1. トップ
  2. 雨こそ「絶好の訓練日和」。東日本大震災から15年、北関東3県警がモビリティリゾートもてぎで初のオフロード合同訓練

雨こそ「絶好の訓練日和」。東日本大震災から15年、北関東3県警がモビリティリゾートもてぎで初のオフロード合同訓練

  • 2026.3.6

東日本大震災の発生から、まもなく15年。いつ起こるかわからない大規模災害に備え、警察の「広域緊急援助隊」は日々訓練を重ねている。彼らは、1995年の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて設立された災害対策の専門部隊だ。大規模な災害が発生した際、都道府県の枠を超えて広域的に即応し、高度な救出救助能力と、現場で自己完結して活動できる自活能力を備えている。

栃木・茨城・群馬の3県警による合同訓練。訓練後のリラックスした表情 【撮影=阿部昌也】
栃木・茨城・群馬の3県警による合同訓練。訓練後のリラックスした表情 【撮影=阿部昌也】

過酷な現場の最前線へいち早く飛び込む彼らにとって、機動力は命だ。2026年3月3日、栃木県茂木町の「モビリティリゾートもてぎ」を舞台に、栃木・茨城・群馬の3県警による初の合同オフロード公開訓練会が行われた。あいにくの雨が降りしきる中、約20名の隊員たちが、災害現場を想定した過酷なコースで真剣な眼差しをバイクに向けていた。

プロの視点が引き出す、現場での対応力

会場となったのは、岩場が連なり、長年トライアル世界選手権の舞台として使われてきた起伏の激しいエリア。講師として招かれたのは、国際A級スーパークラスを通算14回制覇した日本を代表するライダー、小川友幸選手だ。倒壊した建物や寸断された道路など、大型車両の進入が阻まれる災害現場では、オフロードバイクの走破性が情報収集の要となる。

小川友幸選手が基本姿勢のライディングを実演してレクチャー 【撮影=阿部昌也】
小川友幸選手が基本姿勢のライディングを実演してレクチャー 【撮影=阿部昌也】
ときには、マンツーマンでアドバイスすることも 【撮影=阿部昌也】
ときには、マンツーマンでアドバイスすることも 【撮影=阿部昌也】

「災害地は道が整地されていない場所を走ることになるので、トライアルの技術は非常に重要です」。小川選手はそう語り、悪路を走破するための「ライディング姿勢」など基礎的なスキルの徹底に注力した。日頃から訓練を重ねる隊員たちの技術は、プロから見ても「一般のライダーよりも断然うまい」という。

指導にあたったトライアル選手権のレジェンド小川友幸選手 【撮影=阿部昌也】
指導にあたったトライアル選手権のレジェンド小川友幸選手 【撮影=阿部昌也】

しかし、災害の現場ではさらなる対応力が求められる。「皆様もともとスキルはありますから、トライアルのテクニックを少し理解していただくと、安全にその目的地にたどり着くことができる。さらに上を目指していただければという点を意識して指導しました」と、言葉に熱を込めた。

背中には各県警の名前があるものの、目的はひとつ。小川選手の話に熱心に耳を傾ける隊員のみなさん 【撮影=阿部昌也】
背中には各県警の名前があるものの、目的はひとつ。小川選手の話に熱心に耳を傾ける隊員のみなさん 【撮影=阿部昌也】

プロの指導にじっと耳を傾け、自らもバイクを走らせた栃木県警の坂井小隊長は、「しっかり基本が大切なんだなとあらためてわかりまして、基本に忠実にやっていけば、そういった現場でもお役に立てるのかなと思いました」と振り返る。隊員たちはジグザグ走行や、落ち葉で滑りやすい険しい路面に果敢にアタックを繰り返し、泥まみれになりながら技術を身体に染み込ませていった。

冷たい雨も、絶好の「訓練日和」

この日の空は重く、冷たい雨が降り続いていた。普段であれば敬遠したくなるコンディションだが、災害は天候を選んではくれない。東日本大震災の発生当時、一人の隊員として被災地へ派遣された経験を持つ坂井小隊長は、当時の記憶を噛み締めるように語る。

「東日本大震災のとき、私は隊員として現場に出向させていただきました。そのとき現場では、とてもやっぱりひどい状況になっておりまして…」

まずはウォーミングアップとして、立ち姿勢でのライディングからスタート。林の木の間を、スラローム状に走り抜けた 【撮影=阿部昌也】
まずはウォーミングアップとして、立ち姿勢でのライディングからスタート。林の木の間を、スラローム状に走り抜けた 【撮影=阿部昌也】

現場を知るからこそ、訓練に向き合う覚悟は揺るぎない。「本日はあいにくの雨でしたが、現場でもいつどこで雨が降るか、雨だけじゃなくて雪も降るかもしれませんので、絶好の訓練日和であったと思います」。今回の厳しい環境での訓練こそが、命を救う最前線で必ず生きる。「今回こういうふうに練習の機会を設けさせていただいてとても感謝していますし、それが現場でも使えるというのを自分でも実感しております」と、静かに、しかし力強く語った。

顔を合わせて深まる絆。北関東3県警がモビリティリゾートもてぎで高めた災害への対応力

今回が初めてとなる3県合同での訓練は、技術の向上にとどまらず、有事の際の連携を深める貴重な場にもなった。

雨で濡れた悪路も、訓練にとっては絶好のコンディション。草木や泥を跳ね上げ、ダイナミックに走り抜けた。訓練が始まると会場周辺は土の香りが漂っていた 【撮影=阿部昌也】
雨で濡れた悪路も、訓練にとっては絶好のコンディション。草木や泥を跳ね上げ、ダイナミックに走り抜けた。訓練が始まると会場周辺は土の香りが漂っていた 【撮影=阿部昌也】

「3県で合同で訓練することは今回が初めてでしたが、やっぱり3県で直接顔を合わせて訓練できたことによりお互いの連携が取れ、今後現場でも活躍できるのかなと思いました」と、坂井小隊長は確かな手応えを口にする。そして、この日得た学びを部隊の先へとつなぐ決意をこう語った。「教えていただいたことを自分なりに理解して、新たに隊員たちに伝達して、総合的に底上げしていければなと思います」

【写真】訓練終盤。隊員たちのライディング姿勢は、素人が見ても明らかに変化が感じられた 【撮影=阿部昌也】
【写真】訓練終盤。隊員たちのライディング姿勢は、素人が見ても明らかに変化が感じられた 【撮影=阿部昌也】

泥を跳ね上げ、雨に打たれながらも、ひたむきに前を見据える隊員たち。その背中からは、一人でも多くの命を救うための、静かな熱意が伝わってきた。合同訓練で得た確かな技術と強い結束力は各県へと持ち帰られ、いざという時の大きな力へと変わっていく。いつか来るかもしれない「その時」に備え、彼らは今日も走り続けている。

取材・文=北村康行 撮影=阿部昌也

元記事で読む
の記事をもっとみる