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「2万円で買った激安アルト」が結局一番…1年後、車検時に50代男性を苦しめた“想定外の大誤算”

  • 2026.2.8

 

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出典元:PIXTA(画像はイメージです)

先日、ふらりと立ち寄った居酒屋で、隣に座った男性から興味深い話を聞きました。もうすぐ還暦を迎えるという彼は、「通勤用だし動けばいい」と2万円で手に入れた古い軽自動車が、結果的に高い授業料になったというのです。

エアコンの故障、車検での想定外の出費、そしてタイヤに潜んでいた危険な兆候。安さの裏に隠れていた更なる劣化と、彼が最後に新車を選んだ理由について、その夜の会話を振り返りながらお話しします。

「2万円の車」に乗っていた男性の失敗談…

先日、仕事帰りにふらりと立ち寄った赤提灯の居酒屋でのことです。

カウンターの隣に座っていた、50代の終わりか、もうすぐ60代に手が届くかどうかといった年頃の男性と、何気なく言葉を交わすことになりました。

お互いのグラスが空き、少し酔いが回ってきた頃、話題は「車の買い替え」について及びました。彼はジョッキを傾けながら、どこか自嘲気味にこう切り出しました。

「実はな、少し前まで『2万円の車』に乗っていたんだよ。でも結局、それが一番高くついてしまってね……」

その言葉には、単なる失敗談以上の、深い実感が込められているように感じられました。今回は、その夜に私が聞いた、ある「格安車」をめぐる実録をお話ししたいと思います。

「2万円のアルト」との出会い。確信していた勝利

男性の話によると、それは知人から「廃車にするくらいなら」と譲り受けた、かなり年季の入ったスズキ・アルトだったそうです。

彼にとって、片道たった2kmの通勤のために、何十万、何百万という大金を車にかけることは、少し気が引けることだったといいます。「雨風がしのげて、会社へ行ければそれで十分」。そう割り切っていたのです。

家族からは「またそんなボロをもらってきて」と呆れられたそうですが、彼は内心で「いい買い物をした」とほくそ笑んでいました。浮いた予算で何をしようか、そんな皮算用をしている時が一番楽しかったと、彼は懐かしそうに目を細めました。

実際、手元に来た車は外装に目立つ錆(さび)もなく、エンジンを回せば軽快に走ったそうです。「ほら見ろ、全然問題ないじゃないか」。最初の数ヶ月は、まさに賢い消費者になった気分だったといいます。しかし、そんな「いい気分」は、そう長くは続きませんでした。

最初の誤算。エアコン故障と「我慢」の日々

流れが変わってしまったのは、翌年の夏のことだったそうです。いつものように出勤しようとエンジンをかけ、エアコンのスイッチを入れたものの、待てど暮らせど生ぬるい風しか出てきません。

馴染みの整備工場に見てもらうと、エアコンの主要部品が壊れているとの診断。修理するには部品代と工賃を合わせて、数万円はかかると告げられてしまいました。

車体価格2万円の車に、その数倍の修理費をかけるべきか。彼は悩んだ末に、修理を見送るという判断を下しました。「通勤はたった10分程度だ。窓を開けて走ればなんとかなる」。そう自分を納得させたのです。

しかし、その判断が生活の質をじわじわと削っていきました。近年の猛暑は想像以上です。朝から汗だくになって出社し、帰宅時も蒸し風呂のような車内に乗り込む毎日。「節約のため」という理由こそありましたが、それは単なる我慢の連続でしかなく、次第に車に乗ること自体が億劫になっていったそうです。

車検での衝撃。「安く通す」つもりが高額出費へ

エアコンなしの過酷な夏をなんとか乗り切り、ようやく涼しくなってきた頃、次に彼を待ち受けていたのは「車検」という現実でした。「まあ、走っていて違和感はないし、最低限の整備で安く通せるだろう」。彼はそう甘く考えていたといいます。

