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新築3年、タンスを動かした妻の悲鳴…。年末の大掃除で発覚した“大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.12.31
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「『新築だから、汚れなんてたかが知れてる』と高をくくっていました。でも、あの日、タンスの裏を見た瞬間の妻の悲鳴は、今でも耳から離れません……」

そう語るのは、郊外の分譲住宅を購入して3年目を迎えたKさん(30代男性)。

Kさんの家は、大手建売業者が手がけたピカピカの新築一戸建て。日当たりも良く、これまで快適に暮らしているつもりでした。

入居して3回目の年末。

「今年は徹底的にやろう」と意気込み、これまで一度も動かしたことのない、寝室の大きなタンスを動かして掃除することにしました。

しかし、それが悪夢の始まりでした。

動かしたタンスの裏から現れた“黒い絶望”

「せーの」でタンスを前にずらした瞬間、舞い上がった埃とともに、強烈なカビの臭いが鼻をつきました。

恐る恐る壁を見ると、そこには信じられない光景が広がっていました。

「壁紙が、真っ黒だったんです。点々とかそういうレベルじゃなくて、タンスの形にくっきりと、黒いカビがびっしり生えていて。しかも、壁紙が湿気でふやけて、ベロベロに剥がれ落ちそうになっていました」

Kさんは慌てて雑巾で拭こうとしましたが、すぐに手を止めました。壁を触ると、ぐにゃりと柔らかい感触がしたからです。

「これ、壁の表面だけじゃない……中まで腐ってるんじゃないか?」

新築わずか3年。見えないところで、家が静かに蝕まれていたのです。

ただの湿気ではない…疑われる“施工の不備”

Kさんのケースのように、北側の部屋や、タンスの裏でカビが発生することは珍しくありません。しかし、Kさんの家の状況は、「換気不足」や「加湿器の使いすぎ」といった生活習慣だけで説明がつくレベルを超えていました。

建築士の視点から見ると、これは「断熱欠損」による「内部結露」の可能性が極めて高い症状です。

通常、壁の中には断熱材が隙間なく詰められており、外の冷気が室内に伝わるのを防いでいます。しかし、もしその施工が雑で、断熱材に「隙間」があったとしたらどうなるでしょうか?

冬の冷たい外気がその隙間から壁の表面温度を急激に下げます。そこに、タンスによって空気の対流が遮られた湿った空気が触れ続けることで、壁の中で大量の結露水が発生し続けるのです。

これは、住まい手の使い方の問題ではなく、「本来あるべき断熱性能が発揮されていない」という、家の欠陥と言えます。

一級建築士が教える“家具配置の落とし穴”

タンスなどの大型家具は、配置場所を間違えると、こうした被害を加速させてしまいます。

1、北側の外壁面に置かない
北側の壁は家の中で最も冷えやすく、結露のリスクが高い場所です。ここに家具を置くことは、断熱材の弱点を隠蔽し、カビを培養するようなものです。

2、壁から5〜10cm離す
壁にピッタリくっつけて置くと、裏側の空気が淀み、温度が下がります。少し隙間を開けて「空気の通り道」を作ることが重要です。

3、脚付きの家具を選ぶ
床面の空気の流れを止めないよう、ベタ置きではなく脚のある家具を選ぶのも有効です。

大掃除は“家の健康診断”である

Kさんはその後、施工会社に連絡を取りました。最初は施工会社から「生活上の結露だ」と主張されましたが、壁を一部剥がして調査した結果、断熱材の入れ忘れに近い施工不良が発覚し、無償での補修工事が行われることになりました。

「もしあの日、大掃除をサボっていたらと思うとゾッとします。壁の中が完全に腐って、取り返しのつかないことになっていたかもしれません」

年末の大掃除は、ただ家を綺麗にするだけではありません。普段見えない場所をチェックし、家のSOSに気づくための「健康診断」でもあります。

もし、家具の裏で異常なカビや湿気を見つけたら、ただ拭き取って終わりにするのではなく、「なぜここだけ?」と疑ってみてください。

その黒いシミは、家からの静かなる悲鳴かもしれないのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。