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2015年の朝ドラで、まだ“主演作が少なかった”女優…序盤の違和感も払拭した“大成功の配役”

  • 2026.1.9

2015年度後期のNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『あさが来た』は、時代劇のような朝ドラだった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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波瑠 (C)SANKEI

本作は、明治を代表する女性実業家として炭鉱事業や銀行設立をおこない、のちに日本女子大学校(現・日本女子大学)を創立し、女性教育に尽力した広岡浅子をモデルとする白岡あさ(波瑠)の半生を描いた物語だ。
脚本を手掛けた大森美香は、学ぶことで成長していくヒロインを繰り返し描いてきたが、本作は時代劇の中でそれを描いており、大森にとっても朝ドラにとっても新境地となる作品となった。

大河ドラマみたいな朝ドラ

朝ドラというと『おしん』のような戦前・戦中・戦後(明治~大正~昭和)を描いたものか、『ちゅらさん』のような現代(昭和末~平成)を描いたものがほとんどだった。対して『あさが来た』は、初めて江戸末期の幕末から始まった朝ドラだった。
そのため第1話を観た時は、大河ドラマみたいな朝ドラだと思ったのを覚えている。

そのことに作り手は自覚的で、劇中には2004年の大河ドラマ『新選組!』で土方歳三を演じた山本耕史が土方役で出演するというスピンオフ的な展開があったり、福沢諭吉(武田鉄矢)や渋沢栄一(三宅裕司)といった歴史上の偉人とあさが対面し、影響を受ける場面も登場する。

何より大河ドラマ的だと感じたのはあさの姉・はつを演じる宮﨑あおいの存在だ。

本作の制作統括・佐野元彦は、宮﨑あおいが主演を務めた2008年の大河ドラマ『篤姫』を手掛けている。
『篤姫』は女性の篤姫が主人公の幕末を舞台にした大河ドラマで、序盤はコミカルな展開が続くため、朝ドラみたいな大河ドラマだと当時は感じた。

朝ドラのような大河ドラマの『篤姫』と、大河ドラマのような朝ドラの『あさが来た』は、姉妹のような関係で、どちらも女性の柔らかい力が世の中を変えていく様子が描かれていた。

ただ、宮﨑あおいが姉役で登場した時は、朝ドラヒロインを演じる波瑠が霞んでしまうのではないかと心配だった。
宮﨑は2006年度前期の朝ドラ『純情きらり』でヒロインを演じており、大河ドラマの主人公も演じた国民的女優。
対して波瑠は、当時は主演作も少なく、主人公の友人役としてクールな女性を演じることが多い、脇で光る女優だった。

だからこそ『あさが来た』で朝ドラヒロインに抜擢された時は驚いたのだが、クールなイメージが強かったため、行動力があって愛嬌のある正統派ヒロインを演じる姿はどこかぎこちなく、口癖として登場する「びっくりぽん」も、あまり馴染んでいないように当初は感じた。

だが、朝ドラは半年間の長丁場で、朝ドラヒロインを演じる若手女優が成長していく姿に本編とは違うもう一つのドラマが生まれる。

実際、波瑠の演技も話数が進むにつれてうまく馴染んでいき、「びっくりぽん」の口癖も違和感が消え、最終的に主演女優にふさわしい堂々とした佇まいを獲得していった。

つまりあさの成長と、波瑠の女優としてのサクセスストーリーは見事にシンクロしていたのだ。

そう考えると、宮﨑あおいを姉役で登場させて、完成された圧倒的な演技を見せることでロケットスタートを切った後、主演の波瑠の成長していく姿を半年間かけてじっくり見せるという対比は、大成功だったと言えるだろう。

『あさが来た』でブレイクした出演者たち

『あさが来た』は役者の起用方法が見事で、本作でブレイクした出演者が多い。

まず、序盤で大きく注目され、『あさが来た』の人気を支えたのが、五代友厚を演じたディーン・フジオカだ。
五代はあさにとって、一歩先の理想を歩む師匠のような存在で、五代もあさのことを応援した。真面目で優秀だが、生き方が不器用な五代をディーン・フジオカは好演し、視聴者に愛された。

元々、ディーンは台湾で活躍する俳優だったが、2015年の連続ドラマ『探偵の探偵』から日本のドラマに出演するようになり、『あさが来た』で一気に注目されるようになった。
朝ドラは魅力的な男性俳優を視聴者が見つけたと感じた時に、人気が爆発する傾向があるのだが、五代を演じたディーンは、まさに視聴者が「私が見つけた」と思えた存在だった。

一方、本作で女優デビューを果たしたのが奉公人のふゆを演じた清原果耶。
当時、清原は13歳だったが、すでに大人びた芝居を見せており、彼女よりも年上で結婚もするふゆを見事に演じ切った。
清原は2021年度前期の朝ドラ『おかえりモネ』で朝ドラヒロインを演じたが、朝ドラで育った女優と言っても過言ではないだろう。

また、物語後半になるとあさが母親になり、娘との衝突が描かれるようになるのだが、多忙で家を空けることが多い母に寂しさから反発する娘の千代を演じたのが小芝風花。

小芝はNHKドラマに出演する機会が多く、昨年は大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で花魁の瀬川を演じ話題になった。
現在は主演作も多い大人の女優に成長した小芝だが、『あさが来た』の千代が印象的だったため、いつか小芝に朝ドラヒロインを演じてほしいという声は今でも多い。

そして、予想外の注目を集めたのが、千代の女学校時代からの親友で、後にあさの秘書となる田村宜を演じた吉岡里帆である。

着物姿に丸眼鏡というビジュアルが印象に残る宜だが、実は物語上の見せ場はそんなに多くなかった。
だが、秘書としてあさの仕事に付き添って行動する彼女の姿は妙に印象に残る。
隅っこでちらっと映るちょっとした芝居になぜか目が行ってしまうのが、宜の面白さだった。
吉岡里帆が見せるふとした表情の演技も相乗効果となり、宜は注目されたが、大きな役割がない脇役だったからこそ『あさが来た』で一番面白いキャラクターになったと言えるだろう。
宜で注目された吉岡は、その後『カルテット』等の話題作に次々と出演し、一気に人気女優となった。

時代劇朝ドラという新境地を切り開いた『あさが来た』だが、当時、無名だった出演者がブレイクする瞬間が記録されたサクセスストーリーとしても、見応えのある朝ドラである。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。