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共演者も驚愕した“10分間長台詞”、日本のテレビドラマの傑作で名女優が披露した“圧巻のパフォーマンス”

  • 2026.2.20

日本のテレビドラマの傑作を何か一本挙げろと言われたら、筆者はまずこれを挙げるだろう。坂元裕二が脚本を担当したフジテレビのテレビドラマ『それでも、生きてゆく』(2011年放送)は、一つの少年犯罪をめぐる、加害者家族と被害者家族の心の交流を描いた作品だ。テレビドラマの枠組みでこうした物語を成立させた坂元裕二の脚本力と、人間の深い悔恨と贖罪意識と晴れない苦しみを体現した役者たちの魂のこもった芝居に心打たれる物語だ。

物語を通じて実感するのは、時に人は分かり合うことができないという諦念と絶望と、同時に分かり合えないと思われていた人々でも分かり合えるという希望があるということだ。その相反する要素を一つの物語に同時に存在させた驚くべき傑作だ。

加害者家族と被害者家族の苦しみが共鳴する

90年代のある日、中学生が5歳の女の子の頭をトンカチでたたいて殺害し、遺体を湖に投げ込むという事件が発生した。その被害者遺族である深見家は、その事件以来深い悲しみと喪失感に包まれ、両親の深見達彦(柄本明)と響子(大竹しのぶ)は離婚。被害者の女の子の2人の兄、長男の洋貴(永山瑛太、旧芸名:瑛太)は父に、次男の耕平(田中圭)は母に引き取られていた。

事件から15年後の2011年。達彦は人生の最後に加害者に復讐しようと現在の居場所を探し出そうとしている矢先に亡くなった。その遺志を継いだ洋貴は、その加害者の行方を突き止め、ナイフを持って会いに行くことを決意する。

その加害者とは、洋貴の元友人の三崎文哉(風間俊介)だった。洋貴の復讐は文哉の妹である双葉(満島ひかり)に止められる。その時から、洋貴と双葉を中心に、加害者家族と被害者家族の交流が始まってゆく。

大切な家族を無残に殺された深見家の立場からすれば加害者家族も許せるものではない。しかし、加害者家族も世間からの冷たい目線にさらされ、多くの引っ越しを余儀なくされるなど、辛い人生をおくっている。一体、だれの責任でこのような悲劇が起きたのか。ともに社会から隔絶されたかのように生きざるを得なかった2つの家族は、少しずつ交流をするようになっていき、互いの苦しさを共有し始める。

喪われた命はどうあっても戻ってこない。残された被害者家族は、文哉が事件のことを反省することを求めている。物語は、文哉は本当に反省しているのかどうかが後半では焦点になっていく。

物語として視聴者が期待するのは、文哉が心から自分の行いを反省し、悔い改めることだろう。しかし、このドラマがすごいのは、そう安易な方向に行かなかったことだ。

最終的に、文哉は反省していなかった。自分は加害者ではなく、このような犯行をしてしまうまでに追い込まれたかわいそうな人間だという被害者意識で満ちていた。妹の双葉や洋貴の願いもむなしく、彼は自分の犯した罪に向き合えておらず、再び凶行に及んでしまう。

それゆえに、2つの家族の苦しみはドラマが終わった後でも続いていくだろう。『それでも、生きてゆく』というタイトルの重みは全編通して見た時に一層深い意味を問いかけてくるような気がするのだ。

10分に及ぶ大竹しのぶの圧巻の長台詞

安易な方向に逃げなかった坂元裕二の脚本もすごいが、それに応えた役者たちの熱演もまた素晴らしい。
主演の永山瑛太と満島ひかりの芝居が素晴らしいのはもちろん、わきを固める家族を演じたベテラン俳優たちの存在感がこのドラマの重厚さを支えている。

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大竹しのぶ(C)SANKEI

中でもとりわけ視聴者を圧倒するパフォーマンスを披露したのは、大竹しのぶだ。離婚して別の男性と再婚し、一見すると幸せな家庭に収まっているように見えた彼女の心の闇が描かれる5話では、約10分にも及ぶ長セリフがあるが、一瞬たりとも見逃せないし、聞き逃せない迫力に満ちている。

それは共演者にとっても驚くほどの名演だったようだ。永山瑛太は、座談会にて撮影当時のことをこう振り返っている。

僕も、同じようなことが起きていたと思います。響子の第5話の長台詞(※娘を亡くして15年経ち、初めて母としての本当の思いを吐露するシーン)も、それを聞いて洋貴が涙するなんて脚本にはどこにも書かれてないんですけど、僕はあの長台詞を聞くたびに何度でも涙が出てきてしまったんですよね。芝居じゃなくなっちゃってたんですよ、もう。
出典:座談会「12年経った今だからこそ、消化できたものがある」 坂元裕二『それでも、生きてゆく』刊行記念 巻末座談会公開!(抜粋・前編)

また、物語の鍵となる文哉を演じた風間俊介の名演も見逃せない。文哉のポイントは深層心理がわからないことにある。一体何を考えているのか、その心の奥底が見えない不気味さがこの作品をスリリングなものにしていた。視聴者にとってヘイトが溜まる役柄にも臆せず挑み、見事に大役を果たしている。

彼の佇まいを通して、分かり合えない人間もこの世界にはいるという残酷な現実が描かれている。そんな残酷な現実の一方で、加害者家族と被害者家族が分かり合える可能性も描いているからこそ、本作は傑作なのだ。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi