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「3月に退職、4月から新しい会社」の人は要注意。将来の年金が減るかも…見落としがちな「手続きの盲点」【社労士が警告】

  • 2026.1.19
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

退職日を決めるとき、何気なく選んだ日のわずかな違いで社会保険料の負担や年金資格に影響が出ることをご存じでしょうか?

「なぜ退職日ひとつで保険料が変わるのか?」「転職が決まっているのに年金手続きは必要?」といった疑問は多くの人が抱きやすいポイントです。

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさんへの取材から、退職日や扶養家族の手続きがもたらす影響や、見落としがちな重要ポイントについて詳しい解説が得られました。この記事を読むことで、退職や転職の際に起こり得る社会保険・年金のトラブルを防ぎ、家族の生活を守るための正しい対応方法がわかります。

退職日のわずかな差が社会保険料の負担に大きな影響!その仕組みとは?

---多くの人が「3月末で退職」と言いますが、具体的に退職日が「3月31日(末日)」なのか、それより前の「3月30日」なのかによって、支払うべき社会保険料や将来の年金額にどのような違いが出ますか? 会社側が説明してくれないこともある「末日退職のルール」について解説をお願いします。

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「退職日が3月31日か3月30日かという、わずか一日の差が、実は社会保険料の負担に大きな影響を及ぼします。

社会保険の資格喪失日は「退職日の翌日」と定められており、月末に資格を持っているかどうかでその月の保険料負担が決まる仕組みになっています。ですので、3月31日に退職すると資格喪失日は4月1日となり、3月末時点では在籍していたことになるため、会社を通じた厚生年金・健康保険の3月分保険料が発生します。一方で3月30日退職であれば資格喪失日は3月31日となり、月末時点では資格を失っているため、会社経由での3月分保険料負担は生じません。

ただし、この場合でも3月31日の一日間は国民年金・国民健康保険への加入義務が生じるため、別途そちらの保険料が発生する可能性がある点には注意が必要です。

この「末日ルール」が見落とされやすい背景には、いくつかの構造的な要因があると感じています。まず、多くの企業では月末締めで退職する慣習が根強く、人事担当者も本人も「退職=月末」という感覚を持ちやすい点が挙げられます。また、退職日を決める際には有給消化の都合や引継ぎのタイミングが優先され、社会保険料負担という視点が後回しにされがちです。さらに、転職先が決まっている場合は「次の会社でカバーされるから大丈夫だろう」という楽観的な認識が働き、細かな制度理解まで至らないケースも少なくありません。加えて、退職日を決める段階で人事から十分な説明がなされないことも、誤解を生む一因になっていると思います。

企業側としては、退職面談の際に社会保険料の仕組みを丁寧に説明し、本人が納得した上で退職日を選択できるよう配慮することが重要だと感じています。」

転職が決まっていても必要な年金の切り替え手続きとそのリスクとは?

---退職から入社まで1ヶ月にも満たない短い期間であっても、国民年金への切り替え手続きを「絶対にやるべき理由」は何でしょうか? 将来の老齢年金が少し減るだけでなく、万が一の事故や病気の際に受け取れる「障害年金」や「遺族年金」にどのような悪影響(受給資格の喪失など)があるのか教えてください。

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「転職先が決まっており、空白期間がわずか数週間であっても、国民年金への切り替え手続きは原則として必要です。厚生年金の資格を失った翌日から次の会社で厚生年金に加入するまでの間は、たとえ一日であっても国民年金の第1号被保険者として加入する義務があります。

ただし、配偶者の健康保険の扶養に入り国民年金第3号被保険者となる場合や、退職翌日にすぐに次の会社で厚生年金に加入する場合など、第1号への切り替えが不要なケースもあります。手続きが必要な場合は、退職日の翌日から14日以内に市区町村の窓口で届出を行うことが案内されています。この手続きを怠ると、その期間が「未納期間」として記録され、将来の年金額に影響するだけでなく、より深刻なリスクを伴う可能性があります。

