1. トップ
  2. 「家にいたぞ!」不在票を入れた直後に怒号…チャイムのない家で起きた、宅配員を震えさせた「理不尽な罠」

「家にいたぞ!」不在票を入れた直後に怒号…チャイムのない家で起きた、宅配員を震えさせた「理不尽な罠」

  • 2025.12.31
undefined
出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さんこんにちは、元宅配員のmiakoです。

注文した荷物が予定より遅く届いたり、破損して届いてしまったといったことは、ごくまれに発生してしまいます。

残念な気持ちになるのは致し方ありませんし、お客様の希望に添えない形で届いてしまう原因としては、確かにこちらに問題があったこともあります。輸送中に何らかの衝撃などで損傷してしまった荷物については、極力代替品を取り寄せて弁償する対応を行いますが、在庫切れなどで同じものが用意できない場合もあります。

こちらの不備であれば誠心誠意謝罪し対応いたしますが、お客様の中には手に入れたはずのものを壊されたという悲しみや怒りから、過剰な弁償を要求されたり、電話や対面で暴言や威圧的な態度を取られることも、現場では実際に起きていました。

昨今では「カスタマーハラスメント」、いわゆる「カスハラ」という言葉が知られるようになり、このような過剰な要求や理不尽な態度が問題視されるようになっています。お客様自身も、少しずつ自分の態度を見直すようになったようにも感じます。

しかし、カスタマーハラスメントという言葉が社会的に広く知られるようになったのは、まだ最近のことです。私が宅配の現場にいたころは、もっと早くこの問題が提唱されていればと思う場面が何度もありました。

今回紹介するのは、チャイムが届きにくい間取りがきっかけで誤解が生じ、さらに過去の別担当者への不満まで持ち出されて、強い叱責を受けることになった現場での出来事です。

現場で起きた出来事

それは、私が宅配員として勤務して数年が経ったある日、とあるお客様の元へお伺いした時のことです。

入社当時からこのエリアを担当していましたが、そのお宅に荷物を届けるのは、私自身初めてでした。

その敷地内には建物が二つ建っていました。
一つは母屋と思われる、表札がありチャイムの付いた少し古い家。もう一つは母屋より新しい建物で、チャイムはなくポストが設置された家。

敷地内には車が一台停まっていました。

この町は、バスや電車などの公共交通機関がなく、自家用車が主な移動手段の地域です。そのため、家に車が停まっているだけで在宅の可能性が高いと判断できます。

私が伺った時、どちらの建物からも物音はせず、周囲は静かでした。どちらに伺うのが正解かわからず、ひとまず同じエリアを担当したことのある宅配員に確認しましたが、その宅配員も行ったことのないお宅だと言われました。

応答がない中での判断

まずは母屋の方へ行き、チャイムを鳴らして声をかけました。しかし返事はありません。もう一度チャイムを押し、再び声をかけましたが、やはり反応はありませんでした。

次に、もう一つの建物の方にいるのではないかと思い、そちらへ向かいました。こちらの建物にはチャイムがなかったため、入り口のドアをノックし、声をかけましたが、やはり返事はありませんでした。

車があるということは在宅している可能性が高いと感じました。しかし、何度声をかけてもお返事がありません。もう一度、両方の建物を回り、声をかけながらノックしましたが、やはり応答はありませんでした。

致し方なく不在票を入れ、その場を去ることにしました。

電話が鳴り、再配達へ向かうことに

しばらくして、私の携帯電話が鳴りました。

電話に出ると、「家にいたのに不在票を入れていくとはどういうことだ!」と、いきなり怒鳴られました。

話を聞くと、先ほど伺った、同じ敷地内に二軒建っている家の方からでした。しかも、チャイムのない建物の方にいたと言います。

これはよほどお怒りなのだと思い、なるべく早めに再配達へ伺うことにしました。

再びそのお宅を訪ねると、玄関から出てきたのは、明らかに機嫌の悪そうな様子の男性でした。

「自分は家にいた。なんで不在扱いするんだ!」

そう強い口調で叱責されました。

私は、「申し訳ありません。ですが、どちらの建物にもノックと声掛けをさせていただきましたが、お返事がありませんでしたので…」と説明しました。しかし、「チャイムがなくてもノックすれば家に響く。さてはお前、嘘を言っているな。不在票だけ入れて帰っただろう?」と、さらに疑いを向けられたのです。

