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「さすがNHK」「映画で観たかった」完成度の高い“東野圭吾スペシャルドラマ”、物語を支える“ふたりの俳優たち”

  • 2026.1.6

とある事件の容疑者になってしまった大学生・脇坂(細田佳央太)が、自身のアリバイを証明してくれる“女神”を探してスキー場を滑走する。東野圭吾による同名小説を原作とした『雪煙チェイス』が、NHK総合にて1月2日と1月3日の2夜連続、前後編スペシャルドラマとして放送された。突如として逃亡犯になった脇坂を追うのは、庶民的な刑事・小杉(ムロツヨシ)。タイトル通り、雪煙にまみれた逃走劇が繰り広げられる人間ドラマだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

世界一お人好しな逃亡犯?

囲碁が好きな老人が、ある日突然、自宅内で変わり果てた姿で発見された。もっとも怪しい容疑者として名前が挙がったのは、被害者宅で飼われていた愛犬・ペロの散歩係としてアルバイトをしていた大学生・脇坂。

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東野圭吾スペシャルドラマ『雪煙チェイス』前編 2026年1月2日放送(C)NHK

彼には事件当日、スキー場でスノーボードをしていたという、れっきとしたアリバイがあった。しかし、一人で思うがままに楽しんでいた脇坂の所在を、はっきりと証明してくれる人物はいない。かろうじて、たまたま行きあった女性スノーボーダー(通称・女神)だけが頼みの綱だった。

気づいたら外堀を埋められ、もう逃げるしか道がなくなってしまった脇坂。友人の波川(醍醐虎汰朗)とともに、アリバイを証言してくれるはずの女神を探しに、里沢温泉スキー場へ向かう。しかし、刑事の小杉を中心にして、刻々と狭まるばかりの捜査一課による包囲網。

脇坂は逃げ切れるのか、真犯人は誰なのか。冒頭からテンポの早い展開によって、この物語の主軸を担う要素が出揃う。

脇坂を演じたのは、朝ドラ『あんぱん』にも出演した俳優・細田佳央太。実力やパブリックイメージとともにこれ以上ない適役だった。SNS上でも「さすがにお人好し過ぎ」との声が多かった脇坂の人柄は、素直で正直で人当たりがよく、嘘がつけない。おまけに困った人を放っておけない。冤罪で捕まりかけている恐怖もありながら、最初から最後まで信じ切ってくれた友人・波川のために一歩踏み出すシーンなどは、観る者の心をぎゅっと掴む真っ直ぐさがある。

さらに印象的だったのは、雪に足を取られて身動きできなくなった小杉刑事を放っておけず、思わず助け出してしまうシーンだ。逃亡犯でありながら、たとえ相手が刑事だとしても、困っている人を見捨てられない。そんな脇坂の人柄が滲み出ていた。細田の自然体な演技が、その優しさと誠実さを、確かな説得力とともに届けてくれる。

正義とは何かを問い直された刑事

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東野圭吾スペシャルドラマ『雪煙チェイス』後編 2026年1月3日放送(C)NHK

小杉刑事を演じた俳優・ムロツヨシの適応力に溢れた演技もまた、このドラマの大きな魅力の一つと言える。上司に頭が上がらない、典型的な中間管理職然としたキャラクターながら、容疑者とされた脇坂と対面して疑問を抱き、やがては警察組織の論理や上下関係を超えて行動していく。

彼自身こそが、“正義とは何か”を問い直されていく存在だったのだろう。ムロの演技はその内なる葛藤を、抑制された台詞回しや微細な表情の変化で巧みに表現している。

本編中に小杉が下した、例のアリバイ証人である女神を見つけ出せたら上への報告を保留する、という決断。それは、容疑者と刑事である互いの立場を超え、自分の直感によって他者を信じてみるという選択だった。

その瞬間に、脇坂と小杉の関係性は反転、いや妙な同化を見せて、ともに“脇坂が犯人ではない証拠”を見つける同志となったように見える。スケールの大きい雪原を舞台に繰り広げられるチェイスは、SNS上でも「映画で観たかった」「さすがNHK」との声が挙がるほどの完成度だが、その背景には、ふたりの俳優の細やかな感情の積み重ねがあった。

信じることの難しさ、信じてもらえることの尊さ

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東野圭吾スペシャルドラマ『雪煙チェイス』後編 2026年1月3日放送(C)NHK

後編で描かれたのは、女神探しのラストスパートと、真犯人の正体だ。屈強のミステリーファンのなかには、ギリギリまで“脇坂こそが真犯人であるどんでん返し”が待っている可能性を考慮していたはず。しかし、やはり彼は冤罪だったのだ。

ようやくアリバイ証人である女性スノーボーダーを見つけたものの、もともと知り合いだったのでは? と難癖をつけられ、連行されそうになる脇坂。まさに平均台の上をゆらゆら揺れるような攻防だったが、すんでのところで小杉からの朗報が入る。真犯人が見つかったのだ。

信じる、信じられる、報いるように行動する、最後まで諦めない。内包されているメッセージはシンプルだ。しかし、脇坂と小杉の信頼関係が少しずつ醸成されていくにしたがって、それらが一つの物語として形になっていく様が見事だった。

自らの潔白を信じ、証明しようと抗い、そして、信じてくれる周囲の人たちに報いようとすること。ほんのわずかに差し出された手と手が、やがて、真実へと到達する橋となってくれる。このドラマは、単なる逃走劇やミステリーにとどまらない。信じることの難しさと、信じてもらえることの尊さを、吹き荒ぶ雪煙の向こうに描き出すような物語だった。


NHK 東野圭吾スペシャルドラマ『雪煙チェイス』
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_