1. トップ
  2. 「収入は増えても手取りが減る」稼いでも“社会保険料”で消えていく…「危険な年収帯」とは?【お金のプロが解説】

「収入は増えても手取りが減る」稼いでも“社会保険料”で消えていく…「危険な年収帯」とは?【お金のプロが解説】

  • 2025.12.28
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「年収103万円の壁」の話はよく耳にしますが、なぜ収入が増えたはずなのに手元に入るお金が少なくなってしまうのでしょうか?

その疑問の裏には、実は税金の問題だけでなく「社会保険制度」の仕組みが深く関わっています。税制改正によって所得税の負担は緩和されましたが、手取りの大幅な減少は一部の年収帯で今なお起こっています。

この記事では、その原因が「社会保険の壁」にあることを、金融機関勤務の現役マネージャー 中川 佳人さんの視点からわかりやすく解説し、疑問を解消していきます。

年収の壁は「税の壁」と「社会保険の壁」に分かれるって本当?

---「103万の壁」以上に注意すべき年収ラインで手取りが急減する背景には、社会保険料や税制上のどのような仕組みが関わっているのでしょうか?

中川 佳人さん:

「いわゆる『103万の壁』は広く知られていますが、実際に手取りが大きく減る主な原因は、税金そのものではなく社会保険制度の仕組みにあります。

年収の壁は大きく2つに分かれます。『税金の壁』と『社会保険の壁』です。

まず『税金の壁』についてです。『税金の壁』は一般に『103万の壁』と呼ばれ、年収が103万円を超えると所得税の課税対象になります。今回の税制改正により基礎控除と給与所得控除が見直され、所得税がかからない年収の目安は160万円まで引き上げらるようになりました。また、税金は年収に応じて段階的に増える仕組みであるため、税制だけを理由に手取りが急激に減る構造にはなっていません。

一方で、社会保険は仕組みが異なります。一定の年収や勤務条件を満たした時点で、健康保険や厚生年金への加入が必要となり、それまで発生していなかった保険料負担が一気に生じます。特に年収106万円や130万円付近では、年間で十数万円から数十万円規模の社会保険料を負担することになり、収入が増えたにもかかわらず手取りが減ってしまうケースも少なくありません。

税制改正によって『税の壁』は大きく緩和されましたが、『社会保険の壁』は依然として残っています。手取りが急減する背景を正しく理解するためには、税金よりも社会保険の仕組みに注目することが、これまで以上に重要だと言えるでしょう。」

なぜ年収106万円や130万円付近で手取りが減るの?社会保険の「魔のゾーン」とは?

---年収106万円や130万円を少し超えた場合、社会保険料の負担により手取りが大幅に減る「働き損ゾーン」が生じますが、具体的にどの年収帯が最も危険でしょうか?

中川 佳人さん:

「働き損が生じやすい年収帯を考えるうえで重要なのは、どこで社会保険への加入が切り替わるかという点です。

具体的に注意すべきなのは、106万円から125万円、そして130万円から153万円前後の年収帯です。これらはいずれも、収入が少し増えただけで社会保険料の負担が急増し、手取りが伸び悩みやすい『魔のゾーン』と言えます。

まず年収が106万円以上になると、勤務先の規模や労働時間などの条件を満たすことで、自分で社会保険に加入して保険料を負担する必要があります。

この時点で年間およそ18万円前後の保険料負担が発生するため、年収がわずかに増えただけでは手取りが大きく減る逆転現象が起こりがちです。次に年収が130万円以上となった場合、配偶者の扶養から外れることになり、国民健康保険や国民年金、あるいは社会保険の自己負担が生じ、家計への影響はさらに大きくなります。

このように、働き損が生じやすい年収帯の正体は、税金ではなく社会保険への加入が切り替わるタイミングにあります。特に106万円や130万円付近では、収入の増加以上に社会保険料の負担が重くなり、手取りが現象しやすくなります。本当に注意すべきなのは『税の壁』ではなく『社会保険の壁』をまたぐ年収帯だと理解しておくことが重要です。」

働き損を防ぐには?自分の制度状況を把握し、賢く年収調整を!

---年収の「魔のゾーン」で働き損にならないために、まず最初にチェックすべきポイントと、すぐ実践できる対策を教えていただけますでしょうか。

中川 佳人さん:

「年収の『魔のゾーン』で働き損にならないために、最初に行うべきことは、自分がどの制度に該当するのかを正確に把握することです。

多くの人が損をしてしまうのは、制度を知らないまま年収の壁を超えてしまうからであり、事前に把握していれば対策をとることができます。特にパートや短時間勤務の方ほど、影響を受けやすい点には注意が必要です。

まず確認したいのは、勤務先の規模や契約時間など、社会保険の加入条件です。同じ年収であっても、勤務先や働き方によって社会保険に入るかどうかは変わります。この機会に一度確認しておくことをおすすめします。次に重要なのが、配偶者の扶養条件を含めた世帯全体の手取りです。年収だけを見るのではなく、世帯として最終的にいくら残るのかを基準に考えることが大切です。

具体的な対策としては、大きく三つの選択肢があります。一つ目は、社会保険の壁を意識して年収を手前で調整する方法です。二つ目は、一定以上まで収入を伸ばし、厚生年金や各種手当といった社会保険のメリットを活かす方法です。そして三つ目が、年収額ではなく手取りベースで働き方を判断することです。どの働き方が得になるかは、個人によって異なります。税制改正で税の壁が緩和されつつある今こそ、自分にとって最適な働き方を再確認してみましょう。」

税金より社会保険に注目!賢く「働き損」を避けて手取りを守ろう

年収103万円の壁としてよく語られるのは、所得税の課税開始ラインですが、実際に手取りが急に減る背景にあるのは社会保険料の負担増にほかなりません。106万円や130万円付近の「魔のゾーン」では、社会保険の加入条件が変わるために保険料が一気に増え、家計が圧迫されやすくなります。

この現象を理解した上で、まずは自分の勤務先や働き方がどの社会保険制度に該当するのかを正確に把握することが不可欠です。そのうえで、年収を調整したり、社会保険のメリットを活かしながら働くなど、自身に合った最適解を選択しましょう。これからは、年収の数字そのものではなく、手取りを基準に働き方を考える視点がますます重要になってきます。


監修者:中川 佳人(なかがわ よしと)(@YoshitoFinance

金融機関勤務の現役マネージャー。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
20年にわたり、資産形成や家計管理・住宅ローンなどの実務に携わってきた経験を活かし、記事の監修や執筆を行っている。
専門的な内容を、誰にでもわかりやすく伝えることをモットーとしている。