過去の別担当者の話まで持ち出されて

さらに、その男性は怒りが収まらない様子でこう言いました。

「お前ら宅配員は仕事が雑だ。前に来た奴もそうだった!その時も家にいたのに、声もかけずに不在票を置いて行ったんだ。いい加減な仕事をするな」

私はその言葉を聞いて、自分には身に覚えのないクレームまで向けられていることに気が付きました。

入社から数年、ほぼこのお宅周辺を担当していましたが、こちらの家には荷物を届けたことはありません。それにもかかわらず、過去に別の宅配員が対応した際の不満まで、まとめてぶつけられていたのです。

その言葉で、私は一つ思い出したことがありました。少し前まで、このエリアを数か月だけ担当していた宅配員がいたことです。

お客様の言う『前にもあった』というのがいつのことか、どの担当者のことなのかは分かりません。しかし、過去の出来事がお客様の中に不信感として残っていた可能性は否定できませんでした。

そのため、その時の宅配員が誰なのかわからないまま、私がまとめて叱責を受けてしまいました。

宅配員がエリアを交代で担当するという現実

一つのエリアを担当する宅配員は一人ですが、毎日同じ人が配達に入るわけではありません。
休みを取ったり、別のエリアを担当したりしながら、3人から5人ほどが交代で担当することもあります。
そのため、宅配員同士で情報共有は行いますが、現場での対応すべてを把握できるわけではありません。
仕事の様子を、常に誰かが見ているわけでもないのです。

同じ会社のもとで働き、仕事に対する思いや理念は共有しているはずです。

それでも、過去に誰かがこのお客様にご迷惑をかけ、宅配便という仕事に対する信用を損なっていた可能性を、完全に否定することはできませんでした。

そのため、私は謝罪するしかありませんでした。

一人で対応する現場の怖さと悔しさ

まさか、正当な仕事をしていたにもかかわらず、身に覚えのないクレームを受け、そのうえ別の宅配員のクレームまで重ねて受けるとは思っていませんでした。

そして、それは宅配便という仕事自体への信用すら損なわれていた厳しい言葉に、とても悔しくなったのを覚えています。

この時、私は一人でした。
しかも相手は男性で、声も大きく、その声は私の体に低く響きました。
血の気が引く思いだったのを覚えています。

再配達で伺った家で、誰の助けもなく、一人で怒鳴られ続ける状況でした。

自分に落ち度があったのであればまだ受け止められたかもしれません。しかし、自分ではそこまでの落ち度を感じていない状況で、強い口調で責め立てられることは、精神的に大きな負担でした。

今でいう『カスタマーハラスメント』に該当する可能性のある、非常に厳しい内容だったと感じています。

本来であれば、お客様のお気持ちに添うお詫びをして荷物をお渡しして終わるはずのやり取りです。

しかし、このお客様にとっては、それだけでは気が済まなかったようで、過剰とも受け取れる強い言葉を、ひたすら浴びることになりました。

それでも、理不尽な要求や金品を持ってこいといった要求がなかったことだけは、正直なところ少しホッとした部分でもありました。

振り返って気づいたこと

この出来事を何度も振り返る中で、私自身の行動について考えることがありました。

会社のルールに従い、チャイムやノック、声掛けはしていましたが、伝票に記載されていた電話番号に電話をかけるという行動は取っていなかったのを思い出したのです。

その時のお客様の状況は分かりません。部屋の構造を知らない以上、想像の範囲ではあるのですが、実際は周囲の音に気付かないほど何かに集中していたかもしれませんし、トイレや少し奥まった部屋にいて声が届かなかった可能性もあります。

お客様自身も、訪問に気づいたらその時に荷物を受け取るつもりはあったのでしょう。

しかし、実際には気づくことができなかったようです。

もしかすると、自分が気づかなかったという落ち度を認めたくないという焦りや苛立ちが、八つ当たりのような怒りの言葉としてぶつけていたのかもしれません。

もしあの時、訪問を知らせる方法の一つとして、電話をかけるという対策をしていたら、今回のようにお客様が気付けなかったと怒りをぶつけてくることはなかったかもしれませんし、一度で受け取っていただくことができた可能性があるのではないかと思いました。

このような事態が起きた後になって、初めてそのことに気が付いたのです。

しかし、本来の会社のルールであれば、そこまでの対応は過剰なサービスと受け取られる可能性があります。そこまで対応する時間の方が惜しいと考える宅配員も実際に存在するほど忙しい現場では、お客様に沿った対応を望めないこともあります。

