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「そんなこともすぐ分からないの?」整備工場からの電話に絶句…年間1,200件の相談に乗るプロが、あえて『即答』を拒んだワケ

  • 2026.3.4
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

みなさま、こんにちは。元自動車整備技術アドバイザーの松尾です。

技術相談は、本来「分からないことを一緒に解決する場」のはずです。しかし現場では、ときに相手の知識不足を責めるような態度に出る人もいます。

国産メーカーを幅広く扱っていても、すべてを即答できる人間などいません。細部は調べないと分からないことも多いです。そんな当たり前の現実を、あらためて考えさせられた出来事がありました。

電話越しに抱いた違和感

ある日、自動車整備工場から軽自動車について、「走行中にオーバーヒートする」という相談の電話が入りました。症状としては、水温が上昇し警告灯が点灯。確認すると、どうやら電動ファンが作動していない様子。そこで相談の中で、こう聞かれました。

「この車の電動ファンが回り始める水温は何℃だったっけ?」

もちろん、仕組み自体は理解しています。だが、年式や仕様によって制御条件が微妙に違うこともあります。水温センサーの信号値、エアコン作動時の条件、ECU制御の細かな設定など、曖昧な記憶のまま即答して間違ったことを伝えてしまうといけません。私は正直にこう答えました。

私は「正確な数値を覚えていないので、一度、整備解説書で確認させてください」と言うと、返ってきた言葉が、胸に刺さりました。

「そんなこともすぐ分からないの?○○(会社名)の人間なのに?」

私は電話越しに、一瞬黙り込んでしまうと同時に静かな怒りを覚えました。

「即答できない=無知」ではない

現場が忙しいのは百の承知です。相手も早く答えが欲しかったのだろうと思います。しかし、私も同じ人間なので、分かることもあれば記憶から抜け落ちていることもあります。しかも、最近の車は制御が非常に複雑です。同じ車種でも年式やグレード違いで制御内容が変わることは珍しくありません。

冷却ファンの作動条件一つ取っても、単純な水温スイッチ制御ではなく、ECUによる多条件制御になっているケースもあります。曖昧な記憶で「たぶんこうです」と答える方が、よほど無責任です。記憶力は武器になるが、それがすべてではありません。

なぜ対立構造になってしまうのか

本来、技術相談は“協力関係”のはずです。しかし、ときにそれが“知識の優劣を競う場”になってしまうことがあります。読者の中にも職場で似たような経験があるかもしれません。

部下に質問したとき、すぐ答えが返ってこない。つい「それくらい分かるだろ」と言いたくなる瞬間。しかし、相手はもしかすると「正確に答えよう」と調べている最中かもしれません。

知識マウントは、その場の優越感は得られても、信頼は生まれません。むしろ、関係を少しずつ削っていきます。今回の出来事でも、私は謝罪しました。しかし、心のどこかで「これは違う」と感じていました。

理想は“リスペクト”から始まる

車のトラブルは、誰にとってもストレスです。早く直したい、原因を知りたい。その気持ちは当然です。だからこそ大切なのは、互いへのリスペクトだと思います。

分からないことは調べる
・知識を競うのではなく、解決を目指す

家庭でも同じです。子どもに「そんなことも知らないの?」と言えば、会話は止まります。「一緒に調べよう」と言えば、前に進みます。攻撃的な姿勢では、問題は解決しても、人間関係は壊れてしまうことがあります。それは、仕事でも家庭でも避けたいです。知識は誇るものではなく、役立てるものです。そして、信頼は一瞬ではなく、積み重ねでできていきます

電話を切ったあと、私はあらためて整備解説書を開きました。正確な情報を確認し、根拠を添えて回答しました。

“即答できるかどうか”よりも、“正確に伝えられるかどうか”。それこそが、プロとして大切にしたい姿勢だと、私は思っています。


筆者:松尾佑人(二級ガソリン・ジーゼル自動車整備士資格保有)
新卒で自動車整備業界に入り約8年、メーカーを問わず現役メカニック向けに故障診断アドバイザーや各種講習の講師として活動。年間約1,200件の技術相談に対応し、電気回路や配線図の読解を基盤とした電子制御システムの解説を得意とする。現在は自動車専門ライターとして、トラブル診断や構造解説、DIY整備まで幅広く分かりやすく発信している。


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