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35年前、フジテレビ番組から誕生した“3人の少女” アイドルの概念を塗り替えた“官能的なラテンビート”

  • 2026.2.28

1991年。時代が少しずつ次のフェーズへと移ろうとしていた頃。音楽シーンでは単なる「可愛らしさ」だけではない、より洗練された響きを求める空気も漂い始めていた。そんな3月の始まりに、ある3人組が放った1曲が、知る人ぞ知る音楽的な衝撃をリスナーの心に刻むことになる。

ribbon『太陽の行方』(作詞:原真弓・作曲:清岡千穂)――1991年3月3日発売

当時、フジテレビの「乙女塾」から誕生した彼女たちは、アイドルとしての王道を歩みながらも、その音楽性においては極めて挑戦的な姿勢を崩さなかった。特にこの6枚目のシングルは、彼女たちのボーカルグループとしての成熟と、制作陣の遊び心が完璧な形で融合した一作として、今なお語り草となっているのだ。

三人の声が重なり、熱を帯びる瞬間の煌めき

ribbonというグループを語る上で欠かせないのは、永作博美、松野有里巳、佐藤愛子の3人が織りなす圧倒的な歌声の安定感である。『太陽の行方』のイントロが流れた瞬間、聴くものはそれまでのアイドルポップスのイメージを鮮やかに裏切られてしまう。そこに広がるのは、情熱的なラテンの情動をはらんだ、どこまでも都会的で洗練された世界観だ。

楽曲を彩るラテン系のサウンドは、単なる味付けの範疇を大きく超えている。パーカッションの乾いた響きや、跳ねていくピアノ、官能的なラインを描くベース、そして熱を帯びたメロディ。それらが複雑に絡み合いながら、聴く者の体温をわずかに上昇させるような不思議な高揚感を生み出している。

この楽曲において、3人の歌声はときにユニゾンで力強く、多層的に響き渡る。彼女たちの声は甘いだけではなく、どこか凛とした強さを秘めており、それがラテンの熱っぽいリズムと絶妙に調和していた。まさに、少女から大人へと移り変わる時期の危うさと美しさが、音の粒子となって空気に溶け込んでいるかのようだった。

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1992年、東京・日比谷野外音楽堂でコンサートをおこなったribbon(C)SANKEI

緻密に組み上げられた、音の迷宮への招待状

この曲を唯一無二の存在たらしめている最大の要因は、西脇辰弥による驚異的なアレンジにあると言っても過言ではない。当時のフュージョンの要素を大胆に取り入れたそのサウンドは、アイドルのシングル曲としては異例なほどに情報量が多く、極めて知的な構成となっている。

特筆すべきは、楽曲全体を貫くテクニカルなアプローチだ。リズムセクションのタイトな組み上げ方は、当時の音楽ファンを唸らせるに十分なクオリティを誇っていた。まるで迷宮を歩んでいるかのような、予測不能でスリリングな展開。一聴するとキャッチーなポップスでありながら、その裏側にはプロフェッショナルな職人技が幾層にも重なっている。

また、作曲を担当した清岡千穂によるメロディも秀逸だ。アップテンポで躍動感がありながらも、サビに向けてじわじわと感情を解放していく構成は、聴き手に心地よいカタルシスを与えてくれる。この緻密なサウンドデザインとキャッチーな旋律の幸せな結婚こそが、リリースから35年を経た今でもこの曲が色褪せない理由に違いない。

春を待ちわびる心に灯る、静かな情熱の火

アイドル冬の時代と言われた時期にあって、ribbonというグループが提示した「音楽的誠実さ」は、もっと評価されるべきものだろう。彼女たちは自分たちに与えられた楽曲の難易度を軽やかに乗り越え、それを自分たちの血肉として表現してみせた。

『太陽の行方』を今、改めて聴き返してみると、そこには当時のクリエイターたちの「最高にクールな音楽を作ってやろう」という熱量と、それに全力で応えた3人の姿が鮮明に浮かび上がってくる。派手な記録には残らなかったかもしれない。けれど、この曲に触れた人の記憶には、春の陽光のような暖かな輝きが、今も確かに残っているはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。