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「極力避けてください」介護のプロが警告。『認知症』の人にやりがち…かえって症状を加速させる「NG対応」とは?

  • 2025.12.28
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親が認知症と診断されると、子どもはどう接すればいいのか戸惑い、時には強く否定したり叱ったりしてしまいがちです。

しかし、その対応がかえって親との関係を悪化させ、認知症の症状進行にも影響を及ぼすことがあります。なぜ否定的な反応が良くないのか、またどんな心構えで接すれば穏やかな関係を保てるのか、介護支援専門員のeruruさんに詳しく伺いました。

認知症の親御さんとの向き合い方がわかり、日々の介護に役立つヒントを得られるでしょう。

認知症の親に否定的な言葉や行動をしてはいけない理由

---認知症の親に対して家族がやりがちなNG対応(例:否定や訂正を繰り返す、記憶を試すような質問をするなど)には、どのようなものがあるでしょうか?

eruruさん:

「認知症は年齢とともに誰もがなり得る身近な病気ですが、いざ親が認知症になった場合、子どもとしては現実を認めたくないあまり、行ってはいけない行動をとってしまうことが多いです。

最も多いのは『否定』ではないでしょうか。
認知症の親が「ご飯はまだかい?」と聞いてきた時、「何言ってるの?さっき食べたばかりでしょ!」や同じ話が繰り返された時には「その話何回目よ!ずっと同じ話ばかりして!」など、強く否定することがあるかと思います。しかし、認知症になっている方は間違っていることに気がついていないため、混乱を招いてしまいます。

否定に関しては、言葉だけではありません。行動に対しての否定も極力控えていただきたい行動です。
行動の否定と言われると難しく感じたり、やっていないと思う方も多いかもしれませんが、家事の例をあげて考えてみると思い当たることがあるかもしれません。

認知症の親が食器を洗っている所を見つけて、「危ないからやめて!」と言った経験はありませんか?
もちろん、火の扱いなど本当に危険なことは止めても良いのですが、なんでもかんでも危ないから、心配だからという理由で行動を否定してしまうのは行ってはいけません。理由としては、役割を奪ってしまうからです。

認知症の方は自分の役割を全うすることで自己肯定感を高め、自信をつけていくからです。
さらに、役割を奪われると生活の中での刺激が減り、更なる認知症へ進行に繋がってしまうため、役割を奪うような行動への否定も控えるべきなのです。」

強く叱ったり否定することが親子関係に及ぼす悪影響とは?

---「きつく叱ったり否定したりした後、親はケロッとしているように見えますが、プロから見てその内面では何が起きているのでしょうか? 『出来事は忘れても、嫌な感情だけは残る』という現象が、その後の介護や親子関係にどのような悪循環をもたらすか教えてください。

eruruさん:

「認知症の方への対応で行ってはいけない行動として、きつく叱ったり強く否定することが度々挙げられます。
認知症と聞くと、物忘れがひどいからきつく叱られたことや強く否定されても忘れるでしょ?と思ってしまう方も多いかも知れません。

実際、「強く叱られた後も行動が治らない」「叱られた後なのにニコニコと笑っている」と言った場面を見ることがあります。
しかし、認知症の方は叱られたことや強く否定されたことは忘れても、恐怖心や嫌な感情だけは残ってしまうのです。
この人に嫌なことをされたという感情だけが残ってしまうため、その人に対して常に恐怖心を持つことになります。親子の関係性があったとしても、この恐怖心は変わらず、親子関係の悪化に繋がってしまいます。

先ほども伝えた通り、認知症の方は何をされたかは覚えておらず、嫌なことをされたとだけ認識しています。
なので、親戚が来た時や近所の方に、「娘にこんなことをされた」や「息子がこんなひどいことを言った」など、実際にはしていないことを話すことがあります。
家族という関係性だからこそ、言っていないことを言われると腹が立ってしまいます。
その苛立ちから、さらにきつく叱ってしまったり強く否定してしまったりして、親子関係の悪化を進めるという悪循環に陥ってしまいます。

関係性の悪化はネグレクト(介護放棄)や精神的・身体的虐待といった大きな問題に繋がっていってしまいます。」

認知症の親とのコミュニケーションで大切にすべき心構えとは?