それでも、自分と同じような叱責を受ける宅配員が居ないことを願い、他の宅配員にも今回の出来事を伝えることにしました。

その後の変化と情報共有

この出来事をきっかけに、次にまたこのお客様のもとへ荷物をお届けする際には、従来のルール通りに対応し、それでも返事がなければ、電話を鳴らして訪問を知らせようと決めました。そして、その対応について同僚の宅配員たちへ情報共有をしました。

しかし、対策を考えたのは、私だけではありませんでした。

お客様のもとへ行くと、以前は二軒の建物のうち片方にしかなかったチャイムが、どちらの建物にも設置されていました。お客様側としても対策を考えてくださったのだと感じ、嬉しくなったのを覚えています。その後のお届けは、以前よりもスムーズにできるようになりました。

宅配という仕事が抱える現実

宅配員は日々、多くのお客様と向き合いながら仕事をしています。一人ひとりの要望すべてにお応えできるわけではありませんが、それでも、できる限り対応したいという思いで現場に立っています。

たとえば、足の不自由な方がお住まいだと分かっているお宅では、チャイムを押してから少し長めに待つようにするなど、できる範囲での配慮を心がけることもあります。その裏にあるのは、お客様へ無事に荷物をお届けしたいという気持ちです。

一方で、宅配の仕事には時間の制約もあります。チャイムやノック、声掛けをして応答がなければ不在と判断し、次のお客様へ向かうのが基本の流れです。応対が1分ほどで終わることもあれば、15分以上かかってしまうこともあり、その日の荷物量や状況に応じて、臨機応変な判断が求められます。

一軒に時間をかけすぎてしまうと、そのあとに待っている他のお客様をお待たせしてしまうこともありますし、次を急ぐあまり判断力が鈍り、事故につながってしまえば、仕事全体に支障が出てしまいます。

それでも、人として困っていると感じれば、時間が限られている中でもフォローしようとする場面があります。ただし、こうした「察する対応」は宅配員それぞれの判断に委ねられており、全員が同じように対応できるわけではありません。

宅配員もお客様も人です。必ずしも思い通りにならない場面がある中で、お互いの事情を少しだけ一歩引いて考えられるようになれば、理不尽さを感じる場面は、少しずつ減っていくのではないかと思います。

すれ違いを減らすためにできること

宅配の現場では、すべてをルール通りに進めなければならない場面と、人としての配慮が求められる場面が、いつも隣り合わせにあります。

お客様一人ひとりの要望すべてにお応えできるわけではありませんが、それでも、できる限り気持ちよく荷物を受け取っていただきたいという思いで、宅配員は日々現場に立っています。

一方で、荷物を受け取ったお客様が、悲しい気持ちになったり、怒りを感じてしまう場面があるのも事実です。届いた荷物が破れていたり、汚れていたり。開けてみて初めて破損に気づくこともあるでしょう。自分の知らないところで大切なものが壊れていたとしたら、納得できなくて当然です。怒りや悲しみが生まれるのは、とても自然なことだと思います。

そうした思いを伝えるために、各社には問い合わせ先や相談窓口が用意されています。

荷物の破損や紛失については、確認のうえで補償対応が行われる仕組みもあります。ただ、箱を開けた瞬間に感じたショックや、心に残る悲しみそのものを、完全に埋められる制度は、残念ながらまだありません。

宅配員は、お客様を悲しませるために荷物を運んでいるわけではありません。

差し出した人の思いを預かり、その気持ちごと、受け取る人へ届けたいと願っています。

お荷物のお届けがあったとき、その箱の向こうに、誰かの思いを大切にしようとしていた人がいることを、ふと思い出していただけたらと思います。

届いた荷物を開けた時に、笑顔でいてほしいという願いは、代理であっても、宅配員も同じなのです。

この荷物でお客様が笑顔になりますようにと願いを込めて、宅配員は今日も荷物を手にチャイムを押します。



ライター:miako
宅配ドライバーとして10年以上勤務した経験を生かし、現場で出会った人々の温かさや、働く中で積み重ねてきた“宅配のリアル”を、経験者ならではの視点で綴っています。
荷物と一緒に交わされてきた小さなエピソードを、今は文章としてお届けしています。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】