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自慢の別荘が1,500万の査定→「 そんな安いはずない」プロの査定を“一蹴”…半年後、50代男性が迎えた“残酷な結末”

  • 2025.12.26
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役の不動産会社社長として、日々土地や建物の売却相談に向き合っている岩井です。

不動産を売り出す際、売主様からよく次のような言葉を聞きます。

「この家は地震に強い構造で、かなり頑丈なんです」
「お金をかけてリフォームしているので、高く売れると思います」
「ここからの景色は、本当に特別なんですよ」

確かに、不動産には数字だけでは測れない魅力があります。眺望や思い出、長年手をかけてきた時間は、持ち主にとって大切な価値です。

ただ、その自信が強くなりすぎた結果、本来なら売れたはずの不動産がまったく動かなくなってしまうというケースも現場では決して珍しくありません。

「この価格はむしろ安いはずだ」と信じて疑わなかった別荘オーナーの売却が、なぜ途中で完全に止まってしまったのか。今日は、実際の相談現場で起きたエピソードをご紹介します。

「このエリアで一番の眺めだから」自信に満ちていた売主

今から半年ほど前のことです。私のもとに相談に来られたのは県外に住む50代の男性、Aさんでした。Aさんが売却を検討していたのは、観光地の別荘地に建つ戸建住宅です。

高台に位置し、リビングの窓からはこの地域で観光スポットとして知られる山並みと空が一望できる眺めの良い物件でした。

「この景色がきれいに見える別荘は、他にはなかなかないと思うんです」

初対面の席で、Aさんは何度もそう口にされていました。建物はコンクリート基礎で、耐震性にも配慮されています。過去には水回りや外壁のリフォームも行っており、「相当お金をかけてきた」という自負が強く伝わってきました。

査定額1,500万円に納得できなかった理由

私は、周辺の成約事例や別荘地特有の需要を踏まえ、査定額として約1,500万円を提示しました。この金額でも、同エリアの取引事例と比べれば、決して低い水準ではありません。

ただし、査定においては、売主が感じる価値と市場が評価する基準が一致しないことも多くあります。例えば、眺望については評価要素の一つにはなるものの「同じような景色が他にもある」「購入者の好みに左右される」などの場合、価格に大きく上乗せされるケースは多くありません。

また、リフォーム費用についても、内容や時期によっては査定に反映されることはありますが、かけた金額がそのまま売却価格に上乗せされるわけではないのが実情です。

こうした前提を説明したうえで金額をお伝えしましたが、Aさんの表情が一変しました。

「正直、そんな安いはずはないと思います」
「この眺望と建物で、その金額はちょっと…」

Aさんの中では、次のような要素すべてが、当然のように価格へ上乗せされていたのです。

  • リフォームにかけてきた費用
  • 長年使い続けてきた思い出
  • 「このあたりで一番だ」という眺望への強い自負

こうした思いが重なった結果、Aさんは査定額を大きく上回る、かなり強気な価格で売り出す決断をされました。

3ヶ月間「問い合わせゼロ」という現実

販売を開始してから、時間だけが静かに過ぎていきました。問い合わせは一件もなく、内見の予約もゼロ。3ヶ月が経過しても、状況はまったく変わりませんでした。

そこで私は、Aさんに改めて価格の見直しを提案します。

「正直に言います。このままでは、動きません」

しかし、返ってきた言葉はこうでした。

「まだ、この価値が分かる人が現れていないだけでしょう」

価格を下げる決断をされたのは、それからしばらく経ってからのことです。ただし、下げ幅はごくわずかで、市場の反応を変えるほどではありませんでした。

6ヶ月経っても売れない別荘とズレ続ける認識

販売開始から6ヶ月が経過しました。Aさんは当初の売出価格から段階的に値下げを行いましたが、状況は一向に好転しません。最終的には、当初価格から約700万円を値下げし、売出価格は1,700万円まで下がりました。

「ここまで下げれば、さすがに売れるでしょう」

Aさんはそう漏らしていましたが、結果は想像していたものとは違いました。700万円値下げした現在でも、内見は一件も入らず、売却は依然として成立していません。

問い合わせ自体はあるものの「別荘としては維持費が重い」「利用頻度を考えると踏み切れない」といった理由から、検討段階で止まってしまうケースが続いています。

実は、不動産は時間をかけて少しずつ値下げしていくほど「売れ残っている物件」「何か理由があるのでは」と見られやすくなります。その結果、価格を下げても検討対象に入りにくくなり「様子見」される期間だけが延びてしまうことも少なくありません。

本来は、最初から市場の適正価格で売り出し、反応があるうちに早めに売り切る。それが、結果的にもっともダメージの少ない売却方法だといえます。

思い入れと市場価値は必ずしも一致しない

売却の現場で繰り返し感じるのは「売主が大切にしてきた価値」と「買い手が判断する価値」の間には、思っている以上に大きな隔たりが生まれることがあるという点です。

とくに強いこだわりを持つほど、積み重ねてきた時間や費用への思いが価格判断に影響しやすくなり、市場とのズレに気づきにくくなります。

そうなると、「できるだけ高く売りたい」という気持ちが先に立ち、結果として、売却の好機を逃してしまうケースも少なくありません。別荘や眺望の良い不動産ほど、価格は期待や思い入れではなく、現実的な需要と成約事例を基準に組み立てる必要があります。

もし、「この物件は他とは違う」「簡単に値下げすべきではない」という考えが頭をよぎっている方は一度、相場価格や世間の反応を冷静に見直してみてください。

不動産は、動かない期間が長引くほど資産としての役割を失い、負動産(負担がのしかかる不動産と私が勝手に呼んでいます)へと変わっていく。その点だけは、心に留めておいていただければと思います。



筆者:合同会社ゆう不動産 代表 岩井佑樹

不動産売買の専門家として仲介・査定・買取に携わりながら、不動産Webライターとして1,000記事以上を執筆。「売る力×伝える力」を軸に、情報発信と販売の両面から不動産の価値を高めている。派手さよりも誠実さを大切にし、地域に寄り添う姿勢で「早く・高く・安心」の取引を支える不動産の専門家。


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