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勝男の素直さを、鮎メロの成長を、誰もが応援したくなる 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』よ、永遠なれ!

  • 2025.12.9

放送後はSNSで視聴者からの思い思いの感想が綴られているドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。
放送後はSNSで視聴者が思い思いの感想を綴り、登場人物たちにエールを送りたくなるドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。最終回直前の今、文筆家でドラマオタクの小林久乃がドラマ、そしてキャラクターたちの魅力を語ります。

気づけば固唾を飲んで勝男を全力応援!

戸惑いながらも料理に取り組む勝男の素直さ…! ⒸTBSスパークル/TBS

豊作揃いの秋ドラマで、毎週放送が待ち遠しかったのはダントツで『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)だった。放送前からタイトルの芳ばしさにワクワクしていたけれど、いざスタートしてみるとその面白さは期待以上。ラブコメの多い “火10”放送枠なので、番組のターゲット層である女性視聴者はもちろん、私の周囲では男性(中高年のおじさま含む)にも大人気だった。この人気理由の多くを握っていたのは、ドラマに登場する海老原勝男(竹内涼真)が放っていた家事全般、そして生き方に対するポテンシャルだ。

第1話の勝男は古臭い思想を抱えた女性の敵だった。家事は女性の領分だと決めているだけではなく、料理に対して一丁前な意見をする。

「全体的におかずが茶色すぎるかな(笑)」

「(料理は)作りたてが一番なんだよなあ」

「(市販のルーを使ったカレーは)ああ、じゃあ野菜切るだけだ(笑)。もうそれ料理って言わないから!」

昭和男のような価値観の連発に私たちは唖然。時代に取り残されてしまった勝男を不憫にすら思った。そんな恋人に愛想を尽かして同棲していたマンションを出ていく山岸鮎美(夏帆)。一人取り残された勝男は駄を垂れているだけではなく、立ち上がった。まずは母親や恋人に任せきりだった料理に着手して、鮎美の得意料理だった筑前煮に挑戦する。いきなりハードルの高い料理に手を出していると笑ったけれど、その後、彼はめきめきと料理の腕をあげていく。スーパーのセルフレジにさえ戸惑っていたのに、出汁の取り方も完璧になり、味の染みたおでんも作る。ついには小籠包もマスター。その背後には、映画『ロッキー』のテーマ曲『Gonna Fly Now』が流れているようだった。いいぞ! 勝男!

勝男の素直さを、鮎メロの成長を、誰もが応援したくなる 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』よ、永遠なれ!
勝男の素直さを、鮎メロの成長を、誰もが応援したくなる 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』よ、永遠なれ!

そして料理は工程、成果だけではなく「誰かに食べてもらう」喜びを知る勝男。いかに自分が鮎美に支えてもらっていたのかを知り、価値観のルーツである大分県に住む両親にもアップデートを伝授していく。結婚してこそ男が一人前? 女の子は誰かに幸せにしれもらうのが一番いい? 違う、違う。

「鮎美さんは僕なんかと結婚しなくても、ちゃんと生きていける人です。誰かに選ばれなくても自分で立っていける人です。どんなことがあっても自分の手で何とかする。そんな鮎美さんだから僕は好きになったんです

地元で両家の両親たちが息子と娘の結婚を心待ちにしている最中の、二人の破局。なぜ自分が振られたのかを自問自答し続けて、勝男から出た答え=セリフはこれだった。結婚してもしなくても、家事を誰が担当するかなんて瑣末な問題。互いを認め合うのが大事だと勝男は言いたかったのだと思う。このセリフが放送された第七話付近では、感動して私はついに泣いてしまっていた。第一話の憎まれぶりはどこへやら、彼のまぶしい成長ぶりに感服。料理だけではなくマッチングアプリ登録、インスタグラム投稿、テキーラを飲む、ホームパーティー参加など、今までの食わず嫌いへ次々にトライしていく様子も楽しかった。結果、いつの間にか見る側も微笑ましい気持ちになり、彼を応援していたのだ。

余談だけど、勝男のパジャマまでパンツインを貫いていたのは、役のキャラクターをよく考えたスタイリングだった。途中からその姿が可愛くなって、笑っていたことも彼の魅力として加えておく。

”全力不器用男”な勝男の、この愛すべきパンツイン姿。ⒸTBSスパークル/TBS

自分らしさを理解していく鮎メロの姿も

勝男の素直さを、鮎メロの成長を、誰もが応援したくなる 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』よ、永遠なれ!
勝男の素直さを、鮎メロの成長を、誰もが応援したくなる 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』よ、永遠なれ!

成長を遂げたのは勝男だけではなく、鮎美も同じく。結婚をすれば幸せになれると、時代錯誤の優先順位にとらわれて、自分を見失っていた。

「鮎メロの好きな食べ物ってなに?」

友人の吉井渚(サーヤ)からそう聞かれても、答えられなかった。新しい恋人のミナト(青木柚)にも交際してすぐに振られる始末。そんな自分を抜け出して、鮎美は自分らしさを見つけ出していく。そんな変化を示したのが、第8話で結婚式に出席する鮎美が選んだ洋服。同年代の異性が多数集まる結婚式なら、勝男と付き合っていた頃のように、男受けばかりを狙ったコーディネートを選んでも不思議はない。でも、グレーのパンツスーツに身を包んだ姿はどこか凛々しかった。自分らしさ、なんて改めて書くと正直、どこかに気恥ずかしさを感じてしまうけれど、鮎美を見ていると悪くないと思えた。鮎メロにも潜んでいたポテンシャルが「自分にもあるのでは」と。

男女云々のラブコメだけにとどまらず、蓋を開けたら「人のふり見て 我がふり直せ」の連発だった『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。勝男と鮎美にあったポテンシャル、きっとあなたにもあるはずだ。いつまでも見守っていたい二人の物語も、いよいよ最終話。年末年始は二人の成長記録を、動画配信でまたイチから振り返ってみるのもいいかもしれない。

勝男の素直さを、鮎メロの成長を、誰もが応援したくなる 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』よ、永遠なれ!

ちょっぴりレトロな雰囲気のパンツスーツに身を包む鮎メロの可愛らしさったら! ⒸTBSスパークル/TBS

小林久乃

こばやし・ひさの 文筆家、編集者。出版社勤務後、独立。最新刊は超絶ドラマオタクの知識を活かした『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)。現在はエッセイ、コラムの執筆、ラジオトーク、各メディアの構成と編集が主な仕事。

https://hisano-kobayashi.themedia.jp

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