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「わたしじゃない!やってない!」上靴への落書きを必死に否定する生徒。元教員が見抜いた“小さな違和感”

  • 2025.12.24
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

こんにちは。元小学校教員ライターの、みずいろ文具です。
教室では、日々さまざまな“事件”が起こります。

中でも特に印象に残っているのが、自分がやったのに、「やってない!」と言い張る子どもたちとのやり取りです。

そんなとき、どんな対応をしていたのか…実体験からお話しします。

上靴に書かれた謎の落書き

当時は2年生の担任をしていました。

ある日の放課後、クラスのAさんが「先生、靴に何か書かれていました…」
と、悲しそうに上靴を見せてきました。

そこには、当時子どもたちの間で大流行していたアニメのセリフが、ボールペンで書き込まれていたのです。

「これは悲しいよね。明日みんなに何か知っていることはないか聞いてもいい?この靴は、先生が洗っておくね」

スポンジで落書きをこすりながら、さて、明日どう話そうか…と考えていました。


翌日、朝の会で落書き部分の写真を見せ、

「自分がやられたら、どんな気持ちになるか想像してみて。悲しいよね。落書きは先生が洗って落ちたけれど、心の傷はなかなかなくならないよね。」
と話しました。

すると、話の中で、なぜか目を合わせない二人組の女子、EさんとFさんがやけに目につきました。

普段からそのアニメのセリフを真似していたこともあり、「あれ…?」と胸の奥で小さな違和感がよぎったのです。

もちろん、証拠もないので決めつけることはできません。

そこで、二人を別のタイミングで呼び、話を聞くことにしました。

 

「先生、やってない!」と言い張る子

一人目に、Eさんを呼び出しました。

「実は、さっき朝の会で話した靴のことなんだけれど…」と言い終わらないうちに、

「わたしじゃない!やってない!知らないよ!」
と強い口調で否定しました。

その表情や声色には、明らかな“必死さ”がにじんでいました。

長年の経験から、そう直感しましたが、
もちろん、言い分を頭ごなしに否定することはできません。

「そうだよね。何か知っていたらと思ったんだけど…思い出したことがあったら教えてね」
とだけ伝え、その子を帰しました。

観念して涙をこぼした二人目の子

そしてもう一人のFさんを呼びました。

すでに表情が強張っていたので、何気ない話題からゆっくりと会話を始め、
最後にこう切り出しました。

「ところで…Aさんの靴の落書きのことなんだけれど、Fさんのお気に入りのアニメのセリフだったよね。先生の勘違いかもしれないけど、もしかして何か知っているんじゃないかな?」

うつむいてしばらく沈黙したあと、ポロポロと涙がこぼれ落ちました。

「…わたしがやったの。Eちゃんといっしょに。ごめんなさい。」

声は震えていて、抱えていた不安や罪悪感が一気にあふれ出たようでした。

「話してくれてありがとう。やってしまったことはいけないけど、本当のことを話すのは勇気のいることだよね。」

Fさんが白状したことで、Eさんも自分のやったことを最後には認めることができました。

「やってない!」の裏にある、本当の気持ち

子どもたちの中には、やってしまったことを認めるのがとても苦手な子もいます。

先生や親に怒られるのが怖い。
失敗した自分を見せるのが恥ずかしい。

そんな“揺れる気持ち”が、「やってない!」という防御につながります。

私の経験上、低学年の子どもの場合は、表情や態度の小さな変化から「何か言えないことがあるのかもしれない」と感じ取れることが多くありました。もちろん、これはすべての子どもに当てはまるわけではなく、大人の思い込みで決めつけてしまうことは絶対に避けなければなりません。

そんなときは、関係を壊さないようにゆっくりと“心を開いてくれる瞬間”を待つ必要があります。

「話してくれてありがとう」と寄り添うこと

大人の目にはすぐにわかることでも、「決めつけ」や「高圧的な聞き取り」はNGです。

子どもが「本当のことを話そう」と思えるには、信頼関係が不可欠です。

「どうして嘘をついたの?」

と責めるだけではなく、

「言いにくかったよね」
「勇気を出して話してくれてありがとう」

と、気持ちに寄り添うことで、「本当のことを言ってよかった」と子どもが感じられます。

子どもは、未熟なもの。必ず間違えるし、嘘もつきます。

でも、「失敗してもこの人は私の味方でいてくれる」という関係を築いていくことが、大人にできる一番の関わりなのかもしれません。



ライター:みずいろ文具
関東の公立小学校で15年間、子どもたちと向き合ってきました。教室での日々を通して感じた喜びや戸惑い、子どもたちから教わったことを、今は言葉にしています。教育現場のリアルや、子どもたちの小さな成長の瞬間を、やさしい視点でお届けします。


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