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心のバランスを崩し希死念慮を抱えた女性。死にたい気持ちを受け入れながら、日々のなかで見つけた美しいものから「明日」を見出していく【書評】

  • 2026.3.28

【漫画】本編を読む

「死にたい」と思ってしまうことを、生きるための問いかけに変える――。『死にたがりやさんの明日生きるため日記』(加藤かと/オーバーラップ)は、「希死念慮」を抱える女性が、日々「小さな美しさ」を見つけながら生をつないでいく姿を描いたコミックエッセイだ。

主人公は40歳の漫画家・日向ニジコ。母親からの心ない言葉や、初恋の人の自死がきっかけとなり、彼女の心は長くバランスを崩していた。結婚し、ふたりの子どもを育てる日常の中でさえ「子どもの巣立ちを見送ったあとで死にたい」と思ってしまうこともあるという彼女は、その日に見た美しいものをひとつずつ丁寧に日記として描き、なんとか「明日」を生きようとする。

本作の特徴は、死にたい気持ちそのものを正面から受け止めながらも、そこに寄り添い、希望を探すプロセスを誠実に描いている点だ。「希死念慮」という深刻なテーマは、一般には理解されにくく、しかもタブー視されがちだ。ニジコが気分の波や過去のトラウマと向き合いながら、心にある「希死念慮」が肥大することを必死に御していく姿を描くことで、読み手に「死の身近さと、生きることの感触」をそっと伝えてくれる。

さらに印象的なのは、ニジコが日常のささいな出来事に意味を見出す瞬間の描写だ。笑っている間は生きている実感があるという彼女が、ウォーキング中に出会った風景や子どもとの思い出、そして家族の何気ないやりとりなどから喜びの瞬間を拾い上げる。そのひとつひとつが、死にたい気持ちと生きたい気持ちの交差点にいるニジコを生に繋ぎとめるのだ。

本作は単なる心の記録ではなく、「死にたい」と思うほどの心の闇を抱えたニジコが、少しずつ光を取り戻していくプロセスの記録である。ニジコが日々「生きることの根拠」を見つけるためにつける日記は、同じような気持ちを抱いたことのある人に優しい共感をもたらすだろう。それでも人生は美しい、と逆説的に証明してくれる稀有な作品だ。

文=練馬麟

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