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『退職後にお金に困る人』には特徴があった…現役時代から準備しておくべき「3つのポイント」とは?【お金のプロが解説】

  • 2025.12.29
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「これまでの豊かな生活を、退職後も変えずに続けられるのか?」これは多くの高年収世帯が抱える悩みです。

年収800万円、1000万円という水準で長年暮らしてきた方にとって、その生活は「普通」であり、収入減を頭では理解してもその感覚を変えるのは難しいものです。

では、どのような落とし穴が存在し、何を見直せば安心できるのでしょうか。今回は、高年収世帯の家計の実態や夫婦関係の役割、具体的な固定費の節約ポイントまで、元厚生労働省 ファイナンシャルプランナーの柴田 充輝さんに詳しく伺いました。

高年収世帯の「普通」が招く家計の危機と見落としがちな支出

---「現役時代に年収が高かった人ほど、老後の資金繰りに苦戦すると聞きます。頭では『収入が減る』と分かっているのに、なぜ生活水準(生活費)を下げられないのでしょうか? 具体的に、どの費目の支出が“地雷”となって家計を圧迫し続けるのか教えてください。

柴田 充輝さん:

「人間の脳は、一度上げた生活水準を「当たり前」として記憶してしまいます(心理学で「ヘドニック・アダプテーション」といいます)。年収800万円、1000万円という水準で10年、20年と暮らしてきた方にとって、その生活は「贅沢」ではなく「普通」なのです。頭では収入が減ると理解していても、身体に染み付いた「普通」の感覚を変えることは、想像以上に困難です。

さらに厄介なのは、高年収の方ほど「消費」と「浪費」の区別がついていないケースが多いという点です。収入に余裕があるときは、多少の無駄遣いも家計全体に影響を与えません。そのため「これは必要な支出だ」と自分を納得させる習慣がつき、本来なくても困らない出費まで「消費」として正当化してしまうのです。

特に、家計を圧迫し続ける費目の一つが「娯楽費・交際費」です。現役時代に「自分へのご褒美」として習慣化した支出を退職後も同じペースで続けると、当然ですが家計にとって大きな負担となります。車を保有している方の場合、「車両費」も負担となる可能性があります。駐車場代や保険料、車検代、ガソリン代を合計すると、年間で50万円から100万円以上になります。車が趣味で高級車を保有している方の場合、特に車両保険は高額です。

他にも、さまざまな費目が膨らんでいる「メタボ家計」になっているケースが少なくありません。すべてが積み重なると、月々の支出は現役時代とほとんど変わらない水準になってしまい、年金収入だけではとても賄えません。」

夫婦関係のリスク管理と「信頼貯金」が老後の居場所を守る

---お金の準備は完璧でも、定年後に『家庭の居場所』を失う男性が多いそうです。最悪の場合『熟年離婚』で資産が半減するリスクもあります。FPの視点から見て、現役時代に夫婦間で『お金以外』にすり合わせておくべきことは何でしょうか?

柴田 充輝さん:

「離婚に至ると、財産分与でざっくり資産が半減し、どれほど周到に準備したマネープランも根底から崩れてしまいます。つまり、夫婦関係の維持は、老後の資金計画と同じくらい重要な「リスク管理」なのです。

定年後に「家庭の居場所を失う」男性が多いのは、現役時代に家庭における「信頼残高」を積み上げてこなかったことが原因です。「信頼貯金」とは、日々の行動や言葉を通じて、相手の心に蓄積される信頼のことです。

銀行預金と同じで、入金(信頼を得る行動)と出金(信頼を損なう行動)をイメージしてみてください。現役時代に仕事優先で家庭を顧みず、家事や育児を妻に任せきりにしてきた方は、この「信頼貯金」がほとんどゼロ、場合によってはマイナスの状態です。妻からすると、夫が退職して突然家に居続けることになった場合、不愉快でしかないでしょう。

「信頼貯金」を積み上げるためには、日々の言動を意識すること、円滑なコミュニケーションを取ることが欠かせません。特に、「基本的な生活の価値観」の確認が重要です。退職後、どこに住みたいのか。都市部に残りたいのか、田舎に移住したいのか。どのような生活リズムで暮らしたいのか。こうした基本的な価値観が夫婦間でずれていると、退職後の毎日がストレスの連続になります。

