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27年前、パワフルさを閉まった“冬の女王”のバラード 中低音が響く“冬の定番CMソング”

  • 2026.2.1

「27年前の冬、白銀の世界で静かに流れていた旋律を覚えていますか?」

スノーボードの板を車に積み込み、目的地へと急ぐ早朝の冷たい空気。あるいは、雪が降り積もる街角でふと足を止めた瞬間。1999年の冬は、それまでの喧騒が少しずつ落ち着きを見せ、人々がより自分自身の内面や、大切な人との距離を見つめ直し始めた時期でもあった。そんな時代の変わり目に、一人の冬の女王が新しい表情を見せる。

広瀬香美『I Wish』(作詞・作曲:広瀬香美)――1999年1月21日発売

圧倒的な歌唱力と突き抜けるようなハイトーンで、数々の冬のアンセムを届けてきた彼女。しかし、この作品で広瀬香美が選んだのは、パワフルなイメージとは一線を画す、どこまでも優しく、包み込むようなミディアムテンポのバラードだった。

雪解けを待つ心に寄り添う新しい冬の形

広瀬香美といえば、冬のスポーツショップの活気ある風景とともに、弾けるようなアッパーチューンを連想する人が多いかもしれない。けれど、この『I Wish』という楽曲は、そうした外向きの熱気ではなく、心の奥底にある小さな願いを大切に育むような、内省的な温かさに満ちている。広瀬自身が手がけたメロディは、どこか切なさを孕みながらも、聴き進めるうちに凍えた心が解けていくような安らぎを与えてくれる。

編曲を手掛けるのは、数多くのアーティストのヒットを生み出す本間昭光。本間によるアレンジは、広瀬の繊細なピアノの旋律を活かしつつ、リズム隊が心地よくボトムを支えることで、派手な演出に頼らない「楽曲そのものの強さ」を引き出している。

静かに、けれど確実に熱を帯びていくサウンドの重なりは、冬の夜空に瞬く星を眺めているときのような、穏やかな高揚感をもたらしてくれるのだ。

冬の定番CMソングとしてお茶の間に流れていたこの曲だが、テレビから流れてくるその音色は、どこかホッとさせる安心感に満ちていた。

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2005年、東京・渋谷ハチ公口広場で初のストリートライブを行った広瀬香美(C)SANKEI

声を楽器に変えた冬の女王の真骨頂

彼女の歌声についても、この時期は大きな変化の兆しが見えていた。それまでの「攻め」の姿勢を感じさせる高音域の炸裂だけでなく、中低音域の豊かな響きを活かした表現力が、この楽曲の深みを支えている

一つひとつの言葉を丁寧に、語りかけるように置いていくボーカルスタイルは、リスナーの日常にそっと溶け込み、まるで隣で話を聞いてくれているような親密さを感じさせる。

「ただ明るいだけではない、大人の冬」を感じさせるその質感こそが、リリースから四半世紀以上が経った今もなお、この曲を特別な存在たらしめている理由なのだろう。

歌詞の世界観においても、誰かを一方的に想う強さだけでなく、自分自身の弱さを受け入れながら前を向こうとする、静かな決意が描かれている。そうした「等身大の感情」が、当時の私たちの日常と重なり、多くの共感を生んだことは想像に難くない。

華やかな冬の裏側にある、誰もが抱える孤独や期待。その繊細な機微を、彼女は見事に歌声に乗せていた。

時代を超えて響き続ける名タッグの余韻

1999年は、音楽シーンにおいても新しい才能が次々と現れ、多様な価値観が混ざり合っていた激動の年だった。デジタルなサウンドが主流になりつつある中で、こうした生楽器のぬくもりと確かな構成力を感じさせるバラードは、かえって新鮮な響きを持って街に流れていた。

広瀬香美と本間昭光という、音楽的な信頼関係で結ばれた二人が生み出したこの空気感は、単なる季節の流行歌という枠を超え、一つの「スタンダード」として確立されていった。派手な演出やタイアップの枠組みを超えて、純粋に「良い曲」として記憶に刻まれている作品。

『I Wish』を聴くと、あの頃の冬の匂いや、寒さの中で感じた人の体温、そして自分自身が抱いていた小さな「願い」が、昨日のことのように思い出される。雪が降る夜、温かい飲み物を片手に一人で聴き返したくなる。そんな贅沢な時間が、この1曲には流れている。

冬という季節が持つ、厳しさと優しさ。その両面を美しく昇華させたこの名曲は、これからも季節が巡るたびに、私たちの心を静かに温め続けてくれるに違いない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。