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1991年の空気を浄化した「鋼のハイトーン」 35年前の光の粒子が、今も色褪せない理由

  • 2026.5.5
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※ChatGPT Images 2.0にて作成(イメージ)

1991年4月。まだCDショップの店頭には、縦長のプラスチックケースに収まった8cmシングルが整然と並んでいた。手に取ると、その薄さと軽さが不思議な期待感を抱かせる。

シュリンクラップを剥がし、トレイを折り曲げないように慎重にディスクを取り出す。ポータブルCDプレーヤーの蓋を開け、センタースピーカーに銀色の円盤を固定する。再生ボタンを押した瞬間に響き出すのは、圧倒的な清潔感と都会的な疾走感だった。

KATSUMI『Just time girl』(作詞:渡辺克巳/作曲:渡辺克巳・石川洋)ーー1991年4月25日発売

デビューから1年。驚異的なハイトーンと、端正な佇まいで音楽シーンへと躍り出た彼が放った4枚目のシングル。それは、単なるタイアップ曲の枠に収まらない、1990年代という新しい時代の幕開けを象徴するような一曲であった。

鏡の中に映る、新しい自分への境界線

この楽曲が、花王の化粧品「エチュール」のCMソングとして茶の間に流れたとき、多くの人々がその「声」に耳を奪われた。CMの中に映し出される洗練された日常と、どこまでも高く伸びていくKATSUMIの歌声。そこには、高品質なライフスタイルを求める当時の空気感が凝縮されていた。

朝の光の中で身支度を整える瞬間、あるいは都会の雑踏を歩き出す一歩。日常の何気ないシーンに、この曲は劇的な彩りを与えていた。単に耳心地が良いだけでなく、聴く者の背筋を自然と伸ばし、視線を少しだけ上に向かわせるような、不思議な磁場を持っていたのだ。 30万枚を超えるセールスという数字は、この楽曲が放つ「清潔なエネルギー」が、いかに多くの人々の生活に必要とされていたかを物語っている。

楽曲の冒頭、華やかなシンセブラスの音色と共に刻まれるタイトなリズム。そこへ是永巧一の手によるエッジの効いたギターが重なり、一気に視界が開けていく。是永の編曲は、ポップスの王道を行きながらも、随所にロックのダイナミズムを潜ませている。その絶妙なバランスが、楽曲に「甘さ」だけでない「芯の強さ」をもたらし、時代を経ても古びない強度を与えたのである。

鋼のような意志を秘めたハイトーン

KATSUMIというアーティストの最大の武器は、何と言ってもそのボーカルスタイルにある。高音域を駆使しながらも、決して聴き手に圧迫感を与えない。むしろ、空気を浄化していくような透明感が際立っている。サビに向けてなだらかに、かつ力強く加速していくフレーズは、まるで重力から解き放たれていくような感覚をリスナーに抱かせる。

彼自身が作詞を手がけた言葉の数々は、具体的なストーリーを押し付けるのではなく、あくまで「感情の断片」として提示される。「Just time girl」というフレーズが象徴するように、今この瞬間を生きる決意や、変化を恐れない心の揺らぎ。それを、飾らない言葉で、しかし最大限の説得力を持って歌い上げる。

追いかけ続ける、止まらない光の粒子

街の景色は移ろい、音楽を取り巻く環境も劇的に変化した。8cmシングルを再生するための機器さえ、日常からは姿を消しつつある。しかし、この曲のイントロが鳴り出した瞬間に広がるあの眩しさは、何一つ損なわれていない。

私たちは今、あの頃の自分が憧れていた「大人」になれているだろうか。そして、鏡の中の自分に向かって、あの頃と同じような清々しい問いかけを投げかけることができているだろうか。

加速する時間の中で、ふと立ち止まり、この「光の旋律」を浴びてみる。そこには、どれほど時代が変わろうとも決して色褪せることのない、純粋な「意志」が今も静かに、しかし力強く脈打っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。