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朝ドラで意外な“蛇足的展開”の真意とは「あまりにも」「必要だった?」残りの話数が少ないなかでの騒動に“疑問の声”

  • 2026.2.20
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『ばけばけ』第20週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』第20週「アンタ、ガタ、ドコサ。」でメインに描かれたのは、新しい熊本での平穏な暮らしと、それらが生み出した暇、そしてヘブン(トミー・バストウ)のスランプと“焼き網事件”だった。残りの話数が少ないなかで、SNS上でも「あまりにも平和すぎ」「この展開必要だった?」と声があがるほど蛇足感が否めない週となったが、騒動の果てに見つかったのは“人の心”だった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

平和な熊本、ヘブンのスランプ

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『ばけばけ』第20週(C)NHK

松江を離れ、熊本での新生活が始まったトキ(髙石あかり)やヘブンたち。女中のクマ(夏目透羽)や居候で錦織の弟・丈(杉田雷麟)、正木(日高由起刀)も加わっての新天地には、高揚がつきものだろう。

しかし、ヘブンを待っていたのは、寒さとスランプだった。板書の最中、手がかじかみチョークを落とすほどの寒気。教員室のストーブはマッチを探して自分でつけろ、と淡々と言われる環境。松江にあった情緒や人のざわめきは、ここにはない。

日本の古き良きものが、熊本には見つからない……そう嘆くヘブンの姿は、まさに作家としてのスランプそのもの。松江では、怪談や偏見も含め、創作意欲を刺激する“物語”が溢れていた。熊本は整っていて、穏やかで、文明的である。その整然さが、逆に彼の筆を鈍らせている。

常に隣にいた錦織が、今はいないという事実もヘブンを苦しめているだろう。人力車に乗った横の空白は、孤独をいっそう強調する。インスピレーションが枯れるとき、人はどうしても環境のせいにしたくなるものだ。しかし実のところ、心のどこかに別れの痛みが残っていると考えるのが自然である。

一方、松野家では女中のクマが働き者ぶりを発揮している。炊事も洗濯も完璧にこなす彼女のおかげで、トキも母のフミ(池脇千鶴)も、父の司之介(岡部たかし)だって“何もしなくていい”時間を手に入れた。しかしそれは贅沢であると同時に、苦痛でもある。SNSも娯楽もない時代、暇は人を暴走させる。

迷走する松野家と“焼き網事件”

司之介は、またしても怪しげな投資話に手を出す。小豆関連の投資なんて、ようやく借金地獄から解放されたはずの男が、ウサギ投資で痛い目を見たはずの彼が、なぜふたたび危ない橋を渡ろうとするのだろうか。

ヒリヒリした、生きた心地を味わいたい……司之介が語った心境は、朝ドラらしいダメ親父の業の深さを物語る。安定は安心をくれるものの、刺激はくれない。司之介は、波乱のなかに自分の存在価値を見出そうとしたのだろう。

そんな最中に起こったのが、朝食用の焼き網が消える“焼き網事件”である。司之介が冗談混じりに、焼き網を盗んだ犯人はこのなかにいるのでは、と発言したことで、居候の正木が本気の推理を始める。パンより米を好む父、役割を失った母と娘。動機は揃っているように思える。

コミカルなはずの推理は、いつしかギスギスした空気を生む。同時に描かれた丈とクマの、勝手にパンが焼ける機械があったらいいね、と便利な未来を夢想する会話は微笑ましかったものの、突如松野家を包んだ疑心は消えない。

優しい嘘が呼び戻した“作家・ヘブン”

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『ばけばけ』第20週(C)NHK

焼き網騒動に追い打ちをかけるように、丈の懐中時計が盗まれた。しかしそれは、焼き網の件に深く責任を感じ、女中をやめようとまでしているクマを守るための、優しい嘘。さらに正木も、松野家を包む空気を変えるため、財布が盗まれたと嘘を重ねる。

誰も犯人にしないための嘘。疑いが膨らむ家のなかで、二人の若者は優しさを選んだ。その姿を目にしたとき、ヘブンのなかで何かが弾ける。熊本には何もないと思っていた。しかし、ここにも“人の心”は確かにあった。ただ、誰かを守ろうとする心。

机に向かい、ペンを走らせるヘブン。書き物を邪魔され「シャラップ!」と怒鳴る姿は、松江編で見せた“作家の顔”そのものだ。没頭し、周囲が見えなくなるあの姿に、トキは安堵の笑みを浮かべる。

そして焼き網は、ただ台所の隙間に落ちていただけだった。思わず脱力してしまうオチではあるものの、しかしこれこそが『ばけばけ』らしい展開であり、愛おしさを象徴しているとも言える。

次週予告には、怪談の気配が漂う。しかし第20週「アンタ、ガタ、ドコサ。」が教えてくれたのは、特別な出来事がなくとも、人の心こそが物語を動かすという事実だった。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_