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お正月に家族が帰った翌日、チャイムを鳴らしても応答がない…。現役看護師が年末年始に直面した「孤独の正体」

  • 2026.1.9
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

街が一気に華やぐ年末年始。テレビでは家族団らんの映像が流れ、スーパーにはごちそうが並びます。

けれど、私たち訪問看護師にとってこの時期は、決して「穏やかな連休」ではありません。むしろ、一年の中で最も気が抜けない時期のひとつです。

理由ははっきりしています。

年末年始は、在宅療養中の患者さんの「孤独」が、いちばん表に出やすい季節だからです。

華やかな空気の裏で、深まっていく孤独

年末年始は、家族が帰省したり、反対に家族が自宅を離れたりと、生活環境が大きく揺れ動きます。

訪問診療やデイサービス、ヘルパーなどの支援も縮小され、いつもそばにあった「人の気配」が一気に消えることもあります。

普段は安定している患者さんでも、この時期になると、

「なんとなく不安で眠れない」「急に気持ちが落ち込む」

そんな変化が目立ち始めます。

テレビや街から伝わってくる楽しげな雰囲気が、かえって

「自分はひとりだ」という感覚を強く突きつけてくるのです。

家族が帰ったあとに始まった、急激な症状の悪化

私が担当していた高齢のAさんも、そのひとりでした。

お正月を前に、遠方に住むご家族が数日間、Aさんの自宅で一緒に過ごされました。

家の中は久しぶりに賑やかで、Aさんの表情も明るく、私たちも少し安心していました。

ところが、ご家族が帰られた翌日から状況は一変します。

「胸のあたりがざわざわして落ち着かない」「誰も助けてくれない声が聞こえる」

幻聴と強い不安が一気に強まり、訪問しても玄関を開けてくれなくなりました。

インターホン越しの声は震えていて、こちらの言葉もなかなか届きません。

私は、この状態を単なる「寂しさ」だとは思いませんでした。

年末年始という時期特有の医療体制が薄くなる不安、再びひとりになったという恐怖、そのすべてが重なり合って、症状として噴き出していると感じたのです。

玄関の前で、言葉を急がなかった理由

玄関を開けてもらえないとき、無理に説得したり、強い口調で呼びかけたりすると、逆効果になることがあります。

Aさんの不安を、これ以上刺激してはいけないと感じました。

私は玄関の前に立ち、しばらく何もせず静かに待ちました。

それは、「あなたを急かさない」「私は敵ではない」というメッセージを、態度で伝えるためでした。

しばらくしてから、ドア越しにゆっくり声をかけました。

「Aさん、こてゆきです。ドアの前でお茶を飲みながら待っていますね。何かあったら、いつでも話してください」

待っていることを、言葉で伝える。

そして、「お茶を飲む」という、ごく日常的な行動を添える。それだけで、張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ気がしました。

数分後、Aさんは不安そうな表情で、ゆっくりとドアを開けてくれました。

年末年始だからこそ必要だった、即時の連携

室内に入ると、私はまず落ち着いてバイタルサインを確認しました。

命に直結する危険がないことを確かめたうえで、Aさんの訴えを遮らずに聞きました。

幻聴の内容、不安の強さ、家族が帰ったあとの気持ち。Aさんは、言葉にすることで、少しずつ呼吸が整っていきました。

私はその場で主治医に連絡を取りました。年末年始で連絡がつきにくい状況でしたが、

「家族不在をきっかけに、環境要因で急激に悪化している」という点を丁寧に伝えました。

指示はすぐに出ました。頓服薬の一時的な調整と、訪問回数の緊急増回。

私はAさんに、はっきりと伝えました。

「今、先生と相談して対応を決めました。明日も必ず来ます。あなたはひとりではありません」

専門家が関わっているという事実を言葉にすることは、何よりの安心材料になります。

その夜Aさんは大きな混乱なく、穏やかに過ごすことができました。

年末年始に、いちばん必要なケア

年末年始に症状が悪化する患者さんを見るたびに、私は思います。

孤独は静かで見えにくく、けれど確実に人の心を弱らせるものだと。

訪問看護師の役割は、医療行為だけではありません。環境の変化に飲み込まれそうな心を、専門職として支えることも大切な仕事です。

特に年末年始は、「いつも通り」が通用しない時期。だからこそ、チームで連携し、少し踏み込んだ関わりが求められます。

華やかな喧騒の裏側で、誰にも気づかれずに孤独と向き合っている患者さんがいる。

その現実を忘れずに、今日も私たちは在宅の現場に立ち続けています。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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