1. トップ
  2. 32年前、『ポンキッキーズ』主題歌となった“骨太サウンド” 朝の風景をポップに変えた“日常ロックの金字塔”

32年前、『ポンキッキーズ』主題歌となった“骨太サウンド” 朝の風景をポップに変えた“日常ロックの金字塔”

  • 2026.2.5

1993年の秋、それまでの「子供番組」という概念を鮮やかに塗り替える、エポックメイキングな番組が産声を上げた。フジテレビ系で放送を開始した『ポンキッキーズ』だ。その記念すべき初代オープニングテーマとして、新しい時代の朝を告げるファンファーレのように響き渡ったのが、この一曲だった。

森高千里『ロックン・オムレツ』(作詞:森高千里・作曲:伊秩弘将)――1994年1月25日発売

番組のスタートから少し遅れてシングルとしてリリースされたこの楽曲は、森高千里が放った、日常とロックが幸せに同居した名作だ。キッチンという、誰の家にもあるごく普通の場所を、最高にスリリングなステージへと変えてしまった魔法。その瑞々しい感性は、30年以上の時を経た今もなお、私たちの記憶の中で色褪せることなく躍動している。

多彩なパレットを持つ「一人の表現者」が見せた新境地

当時の彼女は、すでに自ら楽器を操り、独自の視点で言葉を紡ぐアーティストとしての地位を揺るぎないものにしていた。1993年に発表した『渡良瀬橋』で見せた胸を締め付けるような情景描写や、繊細な心情表現。その一方で、彼女にはもう一つの大きな魅力があった。

それは、『ハエ男』(1993年)のようなシュールでコミカルな世界観をも極上のポップスへと昇華させてしまう、底知れない遊び心だ。あるいは『私がオバさんになっても』(1992年)のように、等身大の視線で瑞々しい毒気と愛嬌を同居させる独特の立ち位置。そんな彼女の多才なパレットが、子供から大人までを虜にする「朝の顔」として結実したのが『ロックン・オムレツ』だったと言えるだろう。

undefined
1997年、東京・渋谷公会堂でおこなわれた森高千里コンサートより(C)SANKEI

伊秩サウンドと共鳴する、爽快でキュートな魔法

この楽曲の魅力を語る上で欠かせないのが、伊秩弘将によるキャッチーなメロディラインだ。ロックンロールをベースにした骨太なサウンド構成でありながら、どこか未来的で洗練された遊び心が随所に散りばめられている。

このエネルギッシュな旋律に、彼女ならではの「爽やかでキュートな歌声」が重なったとき、唯一無二の化学反応が起きた。彼女のボーカルは、過剰な装飾を排したストレートな響きを持っている。だからこそ、オムレツを作るという日常の手順を綴った言葉たちが、まるでおまじないのように聴く者の心へと軽やかに滑り込んでくるのだ。

慌ただしい朝を「特別な時間」に変えたリズム

『ロックン・オムレツ』が流れていたあの頃、朝の時間は今よりも少しだけ、未来への希望に満ちていたように感じる。学校へ行く準備を急ぐ子供たち、朝食の支度に追われる親たち。そんな日常の喧騒の中で、この曲は「今日という一日を全力で楽しもう」という静かな、けれど力強いエールとして機能していた。

彼女が描いたのは、特別な日の出来事ではない。冷蔵庫から卵を取り出し、フライパンを熱し、料理を仕上げていく。そんな、ともすれば見過ごしてしまいそうな当たり前の光景に、彼女はロックのリズムを乗せて光を当てた。

「楽しいことは、自分の手の中にこそある」

そんなシンプルで大切なメッセージが、あの爽快なメロディと共に日本中のリビングへ届けられたのだ。彼女が見せた、コミカルでありながらも凛としたアーティストとしての佇まいは、当時の音楽シーンにおいても極めて個性的であり、同時に普遍的な親しみやすさを持っていた。

季節は巡り、時代は大きく変わった。けれど、ふとした瞬間にあのイントロが頭の中で鳴り出すと、私たちは一瞬であの瑞々しい朝の空気を思い出すことができる。キッチンの湯気、窓から差し込む光、そして最高にポップでロックな彼女の歌声。

あの時、私たちが受け取った「一皿の魔法」は、今も変わらず私たちの心に温かな元気をチャージし続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。