特に見過ごされがちなのが、障害年金と遺族年金への影響です。これらの年金は老後に受け取るものではなく、現役世代が病気やケガで働けなくなった場合、あるいは一家の働き手が亡くなった場合に支給されるものです。受給要件の一つに「保険料納付要件」があり、過去の一定期間における保険料の納付状況が審査されます。たとえ短期間でも未納期間があると、万が一の際にこの要件を満たせず、年金が受けられないという事態が起こり得ます。健康で若い時期には想像しにくいかもしれませんが、交通事故や突然の病気は誰にでも起こり得るリスクです。

こうした手続きが後回しにされやすい背景には、転職準備の忙しさや、短期間だから影響はそこまでないだろうという思い込みがあると思います。」

退職すると配偶者の年金資格も変わる!見落としがちな扶養家族の手続きとは?

---本人が転職の手続きに追われている際、最も見落としがちなのが「扶養家族の年金切り替え」だと聞きます。空白期間ができた場合、または入社日が1日でも空いた場合、専業主婦(夫)の年金ステータスはどうなるのでしょうか? 手続きを忘れた場合のデメリットと、後から気づいた時のリカバリー方法を教えてください。

あゆ実社労士事務所 加藤あゆみさん:

「会社員として働いている人が退職すると、その扶養に入っている配偶者(専業主婦・主夫)の年金資格にも変化が生じます。厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者は、国民年金の第3号被保険者として保険料負担なしで年金制度に加入していますが、本人が退職して厚生年金の資格を失うと、配偶者も自動的に第3号被保険者の資格を失います。第3号の喪失日は配偶者の厚生年金資格喪失日、つまり通常は退職日の翌日に連動して発生します。この場合、配偶者は速やかに住所地の市区町村で「第1号被保険者種別変更届」を提出し、国民年金保険料を自ら納付する必要が生じます。ところが「自分は働いていないから手続きは不要」と誤解している方や、本人の転職準備に追われて配偲者の手続きまで意識が回らないケースが少なくありません。

手続きを忘れたまま放置すると、配偶者の年金記録に未納期間が発生し、将来の年金額が減るだけでなく、障害年金や遺族年金の受給要件を満たせなくなるリスクもあります。もし後になって気づいた場合でも、2年以内であれば過去分の保険料を納める方法があり、年金事務所で種別変更の手続きを行うことで、きちんとリカバリーできる仕組みになっています。また、転職先で再び厚生年金に加入すれば、配偶者も再度第3号被保険者に戻ることができます。

こうした見落としを防ぐには、退職時の説明資料に「扶養家族の手続き」を明記し、家族全体に影響が及ぶことを意識してもらう工夫が必要だと思います。企業としても、退職者本人だけでなく家族の生活基盤を守る視点を持った丁寧な説明が求められていると感じています。」

退職や転職での社会保険・年金手続きは「わずかな日数」の差を見逃さず、家族も含めた正しい対応を

今回の取材でわかったのは、退職日を決めるたった一日の違いが社会保険料の負担額に大きく影響し、さらに配偶者の年金資格や手続きにも関わってくるということです。転職先が決まっていても途中での年金切り替え手続きは義務であり、怠ると将来の年金受給に深刻なリスクがあります。

忙しい転職準備の中で見落とされがちなこれらの手続きは、本人だけでなく家族の生活を守るためにもきちんと確認・対応することが肝要です。企業も退職面談時に丁寧な説明を行い、本人と家族が納得して手続きを進められる環境整備を進めることが求められるでしょう。

今日からでも退職日や扶養家族の状況をしっかり把握し、必要な届出や相談を怠らないことが大切です。社会保険・年金制度の理解を深め、安心して次のステージに進みましょう。


監修者:あゆ実社労士事務所
人材育成・キャリア支援分野で約10年の実務経験を持ち、IT企業の人事として新卒・若手社員の育成企画、研修設計、評価制度運用に携わる。
ビジネスマナー、マインドセット、ロジカルシンキング、キャリアをテーマとした研修では、企画・教材作成から登壇まで一貫して担当。
現在は社会保険労務士として、労務相談や制度設計、キャリア面談支援に加え、生成AIを活用した業務整理・人材育成支援を行うほか、人事・労務分野の記事執筆・監修にも従事。
制度理解と現場実務、AI活用を掛け合わせた実践的な情報提供を強みとしている。