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25年前、ポップスの皮を被った「剥き出しのロック」の名曲 時代という境界線を飛び越えた理由

  • 2026.5.6

2001年4月。劇場の暗がりに身を沈め、スクリーンから放たれる圧倒的な作画の熱量に息を呑む人々。そこには、川尻善昭監督が描き出す映画『バンパイアハンターD』の、耽美で退廃的な未来の景色が広がっていた。

終演後、エンドロールと共に響き渡ったのは、物語の余韻を鮮やかな色に塗り替えていく、あまりにも真っ直ぐなギターの音色だった。

Do As Infinity『遠くまで』(作詞・作曲:D・A・I)ーー2001年4月25日発売

デビューから約1年半、ユニットとしてのアイデンティティを確立しつつあった彼らが、8枚目のシングルとして世に放った一曲である。それまでの叙情的なイメージから一転、ポップさとロックのダイナミズムを極限まで融合させたこの楽曲は、彼らの音楽的冒険における「第二章」の幕開けを告げる象徴的なファンファーレとなった。

緻密に計算された「空間」と「重力」の制御

サウンドプロデュースの根幹を支えるのは、職人的なこだわりが凝縮されたアレンジメントだ。制作陣には、後の音楽シーンを牽引する亀田誠治が名を連ねている。特筆すべきは、イントロから一気にリスナーを引き込む、アコースティックギターとエレキギターの完璧な棲み分けである。乾いたカッティングがリズムの骨格を作り、そこに歪みを抑えたクリアなギターが重なることで、単なる「激しさ」ではなく「音の広がり」を視覚化することに成功している。

この「空間の魅せ方」こそが、本作の白眉といえる。録音段階で施されたであろう奥行きの処理は、スピーカーの向こう側に無限の荒野を想起させる。低域を支えるベースラインは、心臓の鼓動を急かすような一定のビートを刻みながら、サビに向かってなだらかに、かつ確実に熱量を上昇させていく。この重力からの解放を感じさせる疾走感こそ、ロックバンドとしての体温を感じさせる最大の要因だ。

物語との共鳴も忘れてはならない。映画『バンパイアハンターD』の主題歌として制作された背景があり、ゴシックでダークな世界観を内包しながらも、楽曲自体は外へと向かう強烈なエネルギーに満ちている。この対比が、過酷な運命に抗いながら旅を続ける主人公の孤独と決意を、より多層的に描き出しているのである。

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2001年8月、「花王ラビナス新商品CM発表会」で取材を受けるDo As Infinityのボーカル・伴都美子(C)SANKEI

身体性を伴うボーカルが導く「共鳴」の回路

その音像の真ん中で、凛として響くのが伴都美子の歌声である。彼女のボーカルは、甘く囁くような技巧に頼るのではなく、肺の奥にある空気をすべて放出し、言葉に意志を宿らせるような身体性を伴っている。伸びやかで混じり気のない高音域が、重厚なバンドアンサンブルを突き抜けてくる快感。それは聴き手の耳を塞ぐのではなく、心の扉を力強くノックする。

楽曲は、ライブの現場においても特別な意味を持ち続けてきた。曲の唄い出しがはじまった瞬間、会場の空気が一変し、数千人の観客が一つになる光景。リリースから四半世紀が経過してもなお、色褪せることのない熱量を保っている。作り手が込めた「ポジティブなエネルギー」が、ステージと客席という垣根を超えて循環し、巨大なうねりとなって昇華される。 その様は、音楽が持つ根源的な喜びそのものである。

制作当時、ユニット内ではポップスとしてのキャッチーさと、ロックとしての矜持をどう両立させるかという議論が繰り返されたという。その結論として提示された「遠くまで」というタイトルは、文字通り、時代やジャンルという境界線を飛び越えて、より多くの人々の記憶に到達したいという彼らの「アーティスト宣言」でもあった。

終わりなき疾走の断片

日常の景色は、ふとした瞬間に彩りを失う。単調な作業の繰り返しや、出口の見えない思考の渦。そんな停滞した空気を切り裂くのは、あの時と同じ、迷いのない弦の響きだ。

ヘッドフォンから流れる旋律は、停滞した意識を強制的に未来へと接続する。歩みを止めたくなる瞬間、この一曲が背中を押すのは、そこに嘘偽りのない「生の躍動」が刻まれているからに他ならない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。