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「セダン車、どこが悪いか今すぐ教えて」実車も見ずに電話…→整備業界8年のプロが青ざめた、“お粗末な同業者”

  • 2026.3.3
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出典:PhotoAC ※画像はイメージです

みなさま、こんにちは。元自動車整備技術アドバイザーの松尾です。

「セダン車のエンジンの吹け上がりが悪いんだけど、どこが悪いか今すぐ教えてほしい

ある日、自動車整備工場からこんな電話相談がかかってきました。車種と症状は聞かされましたが、それ以上の情報はありません。

「現車は見ましたか?」「点検はしましたか?」と尋ねると、返ってきたのは「まだ何もしていない」という答え。

正直、電話越しに少し青ざめました。

故障診断は“推理ゲーム”ではない

自動車整備士は別名「カードクター」と言われています。私たちが体調がすぐれないときに行く病院の車バージョンだと思っていただけると、分かりやすいかと思います。今回の一件は、例えると病院に「熱があるから診てほしい」と患者さんが来て、診察をせずに他の病院の医師に「どこが悪いと思う?」と聞いているようなものです。

厳密にいうと、「吹け上がりが悪い」にも様々な症状があります。例えば、「アクセルを一気に踏むと吹け上がらないが、ゆっくり踏むと吹け上がる」といった症状もあります。現車確認をしておけば細かい話ができるのに、それもやっていないような状況でした。また、エンジンの吹け上がりが悪い原因はひとつではありません。

・燃料が足りない
・火花が弱い
・空気の量が正しく計測できていない
・センサーの信号が異常

可能性はいくつもあります。今回のケースで考えられるのは燃料系、点火系、吸気系のトラブル。本来であれば、順番に点検し、不良がないかを一つずつ切り分けていきます。

・燃圧(燃料が圧送される圧力)は正常か。
・スパークプラグ(火花を飛ばす部品)やイグニッションコイル(火花を作る部品)は問題ないか。
・吸気系(人間で例えると、呼吸器系です)に詰まりやセンサーからの異常信号はないか。

こうした確認と検証の積み重ねが「診断」です。結果的にその車の原因は、エンジンに入ってくる空気量を測るエアフローメーターの不良でした。しかし、これは点検を進めた“結果”であって、最初から断定できるものではありません。

実車が目の前にあるのは誰か?

この電話で最も驚いたのは、実車が目の前にあるにもかかわらず、何もせずに「答えだけ」を求めてきたことです。

診断をしないまま原因を決めつけるとどうなるか。

・誤診
・無駄な部品交換
・再修理
・高額な整備費用

最終的に困るのはお客様です。部品を替えても直らず、「やっぱり違いました」と再入庫。時間もお金も余計にかかってしまいます。

実は、こうした姿勢は珍しくない

残念ながら、こうした“診断ゼロ”の相談は珍しくありません。

私はこの電話がかかってきたとき、「またそのパターンか…」とため息をつきそうになりました。当時、部署内でも問題として提起されたことがあります。結論はシンプルでした。

「まずは診断してください」とお願いする。

当たり前のようですが、それしかありません。測るべきものを測り、確認すべきところを確認する。地道な作業の積み重ねが、最短ルートなのです。

これは整備士だけの話ではない

実はこの話、私たちの日常にも通じます。仕事でも家庭でも、「とりあえず答えを教えてほしい」と思う瞬間はありますよね。ですが、自分で調べられる範囲を調べる。状況を整理してから相談する。それだけで、相手との信頼関係は大きく変わります。「原因は何だ?」と焦る前に、「何を確認した?」と問い直す。それが、遠回りのようで一番の近道かもしれません。

車の故障診断も、人生のトラブルも同じ。答えを急がない姿勢こそが、結果的に一番コストを抑え、信頼を積み上げる方法なのです。


筆者:松尾佑人(二級ガソリン・ジーゼル自動車整備士資格保有)
新卒で自動車整備業界に入り約8年、メーカーを問わず現役メカニック向けに故障診断アドバイザーや各種講習の講師として活動。年間約1,200件の技術相談に対応し、電気回路や配線図の読解を基盤とした電子制御システムの解説を得意とする。現在は自動車専門ライターとして、トラブル診断や構造解説、DIY整備まで幅広く分かりやすく発信している。


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