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30年前、僕らは「洗練された大人の恋」を夢見た。スーパーボールを弾ませたくなる、最高にエモい初夏の記憶

  • 2026.6.3

1996年春。月曜日の夜9時が近づくと、街角から不思議と人の姿が減り始めた。テレビの前に座り込んで画面を見つめる若者たち。全国の家庭から放つ熱気が都市の夜を静かに満たしていく。画面が映し出す、きらびやかで少し切ない都会の男女の物語。物語の幕開けを告げるように、スピーカーから弾けるようなグルーヴが流れ出した。

久保田利伸 with ナオミ・キャンベル『LA・LA・LA LOVE SONG』(作詞・作曲:久保田利伸)ーー1996年5月13日発売

日本の音楽シーンにおけるリズムの概念を根底から塗り替えた、記念碑的な名曲である。

街の呼吸を止めた映像空間

フジテレビ系月9ドラマ『ロングバケーション』の存在は、この大ヒットを語る上で欠かせない。木村拓哉と山口智子が主演を務めた作品は、社会現象として日本中を席巻した。ドラマが描いたのは、才能に悩みながらも懸命に生きるピアニストの青年と、結婚式当日に婚約者に逃げられた年上のモデルという、不器用な男女の日常である。

作品全体のトーンを決定づけたのが、オープニングを飾る軽快なリズムだった。洗練された都会の夜景や、登場人物たちが織りなす等身大の会話。瑞々しい視覚情報と完全に同期した音像は、視聴者の憧れと共感を爆発的に掻き立てた。単なるタイアップの枠を超え、物語の血肉として機能した点に強みがある

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1996年5月、東京国際展示場でおこなわれた久保田利伸のコンサートより(C)SANKEI

エレベーターが繋いだ必然

国際的なコラボレーションの背景には、映画のような偶然が存在する。1990年代中盤、本場アメリカのブラックミュージックを体得すべくニューヨークへ移住していた久保田利伸。生活の場に選んだ高層マンションで、偶然にも世界のトップモデルとしてファッション界の頂点に君臨していたナオミ・キャンベルと同じ建物に居住することとなる。

当時のナオミ・キャンベルは、圧倒的なカリスマ性で世界のランウェイを支配する文化的アイコンだった。そんなトップモデルと、日本の音楽家がエレベーターという密室で偶然対面する。互いの放つクリエイティブなオーラに惹かれ合い、意気投合するまでに時間はかからなかった。対面をきっかけに、歴史的なプロジェクトが始動する。

ナオミの参加は、話題作りのゲスト出演を遥かに超越していた。英語のささやき声は、楽曲に本場のストリート感と圧倒的な国際感覚を注入した。久保田利伸の卓越したリズムセンスと、ナオミの存在感が融合し、唯一無二の世界観を構築していく。

職人技が構築する本場の音像

音楽的な骨組みを構築したのが、久保田利伸のサウンドを支えてきた編曲家、柿崎洋一郎である。柿崎洋一郎の手腕により、本場ニューヨークのR&Bの熱量が、日本のリスナーの耳に馴染むポップスとしての最適解を導き出した。

冒頭の爽快な唄いだし、弾むベースラインと正確に刻むカッティングギター。音の隙間を計算し尽くしたプロダクションは、当時の主流だった歌謡曲的なサウンドとは一線を画していた。シンセサイザーの音色やドラムの質感に至るまで、徹底的にアメリカのストリートの空気を再現している。

久保田利伸のボーカルも美学を見せる。リズムの波に身を委ねて軽快にステップを踏む歌唱。言葉のイントネーションをメロディと一体化させ、日本語でありながら英語を聴くかのような錯覚を引き起こす。ナオミの声が重なることで音の立体感が膨らみ、180万枚超という途方もないセールスを記録する原動力となった。

現代の夜を走る都市の音像

深夜、都会の高速道路を走る自動車の車内。フロントガラスに映るビルの明かりやテールランプの列を眺めるとき、カーステレオから流れる心地よいリズムは、空間を一瞬にしてドラマティックな舞台へと変貌させる。日常の退屈な移動時間を、華やかで少し贅沢な時間へと鮮やかに塗り替える。

仕事を終えて解放感に浸る部屋のスピーカー。あるいは週末の夕暮れ、賑わう街を歩くヘッドフォンの奥。どのような場面であっても、グルーヴが鳴り響いた瞬間、周囲の風景は色鮮やかな輝きを帯びる。

言葉の壁も時代の境界も飛び越え、洗練されたリズムと歌声は、忙しない現代を生きる人々の心に確かな高揚感をもたらす。楽曲を聴きながらスーパーボールを握れば、たちまち目の前に特別な夜がやってくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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