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「100km超の直通列車が消える」2026年3月、近鉄が大幅削減…鉄道のプロが語る“令和ならではの背景”

  • 2026.3.21
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

普段の通勤や通学で使う駅の電光掲示板を見上げて「宇治山田」「会津田島」「静岡」といった自分がいる場所からはるか遠く離れた街の名前を見つけると、どこか胸が高鳴るような旅情を感じたものです。しかし近年、こうした長距離を走り通す普通列車(快速等含む)が全国的に姿を消しつつあります。

鉄道ファンにとっては寂しい限りですが、その背景には現代ならではの事情が隠されています。今回は、姿を消しつつある長距離普通列車の現状とその理由を紐解きます。

かつての「名物列車」たちの退場

長距離を走る普通列車の代表格といえば、関西と東海を結ぶ近畿日本鉄道(近鉄)の急行でした。大阪上本町駅から三重県の宇治山田駅や五十鈴川駅まで、長いものではおよそ2時間半、100km以上の距離を走り抜ける急行列車は近鉄のスケールの大きさを象徴する存在でした。しかし、2026年3月のダイヤ改正により、日中の直通運行が大幅に削減されることとなりました。

同様の動きは全国で見られます。JR東日本では東京駅から静岡駅まで直通していた普通列車が2012年に廃止となりました。また、東武鉄道でも浅草駅から日光・鬼怒川、さらには野岩鉄道・会津鉄道へ乗り入れて会津田島駅まで結んでいた快速・区間快速が2017年に廃止となりました。

かつては特急料金を払わなくても遠くまで行けるという、利用者にとっての強い味方であったこれらの列車は、なぜ次々と運行区間が分断されているのでしょうか。

乗務員の「働き方改革」と負担軽減

長距離列車の場合、始発駅から終点まで同じ乗務員が乗り続けるわけではなく、途中の拠点駅で乗務員が交代する仕組みをとっています。しかし、それでも長距離列車が絡むようになると乗務の行路(スケジュール)の作成は複雑を極めます。

昨今の「働き方改革」により、乗務員の拘束時間の短縮や休憩時間の厳格な確保が求められる中で、長距離の運行は人員配置の効率を低下させます。運用を細かく区切って整理することで乗務員の負担を平準化し、より柔軟な勤務体系を構築しようとする狙いがあると考えられます。

ダイヤの乱れを「飛び火」させないリスク管理

長距離列車には「遅延の蓄積」という弱点もあります。長距離の運行中、乗降の遅れや接続待ちなどで遅れが発生すれば、それは終着駅まで引きずられて蓄積していき、さらに折り返し列車を通じて反対方向のダイヤまで乱してしまいます。

異なる性格を持つエリア(大都市圏とローカル区間など)を跨いで走ると、あるエリアでの遅れが直接関係のないエリアに波及することも少なくありません。運行区間を分離しておくことで、万が一のトラブルが起きてもその影響を一定のエリア内に封じ込めることができると考えられます。

車両の「性格」と「混雑」のミスマッチ

路線の性格が途中で大きく変わることも長距離列車には逆風となります。

例えば、前述の東武鉄道の快速列車では、長距離利用者の快適性を重視した「セミクロスシート」の車両が使われていました。しかし、この車両が埼玉県や東京都内の通勤ラッシュ区間に差し掛かると、ドア数が少なく立つスペースも少ないために乗降に時間がかかり、日常的な遅延の原因となっていました。

また、南海電気鉄道の難波駅〜極楽橋駅(高野山)を結ぶ直通列車も大幅に削減されました。この区間には、平坦な都市部を高速で走る性能と、高野山の急勾配区間に対応した性能を併せ持った「ズームカー」と呼ばれる特殊な車両が必要です。しかし、全区間を直通させるために特殊な車両を投入するよりも、山岳区間だけを専用車両で往復させ、都市部は一般的な通勤車両で運行する方が、コスト面でもメンテナンス面でも圧倒的に効率的なのです。

今なお残る「長距離の旅情」を楽しむ

効率化の波に押されつつも、今なお長距離を走り続ける列車は存在します。

JR東日本の「上野東京ライン」や「湘南新宿ライン」では栃木県や群馬県から東京都内を通り越して静岡県までといった超長距離運用が今も健在です。また、JR西日本の「新快速」は、福井県の敦賀駅から兵庫県の姫路駅まで関西地方をまさに横断します。その他にも、岡山経由で姫路駅から岡山県の新見駅を結ぶ列車をはじめ、100kmを超えるような列車は地方の路線にはまだまだ残されています。

これらの列車には、新幹線や特急のような華やかさはありません。しかし、窓の外を流れる景色が少しずつ、都市から郊外へ、そして山々へと変化していく様子をゆっくりと味わえるのは普通列車ならではの贅沢です。

時代に合わせた「旅」の再定義

長距離普通列車が減っているのは、鉄道会社が限られた経営資源の中でより効率的な運用を目指した結果であり、ある意味では時代の要請でもあります。かつてのような一本の列車でのんびりと旅情を味わう旅は難しくなっていますが、乗り換えをその土地の空気に触れる機会と捉え直せば、新しい旅の楽しみ方が見えてくるかもしれません。

消えゆく名物列車の歴史に敬意を払いつつ、今なお残る長距離列車のシートに身を委ね、ゆっくりと流れる時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。


参考:2026年3月ダイヤ改正について(近畿日本鉄道 プレスリリース)



ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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