ところが、事前見積もりの結果は予想外のものでした。整備士に呼ばれて車の下を覗き込むと、足回りの重要な部品を守る「ゴム製のカバー」が経年劣化でパックリと割れていたのです。

「あまり走っていなくても、ゴムは時間とともに硬くなって割れてしまうんだよ。このままじゃ車検に通せないね」

整備士の言葉に、彼は返す言葉もなかったそうです。エンジンが元気でも、ゴム製品は時間とともに確実に朽ちていく。「距離を走っていないから大丈夫」という理屈は、経年劣化の前では通用しませんでした。

さらに、ブレーキ周りの部品の摩耗も見つかり、結局、車検を通すためには車体価格を遥かに超える出費が必要になりました。

「ここで直さないと、これまでの維持費が無駄になる」

そんな思いも働き、彼は渋々修理を依頼したそうです。

決定打となったタイヤのコブ。そして「見えない恐怖」

高額な車検を通し、「これであと2年は安泰だ」と自分に言い聞かせた矢先のことです。走行中にハンドルから「ゴトゴト」という不気味な振動が伝わってくるようになりました。

車を降りてタイヤを確認した彼は、背筋が凍るような思いをしたといいます。タイヤの側面の一部が、たんこぶのようにポッコリと膨らんでいたのです。

これはタイヤ内部の補強材などが損傷することで生じる現象で、最悪の場合、破裂してもおかしくない危険な状態だといいます。一見すると、タイヤの溝はまだ残っていましたが、ゴムそのものが古く、限界を迎えていたのでしょう。

「このまま走り続けて、もしタイヤが破裂したら……」

彼の通勤路には交通量の多いバイパスもあります。もしそこで事故を起こしたら、自分だけでなく他人を巻き込むかもしれない。その時、彼の中で何かがプツンと切れたそうです。

「もう、やめよう」

エアコンの我慢、車検での想定外の出費、そして安全への不安。「安く済ませる」ために払ってきた代償が、あまりにも大きすぎると気づいた瞬間でした。いつ止まるかわからない車に乗り続けるストレスは、金銭的なメリットを遥かに上回っていたのです。

新車への乗り換えは「贅沢」ではなく「合理」だった

その後、彼は思い切ってダイハツのタフトを新車で購入したそうです。「新車なんて贅沢だと思っていたけどね」と彼は焼き鳥を頬張りながら笑いましたが、そこには以前とは違う納得感があるようでした。

エアコンは涼しい風を送り出し、足回りからの異音に怯えることもない。何より、「次の車検までは、消耗品の交換以外で大きな出費はないはずだ」という予測ができることが、これほどまでに精神を安定させてくれるとは思いもしなかったといいます。

もちろん、格安の中古車を一概に否定することはできません。自分で整備ができる方や、車の状態を細かく目利きできる方にとっては、宝の山に見えることもあるでしょう。

しかし、彼のように「ただ安く移動したい」という動機だけで手を出すと、見えない劣化という「負債」を後からまとめて支払うことになりかねません。

格安車を選ぶ際に本当に見るべきポイントは、ボディの艶や走行距離の数字だけではないのでしょう。ゴム類は生きているか、エアコンは冷えるか、整備記録はあるか。つまり、「買った瞬間の安さ」ではなく、「次の車検まで平穏に走れる確度」を見極めること。

「高い授業料だったけど、いい勉強になったよ」

そう言って飲み干した彼のグラスを見つめながら、私は妙に納得してしまいました。車の価値とは、単なる移動手段としての機能だけでなく、日々の「安心」を買うことにあるのかもしれません。



ライター:根岸 昌輝
自動車メーカーおよび自動車サブスク系ITベンチャーで、エンジニアリング、マーケティング、商品導入に携わった経験を持つ。
現在は自動車関連のライターとして活動し、新車、技術解説、モデル比較、業界動向分析など、業界経験に基づいた視点での解説を行っている。


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