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念願のマイホームも「来客は断るしかない…」入居1ヶ月後、30代夫婦が恐怖に陥ったワケ【一級建築士は見た】

  • 2025.12.25
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「『キッチンが主役のLDK』に憧れていました。パンフレットみたいに、花を飾って、優雅に料理をするつもりだったんです。でも現実は、毎日シンクの汚れを見られないように必死で隠す生活でした……」

そう語るのは、念願の注文住宅を建てたKさん(30代女性・パート勤務)。

Kさんが選んだのは、遮るものが何もないフルフラットの「アイランドキッチン」。

「家族の顔を見ながら料理ができる」「圧倒的な開放感」。 アイランドキッチンには、他にはない素晴らしい魅力があります。

Kさんもその洗練されたデザインに一目惚れし、「これならモチベーションが上がって、料理も片付けも頑張れるはず」と採用を決めました。

しかし、入居して1ヶ月。その決意は、自身の性格と現実の忙しさの前に脆くも崩れ去ります。

リビングから“生活感”が丸見え

最大の誤算は、「隠せる場所がどこにもない」ことでした。

忙しい夕方、シンクには洗い物が溜まり、ワークトップには調味料や開封した袋が散乱します。

壁付けキッチンや、手元に壁のある対面キッチンなら、それらはリビングのソファからは見えません。

しかし、フルフラットのアイランドキッチンでは、その全てが「リビングの景色」の一部になってしまうのです。

「くつろごうと思ってソファに座ると、山積みの食器と目が合うんです。常に『片付けなさい』と責められているようで気が休まりません」

さらに恐怖なのが、急な来客です。

「『近くまで来たから寄っていい?』と言われても、断るしかありませんでした。だって、キッチンをモデルルーム並みにリセットするのに30分はかかりますから。リビングのドアを開けた瞬間、散らかったキッチンが視界に飛び込んでくる間取りにしたことを、これほど後悔した日はありません」

揚げ物をしたら床が“スケートリンク”に

見た目の問題だけでなく、掃除の負担も想像以上でした。

壁がないため、炒め物や揚げ物をすると、油ハネが想像以上に遠くまで飛び散ります。

「メンチカツを揚げた翌朝、ダイニング側の床を歩いたら『ヌルッ』と滑って転びそうになりました。我が家のレンジフードの吸い込みが弱かったのか、床一面に油の粒子が飛んでいて……。毎回床拭きまでセットなんて、ズボラな私には無理でした」

市販の油はねガード(アルミパネル)を立ててみましたが、せっかくのおしゃれなデザインが台無しになり、Kさんは頭を抱えました。

一級建築士が見る“性格との相性”

Kさんの失敗は、キッチンの機能を「デザイン」だけで選んでしまった点にあります。

アイランドキッチンは、常に美しく保てる「マメさ」と「余裕」がある方にとってはすばらしい設備ですが、忙しい日々の中で片付けに時間を割けない方にとっては、その開放感が逆にストレスの種になってしまうこともあるのです。

もし片付けに不安があるなら、設計段階で以下の2つを盛り込んでください。

1.手元を隠す「腰壁(スパイスニッチ)」
キッチンの手前(リビング側)に20〜30cmの壁を立ち上げるだけで、手元の洗い物や洗剤は驚くほど見えなくなります。水はねや油はねも物理的にガードできます。

2.収納量の確保
アイランドは吊り戸棚がない分、収納力が落ちます。背面に大容量のパントリー(隠せる収納)を設けるセットアップが必須です。

キッチンは“戦場”である

Kさんは現在、カウンターの上に観葉植物やおしゃれなカゴを置いて、必死に「目隠し」を作っていますが、開放感は半減しています。

「私には、隠せるキッチンがお似合いでした。憧れだけで選ぶと、毎日が掃除と片付けのプレッシャーとの戦いになります」

これからキッチンを選ぶ方は、ショールームで一番綺麗な状態を見るのではなく、「夕食後、洗い物が溜まった状態」を想像してみてください。

それでもそのキッチンを愛せるか?その問いへの答えが、入居後の心の平穏を決めるのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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