---『否定してはいけない』と頭では分かっていても、同じ話を何度も繰り返されると、家族の我慢も限界になります。そんな時、真っ向から否定せず、かといってストレスを溜め込まずに受け流すための『魔法の言葉』はありますか?

eruruさん:

「認知症の患者さんと多く関わる私たちでも、負担に感じることがあります。普段から接していない方だと、よりストレスを感じるかと思います。

強く否定することで落ち着きがなくなってしまいますし、かといって同調しすぎると更に興奮させてしまうこともあるため、認知症の方との会話は非常に難しいです。間違ったことや同じ話を何度されても、否定せず同調せず聞き続けることはとても難しいのです。

私は、そんな時に2つのことを心において話を聞いています。

まず1つ目は、「たくさん話してくるということは、私のことを信頼していて、話を聞いてもらいたい人」だと認識してもらっているという考え方です。
この考えをすることによって、何度聞いた話でも、実際にはなかった話でも、「話したい相手」に自分を選んでくれたという気持ちの余裕ができます。家族という関係性だと、どうしても対等な立場で話をしてしまいますが、認知症という病気が原因ですから、ある程度割り切った気持ちで接することで介護される方の心理的なストレスは減ると思います。

2つ目は、先ほども出てきた「割り切った介護」だと認識することです。
身近な大事な人だからこそ、認知症からくる言動や行動は気になってしまうものです。出来ることなら、認知症になる前の親に戻って欲しい!これは、子どもであれば誰もが感じると思います。
しかし、認知症は加齢からくる脳の病気です。完全に元通りになるのは、現代医療では未だ困難な病気なのです。ですから、認知症という病気を受け入れた上で、ある程度割り切った介護をすることが、ストレスの軽減につながります。

「割り切った介護」と聞くと、少し雑で気持ちのない介護と捉えられるかもしれまんが、それは間違いです。割り切るのは、あくまで介護する方の気持ちです。
認知症の母が近所の人に自分の悪口を言っていたとしましょう。
「いつも介護してあげてるのに、どうしてこんなひどいことを言われなきゃいけないの!?」
と思ってしまいますよね。これは当たり前の感情です。

ですが、この感情から認知症の方に文句を言うのは何の解決にもなりません。
先ほども伝えたように認知症の方は、怒られた内容は忘れてしまい、嫌なことを言われたという負の感情だけが残るからです。
ですから、ここで自分自身の気持ちを割り切ることを意識してください。
つい口論してしまいそうになったら、一呼吸おいて「この言葉や行動は、今すぐに注意しなければならないのか?」と考えてみると、多くのことは、「まぁ、いっか!」で片付いてしまいます。

もちろん、命に関わることはすぐに止めるべきですが、重大な問題にならないのであれば「まぁ、いっか!」の割り切った気持ちで介護してみると、ストレスが軽減するかもしれません。」

認知症の親には否定や叱責よりも「割り切り」と「信頼」と共に寄り添うことが大切

認知症の親に対して、否定したり強く叱ることは、親御さんの混乱や恐怖心を増幅させ、親子関係を悪化させる原因になります。

言葉や行動の否定は、本人の役割感や自己肯定感を奪い、病状の進行にもつながってしまう可能性があるため注意が必要です。難しく感じるかもしれませんが、認知症による言動や繰り返しにも否定せず、同調もしすぎず、静かに耳を傾ける姿勢を持つことがポイントです。大切なのは、たくさん話しかけてくるのは信頼の証と捉え、自分自身の気持ちを「割り切った介護」のスタンスで保つこと。これが介護者のストレス軽減につながり、長期的に穏やかな関係を築く助けになります。

先の見えにくい介護の中、少しの心の余裕と理解が、毎日の支えとなるでしょう。


監修者:eruru

4年制大学理学療法学科を卒業後、整形外科クリニックにて3年間勤務
整形外科クリニックにて整形外科疾患や脳血管疾患を含む2000人以上の症例を担当
その後、介護老人保健施設へ転職
数年働く中で、利用者の身体的な改善だけでなく、家族の力にもなりたいと考え、介護支援専門員の資格を取得
現在は介護老人保健施設にて理学療法士兼介護支援専門員として勤務
今後ますます高齢者が増えていく中で、理学療法士として高齢者の健康寿命の増加と安全な在宅での生活を目指し、介護支援専門員として家族が安心して介護できる環境づくりや適切な介護保険サービスの提供に励んでいます