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「なんで呼んだんだ」搬送を拒み怒鳴る夫。妻「さっきまで、違ったんです」元救急隊員が確信した“危険な兆候”

  • 2026.2.22
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。ライターとしです。

今日は私が救急隊として活動してきた中でも、とくに忘れられない「救急車内のドラマ」のお話をしたいと思います。

救急要請に間違いはありません。

ただ救急車という限られた空間では、傷病者の強がりやご家族の覚悟がいっきに表に出ることがあります。

「救急車はいらない」と言うご主人

その夜の指令は「男性の発熱」でした。

現着すると、傷病者の方は玄関先で椅子に座って待っていました。

受け答えはできています。でも、奥さまに対して口調が強い。

こちらにも「大丈夫だ」「救急車はいらん」と拒否的な雰囲気がありました。

一方で奥さまは落ち着かない表情でした。

言葉は丁寧でも、目はずっとご主人を追っていて「熱が高くて心配で…」と伝える声が少し震えていたのを覚えています。

私たちは意識・呼吸・脈拍・血圧・体温など、基本の確認を進めます。
細かい数字は省きますが、このときは熱が高く血圧も低め。

一般的な救急の考え方としては、早めに医療機関で評価を受けたほうが安心につながりやすい状態に見えました。

車内で強くなる言葉、黙ってしまう奥さま

搬送の準備をして救急車内へ移ると、ご主人はさらに拒否的になります。

「病院には行かない」

同乗する奥さまにも「なんで呼んだんだ」と強い口調で言い放つ。

奥さまは言い返せず、小さくうなずくだけでした。

ここで大切なのは、正論で押し切らないことです。救急車内は、言葉がそのまま空気を作ります。

こちらが焦って強く出るほど、相手の拒否は固くなり結果的に搬送が遅れてしまうこともあります。

だからこそ、必要な確認は淡々と進めつつ接し方は崩さないように意識しました。

奥さまの「さっきまで、違ったんです」

ただ、本人が「大丈夫」と言うときほど見えにくくなるものがあります。

そこで私は奥さまにいったん車外へ出ていただき、1対1で状況を伺いました。
責めるためではなく、状況を整理するためです。

奥さまはぽつりぽつりと話してくれました。

「救急車が来るまでは、苦しそうでぼんやりしている感じもあったんです。でも到着した途端、普段どおりに振る舞って…」

本人の口から理由を聞けたわけではありません。

ただ年配の方ほど「我慢するのが当たり前」「迷惑をかけたくない」という感覚が強く、救急隊が到着した途端に気丈に振る舞うことがあります。

だからこそ、同居家族の「いつもと違う」は大事な情報になります。

この言葉で、私の中で点がつながりました。
いま必要なのは「連れて行かれる」ではなく、「行ってみよう」と思ってもらうことだと。

「一緒に選びませんか」で表情が変わった

救急車内へ戻り、ご主人に落ち着いた声で伝えました。

「奥さまは、ご主人のことが心配で救急要請をしました。」
「いま確認できている範囲でも、一度医療機関でみてもらったほうが安心できそうに見えます。」
「何もなければ、それが一番です。奥さまが安心できる形を一緒に選びませんか」

ご主人は最初、目を合わせませんでした。

でも言葉を急がず怒りに反応しすぎず必要な確認を続けるうちに、少しずつ表情が変わっていきました。

しばらくして、短くこう言いました。

「…わかった。行く」

派手な出来事ではありません。

けれど、強がりの裏にある不安と要請者が出した勇気と限られた空間で積み重ねる言葉。

あの夜の奥さまの表情は、いまでも忘れられません。

迷ったときの相談先と通報前にできること

救急車を呼ぶか迷うときは、地域によって運用は異なりますが#7119(救急相談窓口)などにつなぐ選択肢があります。

「今すぐ119か」「様子を見ていいのか」で迷ったら、相談できる窓口があることを知っておくだけでも安心につながります。

また119番の際は、分かる範囲で次がそろっているとやり取りがスムーズです。
・症状の経過(いつから/どう変化したか)
・持病や服薬(お薬手帳や薬袋)
・住所の補足(建物名、入口、階数など)

迷いながらでも相談することが、結果的に大切な人を守る一歩になることがあります。


ライター:とし
元救急隊員。消防で17年、主に救急隊として活動し救急救命士資格を取得。現場経験をもとに、救急の分かりにくい部分を一般向けに噛み砕いて発信しています。