「家事の分担」を現役時代から始めることです。 退職後にいきなり「これからは家事を手伝う」と宣言しても、妻からすれば「今さら何を言っているのか」という反応になるかもしれません。特に、共働き世帯であれば「手伝う」というよりも、「自分も主体的に参加する」という姿勢を持つべきでしょう。

信頼に関しても、金融の複利効果と同じで、早く始めれば始めるほど効果が大きくなります。「退職後に考えればいい」では、手遅れになるかもしれません。」

見直しポイントは固定費と保険、そして「モノ」と住まいのダウンサイジング

---定年当日から急に節約生活を始めるのは無理だと思います。後悔しないために、現役のラスト5年(55歳〜60歳頃)でやっておくべき『生活のダウンサイジング』とは具体的にどのようなものでしょうか? まず最初に見直すべき固定費や、手放すべきものについてアドバイスをお願いします。

柴田 充輝さん:

「固定費とは、毎月自動的に出ていく支出のことです。一度見直せば、その後は何もしなくても節約効果が継続するため、費用対効果の高い節約対象と言えます。

代表的な固定費が「通信費」です。 大手キャリアの従来プランをそのまま使い続けている方は、格安SIMやオンライン専用プランへの切り替えで、月額5,000円から8,000円の削減が可能です。年間にすれば6万円から10万円の節約になります。「設定が難しそう」「よくわからない」という理由で後回しにしている方が多いですが、半日もあれば完了するため、休日に手続きを進めましょう。

動画配信サービス、音楽配信、新聞電子版、各種アプリの有料会員など、「使っていないのに払い続けている」サブスクも削減の対象です。クレジットカードの明細を3か月分確認し、すべてのサブスクを洗い出し、利用していないサブスクは解約しましょう。必要になれば、また契約すればいいのです。

「保険」の見直しも重要です。 現役時代に加入した生命保険、医療保険、がん保険などを、そのまま継続している方が多いですが、高齢期においては民間保険の多くは不要です。子どもが独立し、住宅ローンも完済した60代以降であれば、多額の死亡保障は必要ありません。医療保険についても、日本には高額療養費制度という世界に誇る公的制度があり、どれほど医療費がかかっても月々の自己負担には上限があります。70歳以上であれば、さらに自己負担額は軽減されます。十分な貯蓄があれば、民間の医療保険は不要と言っていいでしょう。

残すべき保険は「自動車保険(任意保険)」だけです。 車を運転する方は、対人・対物の賠償責任保険だけは必ず維持してください。事故を起こした場合の賠償額は数千万円から数億円に達することがあり、これは自力では到底払えません。逆に言えば、車を運転しない方は、この保険も不要ということです。

生活のダウンサイジングには、モノを手放すことも含まれます。モノが減れば、それを維持・管理するコストや手間も減り、精神的にも身軽になれます。「いつか着るかもしれない」と思ってクローゼットに眠っている服は、おそらく今後も着ることはありません。今の自分のライフスタイルに合った服だけを残し、あとは思い切って処分しましょう。

広い家は、掃除、維持、修繕の負担が大きくなります。退職を機にコンパクトな住まいに移る「住み替え」も、選択肢として検討する価値があります。自治体によっては移住支援金を支給しているところもあるため、調べてみるのも面白いかもしれないですね。」

無理のない生活設計と信頼関係づくりで豊かな老後を迎えよう

高年収世帯にありがちな「普通」の生活水準の維持は、退職後に大きな家計負担となり得ます。

支出の見直しだけでなく、夫婦間の信頼残高を日頃から積み上げ、その土台をしっかり作ることが、豊かな老後の生活を支えます。固定費や保険などの無駄を削減し、モノや住まいのコンパクト化で負担を軽減するなどの具体的な行動も大切です。

早めの準備と計画的なコミュニケーションを心がけ、安心できる未来のための第一歩を踏み出しましょう。


監修者:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。