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「道を考えて運転する人」はアルツハイマー病で死亡しにくい、443職種900万人で比較

  • 2026.8.20
ルートを考えて運転するタクシーや救急車の運転手は、アルツハイマー病で死亡しにくい / Credit:Canva

「道を覚える」「現在地を把握する」「目的地までのルートを考える」といった行為は、老後の脳を守ることにつながるのでしょうか。

その可能性を感じさせる意外な結果が、米国の約900万人の死亡記録を調べた研究から報告されています。

ハーバード大学医学大学院(HMS:Harvard Medical School)の研究チームが443職種を比較したところ、アルツハイマー病による死亡割合が最も低かったのは、救急車運転手とタクシー運転手でした。

研究チームは、両者に共通する「その場で道を考え続ける仕事」に注目しています。

研究成果は2024年12月17日付で医学誌『BMJ』に掲載されました。

目次

  • タクシーと救急車の運転手はアルツハイマー病で死亡しにくい
  • 決まったルートを走る仕事では同じ傾向が見られなかった

タクシーと救急車の運転手はアルツハイマー病で死亡しにくい

今回の研究の出発点となったのは、脳にある「海馬」です。

海馬は記憶に重要な領域として知られていますが、自分がどこにいるのかを把握したり、目的地までの道筋を頭の中に描いたりする「空間ナビゲーション」にも深く関わっています。

そしてアルツハイマー病では、この海馬が比較的早くから萎縮していきます。

そこで研究者たちが注目したのが、過去に行われたロンドンのタクシー運転手の研究でした。

ロンドンのタクシー運転手は、膨大な道路やランドマークを覚え、目的地に応じてルートを組み立てる必要があります。

過去の脳画像研究では、こうした運転手の海馬に構造的な変化が確認されていました。

ならば、日常的に空間ナビゲーションを繰り返す仕事では、アルツハイマー病による死亡も少なくなっている可能性があるのではないか。

研究チームは、この疑問を大規模な死亡統計から確かめることにしました。

分析したのは、米国で2020年から2022年に死亡し、職業情報が確認できた8,972,221人です。

研究者たちは443職種を比較し、中でも毎回異なる目的地へ向かい、その場で経路を判断する機会の多いタクシー運転手と、救急救命士を除く救急車運転手・同乗員に注目しました。

さらに、同じ輸送関係の仕事でも比較的決められた経路を利用するバス運転手、航空機パイロット、船長とも比較しました。

アルツハイマー病は高齢になるほど増えるため、年齢のほか、性別、人種・民族、教育歴などの違いも統計的に調整しています。

その結果、タクシー運転手と救急車運転手は、443職種の中でアルツハイマー病による死亡割合が最も低い2職種となりました。

では、この2つの仕事では具体的にどれほど低かったのでしょうか。

より詳しい結果を次項で見ていきます。

決まったルートを走る仕事では同じ傾向が見られなかった

年齢などを調整したアルツハイマー病による死亡割合は、全体では1.69%でした。

これに対し、タクシー運転手では1.03%、救急車運転手では0.91%でした。

しかも、平均死亡年齢の違いが結果を左右していないかを確かめるため、60歳以上で死亡した人だけに絞っても、この2職種が最も低いという傾向は変わりませんでした。

さらに、アルツハイマー病が「主な死因」だった場合だけでなく、「死亡に寄与した病気」として記載されていたケースまで含めても、同じ傾向が確認されています。

一方、同じように乗り物を扱う仕事でも結果は大きく異なりました。

調整後の死亡割合は、バス運転手で1.65%、航空機パイロットで2.34%、船長で2.12%でした。

つまり研究者たちは、単に「運転すること」ではなく、目的地や状況に応じてその場でルートを考える「リアルタイムの空間ナビゲーション」に意味があるのではないかと考えています。

タクシーや救急車では、現在地と目的地の位置関係を把握しながら、その都度進む道を判断しなければなりません。

こうした作業では、空間認識を担う海馬が繰り返し使われます。

実際、過去のロンドンタクシー研究では、長年ナビゲーションを行ってきた運転手で海馬の構造的な違いが報告されています。

さらに今回、血管性認知症や原因不明の認知症について同じ分析をすると、タクシー運転手と救急車運転手だけが特に低くなるパターンは見られませんでした。

こうした結果から研究チームは、頻繁な空間ナビゲーションと海馬の変化が、アルツハイマー病による死亡の少なさに関係している可能性を考えています。

ただし今回調べたのはアルツハイマー病の発症率そのものではなく、「死亡者のうちアルツハイマー病が死因となった割合」です。

また、もともと空間認知能力の高い人ほどタクシー運転手のような仕事を選び、長く続けやすかった可能性もあるため、道を考える仕事そのものがアルツハイマー病を防いだとはまだ言えません。

今後、仕事中にどれほど空間ナビゲーションを行っているのかや、脳にどのような変化が起きるのかを長期的に調べれば、この興味深い関連の正体がよりはっきりしてくるでしょう。

毎日のように「頭の中の地図」を使うことは、単なる仕事の技術にとどまらず、脳の老化とも関係しているのかもしれません。

参考文献

Taxi and ambulance drivers show significantly lower Alzheimer’s risk in national mortality study
https://www.psypost.org/taxi-and-ambulance-drivers-show-significantly-lower-alzheimers-risk-in-national-mortality-study/

元論文

Alzheimer’s disease mortality among taxi and ambulance drivers: population based cross sectional study
https://doi.org/10.1136/bmj-2024-082194

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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