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「お米5キロと、2リットルのペットボトル3本を…」狭小住宅を建てた40代夫婦の末路【一級建築士は見た】

  • 2026.1.7
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「『2階リビングなら、カーテンを開けっ放しでも外から見えませんよ』。その言葉通り、日当たりもプライバシーも最高でした。……体が元気なうちは、ですが」

そう溜息をつくのは、5年前に3階建ての狭小住宅を建てたHさん(40代男性・会社員)。

Hさんの土地は住宅密集地にあり、1階の日当たりは絶望的でした。そこで、LDKとお風呂などの水回りをすべて2階に集約するプランを採用。

明るく開放的なリビングを手に入れ、妻と二人で「最高の選択だったね」と笑い合っていました。

しかし、その幸せは、Hさんが職場で「ぎっくり腰」を患った日に終わりを告げました。

階段が“絶壁”に見えた日

激痛に耐えながらタクシーで帰宅したHさん。玄関を開けた瞬間、絶望しました。

リビングも、キッチンも、薬のある救急箱も、すべて階段の上にあります。

1階の寝室になんとか辿り着きましたが、喉が乾いても水を取りに行けません。トイレに行くにも階段を這い上がらなければならない。

「家の中に、エベレストがあるような感覚でした。2階リビングが、これほどまでに『弱った時に厳しい間取り』だとは思いもしませんでした」

さらに、買い出し担当の妻からも悲鳴が上がりました。

「お米5キロと、2リットルのペットボトル3本。これを抱えて毎日階段を往復するのが、こんなに辛いなんて。若いうちは気にならなかったけど、最近は膝が痛くて……」

日々の「重力との戦い」が、ボディブローのように夫婦の体力を奪い始めていたのです。

冷蔵庫が壊れた…そして“搬入不可”の判決

追い打ちをかけるように、夏のある日、冷蔵庫が故障しました。

Hさんはすぐに家電量販店へ行き、容量の大きい最新モデルを購入。しかし、配送当日に配送員から衝撃の一言を告げられます。

「お客様、この階段の幅と曲がり角では、この冷蔵庫は通りません」

階段幅が狭く、大型冷蔵庫が物理的に通らなかったのです。

選択肢は2つ。「小さいサイズの冷蔵庫に買い換える」か、「クレーン車を呼んで、2階の窓から吊り上げる」か。

「せっかく買ったのにサイズダウンは嫌だと、クレーンを手配しました。搬入だけで追加費用が3万円。冷蔵庫を入れ替えるだけで、大仕事になってしまいました」

「30年後」を想像できますか?

Hさんは将来を見越してホームエレベーターの後付けを検討しましたが、床の穴あけや補強工事を含めると数百万円かかると知り、断念しました。

「今はまだ40代だからなんとかなりますが、70代になったらこの家で暮らせる気がしません」

日当たりは重要です。しかし、生活動線はもっと重要です。 2階リビングを採用する場合は、以下の備えが不可欠でした。

1、階段の幅を広げる
冷蔵庫の搬入、将来「階段昇降機(いす式)」を設置できるよう、有効幅を広く確保する。

2、1階完結型への可変性
いざとなれば、1階だけで生活が完結できるような広さと水回りを確保する。

「老後、階段を上れなくなったらどうするか?」その具体的なシミュレーションと備えがあるかどうかが、その家が「終の棲家」になれるかどうかの分かれ道の1つなのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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