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27年前、深夜番組から生まれた“痔のバンド” “異色の3人”が届けた「真剣な悪ふざけ」

  • 2026.2.19

1999年。街にはデジタルな音が溢れ出し、時代の速度が加速していく中で、深夜のテレビ番組だけは、まるで都会のエアポケットのような「大人の遊び場」を提供していた。そんな時代の一幕に、あまりにも豪華で、それでいて驚くほど無防備な歌声が響いた。

ぢ・大黒堂『友だちじゃないか』(作詞・作曲:トータス松本)――1999年2月5日発売

深夜の遊び場から生まれた「真剣な悪ふざけ」

この曲が生まれた背景には、当時の日本テレビ系深夜放送枠で異彩を放っていた音楽バラエティ『新橋ミュージックホール』があった。ビートたけし、トータス松本、ユースケ・サンタマリアという、今考えてもジャンルの壁を超えた異色の3人が音楽について語り、遊ぶ。その番組内の企画として結成されたのが、痔薬のキャッチコピーから命名されたユニット「ぢ・大黒堂」だった。

そこには、大人たちが本気で音楽を楽しもうとする純粋な熱量が渦巻いていた。名前はふざけていても、そこに集まった才能は本物だった。メインを張る3人に加え、番組に縁のある三宅裕司や野口五郎までもがコーラスとして参加するという、音楽ファンが思わず二度見してしまうような布陣が敷かれていたのである。

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ぢ・大黒堂。左から野口五郎、トータス松本、ビートたけし、ユースケ・サンタマリア-1998年撮影(C)SANKEI

豪華すぎる才能たちが、ひとつの音に溶け合う

『友だちじゃないか』の最大の魅力は、その徹底した「引き算の美学」にあるといえる。作詞・作曲を手がけたのは、当時ウルフルズで数々のヒットを飛ばしていたトータス松本。彼が紡ぎ出すメロディは、どこか懐かしく、そして人なつっこい。

特筆すべきは、編曲に名プロデューサーとして知られる佐久間正英が名を連ねていることだろう。日本のロックシーンを形作ってきた巨匠が、この「深夜の遊び」に本気で加担していたのだ。佐久間とトータスによるアレンジは、過剰な装飾を削ぎ落とし、歌い手の息づかいが聞こえるような温かみのあるサウンドに仕上がっている。

ビートたけしのシャイな優しさを孕んだ歌声、ユースケ・サンタマリアの軽快なエッセンス、そしてトータス松本の魂を揺さぶるボーカル。バラバラな個性がひとつの旋律に溶け合った瞬間、そこには単なる「企画モノ」を超えた、普遍的な友情の物語が立ち上がった。「友だちじゃないか」という真っ直ぐすぎる言葉が、多忙な日常を送る大人の心に、不思議なほど深く染み入ったのである。

カップリングに隠された、もうひとつの「奇跡」

この作品を語る上で欠かせないのが、カップリング曲『ONE FAVOR〜片隅で〜』の存在だ。表題曲もさることながら、こちらの制作陣もまた、当時の音楽界における「事件」といえるほど贅沢なものだった。

作詞に九條仁里を迎え、作曲を担当したのは山崎まさよし。さらにその楽曲を小田和正が編曲するという、まさに異次元のコラボレーションが実現していた。山崎まさよしの持つブルージーな感性と、小田和正が作り出す澄み切った音の世界観。この二つの才能が交差した楽曲は、表題曲とはまた異なる、しっとりとした大人の情緒を醸し出している。

なぜこれほどまでの才能が、一つのシングル盤に集結したのか。それはきっと、当時の彼らが「損得抜きで面白いことをしよう」という、かつての少年のような情熱を共有していたからに他ならない。テレビの企画という枠組みを利用しながら、その実、最高純度の音楽を世に送り出す。そんなスマートで贅沢な悪ふざけが許されたのも、この時代の空気が持っていた包容力だったのかもしれない。

時代が求めた、飾らない心の温度感

振り返れば、1999年は誰もが「何か」に追われていた。技術は進歩し、携帯電話は普及し、情報は加速度的に増えていった。そんな喧騒の中で、『友だちじゃないか』という曲が提示した「肩の力の抜けた関係性」は、多くのリスナーにとっての救いのように響いたはずだ。

深夜番組から生まれたこの曲は、ランキングのトップを独占するような派手な成功を目指したわけではなかった。しかし、深夜の静寂の中でふとこの曲を聴いた人々の記憶には、27年経った今でも消えない温かな灯火として残り続けている。

完璧ではない、未完成で、だからこそ愛おしい。そんな大人たちの等身大の姿が、この一曲には封じ込められている。今、改めてこの旋律に耳を傾けると、効率や成果ばかりを求められる現代において、私たちが置き去りにしてしまった「大切な何か」を、彼らの歌声がそっと教えてくれるような気がするのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。



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