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「指定席がないなら上の席に座らせろ?」→元駅員が遭遇した、運休時の“理不尽な要求”

  • 2025.12.30
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今日は、私が駅員時代に経験した「理不尽な要求」をご紹介します。列車が運休してイライラするお客さまと、それでもルールを守らなければいけない駅員との一幕です。

事故の一報

私がターミナル駅で勤務していたときのことです。この日もいつものように、前日分の割引券や売上データの整理を終え、窓口の営業開始準備をしていました。割引券の束をまとめるときに紙で指を切ってしまい、「朝から怪我をするなんて、今日は悪いことが起きそうだなあ」と感じていました。

この悪い予感は的中してしまいます。お釣り用の現金を用意していたとき、輸送指令の一斉放送が聞こえてきました。

「〇〇駅近くの踏切で車が脱輪し、立ち往生している」

駅員たちは一斉に悲鳴を上げます。事故が起きたのは、特急も走るような利用者の多い路線だったためです。

このターミナル駅から出発しようとしていた特急は、ひとまず一時的に運転を見合わせました。

「列車の運転見合わせについてのご案内です。ただいま、〇〇駅近くの踏切で車が立ち往生しているため…」

改札担当の係員たちが構内放送で事故発生を伝えると、開いたばかりの窓口には「私が予約した列車は出発するのか」と問い合わせのお客さまですぐさま列ができました。

運休発生

「今のところは出発できる予定です。ただ、発車時刻は予定より遅れると思います。また、これから運休が決まるかもしれません。もし運休になれば、放送案内や公式ウェブサイトでお知らせします」

このように案内していると、上司が私の後ろに立って、新たな情報を耳打ちします。

「7時台の特急、上りも下りも運休だから」

ついに決まったか、と思いながら「わかりました」とだけ返事し、すぐに次のお客さまを呼び込みました。

駅員としては、出発するかどうかわからないより、むしろ出発しないとわかったほうが案内しやすくなります。

「申し訳ありません。7時台の特急は運休が決まりました。ひとつあとの8時台の列車に変えるか、払い戻しを行います」

こうして、お客さまへのご迷惑と引き換えに、より詳細な案内へと切り替えることができました。

もう席がない…

運休した列車の予約を次の列車に振り替えるか、それとも払い戻すかはお客さまが決められます。このときは振り替えを選択する方が多く、後続の特急は指定席が満席になりました。ここでもうひとりのお客さまが運休列車の座席振り替えの申し出をされました。

「申し訳ありませんが、次の特急の指定席は満席です。さらに次の列車にするか、このまま自由席に乗ってください」

会社によっては異なるかもしれませんが、私が所属していた会社では事故のため列車が運休になったときは、あとの列車が満席のために自由席に乗ったお客さまの指定席特急料金の半額を払い戻しをしていました。

ところが、このお客さまはそのどちらにも難色を示しました。

「いや、もっとあとの列車じゃ間に合わないし、自由席は嫌だ。指定席は空いていないの?」

そう言われても、指定席はもう満席です。私の権限で座席を増やすことはできません。

「もっとよく探してよ、指定席より上のクラスとかさあ」

上のクラスに変えるなら

この特急列車には、新幹線のグリーン席やグランクラスのように、指定席よりハイグレードの座席が設定されていました。ですが、より高いクラスへの変更は事故であっても受け付けていません。

「上のクラスの席への変更は、差額をいただいております」

私がそう言うと、お客さまはため息をつきました。

「あのさあ、指定席が満席なのはあなた方の責任でしょ?『上のクラスには座れません』じゃなくて、『どうぞ上のクラスをお使いください』って言うべきなんじゃないの?」

ここからは「座席を取れ」「できない」の堂々巡りです。やがて、お客さまは「もういい」

と諦めて、スマホ片手に窓口を離れていきました。

事故でもアップグレードできない

ホテルなどでは、何かの都合で部屋を用意できなかったときに上のランクの部屋を案内される場合もあるかもしれません。私も一度、シングルの金額を支払ったのに「シングルが満室だから」とツインの部屋を案内された経験があります。

一方で、原則として、鉄道会社が事故などを理由に、無料で座席をアップグレードすることはほとんどありません。

これは、一部のお客さまだけを特別扱いすることで生じるさらなる混乱や、他のお客さまとの不公平感を防ぐため、各社が定めている統一ルールに基づいています。

事故が起きたときの裏技はある?

もちろん、このお客さまにも、どうしてもその列車でなければならない、のっぴきならないご事情があったのかもしれません。

ただでさえ予定が狂い、お急ぎのところでご希望に沿えず、大変心苦しい状況でした。

しかし、私たち駅員に与えられているのは、一部のお客さまを特別扱いする裁量ではなく、すべてのお客さまに公平に対応するためのルールを厳格に運用する職務でした。

会社によっては運転見合わせや再開の情報をインターネットでも知らせています。旅行や出張で鉄道を利用するときは、その会社のウェブサイトで運行情報をチェックしてみてください。

もしかしたら、旅程の立て直しが必要であることに早めに気づけるかもしれません。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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