとの出来事です。

Aさんは入院当初からスタッフへの返答が強く、私たちの間でも「少し距離を取って関わったほうがいい患者さん」という認識がありました。

ところが、ある日の食事中にAさんが口にした言葉をきっかけに、私たちはこれまで知らなかったAさんの一面に気づくことになります。

「そんなこと、聞かんでも分かるやろ」

Aさんは、普段から少し苛立ったような話し方をすることが多い患者さんでした。

「Aさん、体調どうですか?」そう声をかけると、

「別に。普通や」

「眠れましたか?」

「そんなこと聞かんでも分かるやろ。寝てるわ」

決して大声で怒鳴るわけではありません。ただ、返答の1つ1つに棘があるのです。

別の日には、

「Aさん、検温お願いします」

と伝えただけで、

「もういいって。いちいち言わんでもやるから」

と返されることもありました。

スタッフ間でも、

「Aさん、今日はちょっとピリピリしてるね」

「声かけるときはタイミング見たほうがいいかも」

と話すことが増えていきました。

他の患者さんへの声かけに対しても、

「うるさいな」

などと反応することがあり、スタッフからすると、どうしても「刺激すると怒りやすい人」という印象になっていきました。

私自身も、Aさんに声をかけるときは少し身構えるようになっていました。

「俺の分だけ置いていかんといて!」

そんなある日のことでした。昼食が終わり、食器を下げる時間になりました。スタッフが順番に患者さんの食事を確認しながら、食器を回収していきました。

Aさんのところへ行くと、食事が少し残っていました。

そのため、食事を終えている他の患者さんの食器を先に片付け始めました。

その時です。急にAさんが、

「俺の分だけ置いていかんといて!」と強い口調で言いました。

周囲の患者さんもこちらを見ています。

正直、そのとき私は、

「また怒っている…」

と思いました。

これまでのAさんの様子から考えても、いつもの苛立ちの延長に見えたのです。

ただ、よく見ると、Aさんの表情は「怒っている」というより、どこか焦っているようにも見えました。

「Aさん、どうしました?」

「…別に」

「食事を下げなかったのが嫌だったんですか?」

Aさんは黙りました。

そして、少し間を置いてから、

「…俺が食べてないの、みんなに分かるやろ」

と小さな声で言いました。

「食べてないって思われるのが嫌なんや」

その言葉に、私は少し意外な気持ちになりました。

「食べていないことを知られたくなかったんですか?」

「…うん」

Aさんはしばらく黙っていました。

そして、

「また食べてないんかって思われるのが嫌やねん」

と話しました。

そこで、少しずつ事情が見えてきました。Aさんはもともと、食事を残すことに対して強い抵抗感がありました。

以前、家族から、「また食べてないの?」「ちゃんと食べなあかんやろ」と繰り返し言われた経験があったそうです。本人にとっては、食事を残すことそのものよりも、「食べられなかったことを誰かに知られる」ことが大きな負担になっていました。

「家でも、食べてないと色々言われてな」

「そうだったんですね」

「だから、食事のときになると、なんか嫌な感じになるんや。残っててもはよ片してほしいんや」

そう言いながら、Aさんは視線を落としました。

さっきまで大きな声を出していた人とは、別人のようでした。

「怒ってるつもりじゃなかった」

私は少し気になって、尋ねました。

「さっき、声が大きくなりましたよね。怒っていましたか?」

するとAさんは、

「…怒ってるつもりじゃなかった」

と答えました。少し考えてから、

「怖かったんやと思う」

と話しました。

「食事置いたままだと見えるやろ。また食べてないって思われる…そう思ったら、なんか怖くなって」

そして、Aさんは苦笑いしながら言いました。

「俺、怖くなると声が大きくなるみたいなんや」

その言葉が、なぜか強く印象に残りました。

これまで私たちは、Aさんの大きな声を「怒り」として受け取っていました。

でも本人にとっては、怒りではなく、不安や恐怖をどう表現していいか分からない結果だったのです。

「怖い患者」だと思っていた自分

もちろん、強い口調で話されたときにスタッフが身の安全や周囲の患者さんへの影響を考えることは必要です。

だからといって、「声が大きい=怒っている」「強い口調=怖い人」と決めつけてしまうと、その人の本当の気持ちを見落としてしまうことがあります。

Aさんの場合、本人も自分の不安をうまく説明できていませんでした。

「怖い」「不安」「知られたくない」

そんな気持ちを言葉にする代わりに、「置いていかんといて!」という強い言葉になって出ていたのです。

そのことが分かってから、スタッフの関わり方も少し変わりました。

食事を下げるときは、まずはAさんの気持ちを確認するようにしました。

「Aさん、もう少し食べますか?」

そう尋ねると、Aさんは少し考えてから、

「もういいよ」「あとちょっと食べる」

と、自分の意思を伝えてくれるようになりました。

こちらが先回りして判断するのではなく、Aさんが選べるように声をかけることで、少しずつ落ち着いて食事を終えられる場面が増えていきました。

数日後、Aさんから意外な言葉が

それから数日後のことです。

廊下でAさんとすれ違ったとき、突然呼び止められました。

「どうしました?」

するとAさんは少し気まずそうな顔をして、「この前…怒鳴ってすみませんでした」と言いました。

私は少し驚きました。

「いえ、大丈夫ですよ」

そう答えると、

「俺、ああいうとき声でかくなるから」

「怖くなると声が大きくなるって言ってましたね」

「そう。自分でも後から思ったら、なんであんな言い方したんやろって」

Aさんはそう言って笑いました。

そして、

「また声でかくなってたら言って」

と付け加えました。

最初のころには見られなかった、Aさんからの言葉でした。

「怖い人」から「不安を抱えている人」へ

Aさんと関わる中で、私自身も考えさせられました。

患者さんの言葉や態度は、こちらから見ると「怒り」や「拒否」に見えることがあります。

でも、その奥にある感情まで同じとは限りません。不安なのかもしれない。怖いのかもしれない。恥ずかしいのかもしれない。自分を守ろうとしているのかもしれない。

もちろん、すべての強い言動に理由があるとは限りません。

しかし、目の前の行動だけでその人を決めつけてしまうと、その背景にあるものを見失ってしまうことがあります。

最初、私にとってAさんは「強い口調で話す、少し怖い患者さん」でした。

しかし話を聞いていくと、その強い口調の裏には、自分でもうまく扱えない不安がありました。

そして最後には、自分から「怒鳴ってすみません」と謝ってくれました。

精神科看護では、患者さんの言動そのものを見るだけではなく、

「なぜ、この言葉が出てきたのだろう」

「この行動の前に、どんな気持ちがあったのだろう」

と考えることがあります。

Aさんとの出来事を通して、私は改めて、第一印象だけで患者さんを判断しないことの大切さを感じました。

あの日、「怒っている」と思ったAさんの大きな声。その正体は、怒りではなく「怖い」という気持ちだったのです。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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