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新築2年、バッグも服も“全滅”「嘘でしょ…」“密室”にこだわった30代女性の末路…【一級建築士は見た】

  • 2025.12.28
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「独身時代にボーナスをはたいて買った、一生モノのカシミヤのコートでした。久しぶりに着ようと思って奥から引っ張り出したら……裾が真っ白になっていて。最初はホコリかと思ったんですが、カビだったんです」

そう肩を落とすのは、築2年の注文住宅に住むEさん(30代女性・パート勤務)。

Eさんの家は、流行りの「家事動線」を重視した間取りです。

日当たりの良い南側をすべてLDKにし、浴室や洗面、そして家族全員の衣類をまとめる4畳の「ファミリークローゼット(WIC)」を北側に配置しました。

「洗濯して、畳んで、しまう」が最短距離で完結する完璧な動線。

しかし、その配置には、冬場に致命的となる「落とし穴」が潜んでいました。

換気扇のない“北の密室”

入居して2回目の冬。EさんはLDKで加湿器を使用し、暖かく過ごしていました。

一方、北側の突き当たりにあるWICには暖房器具がなく、窓もありません。大切な衣類が日焼けしないよう、あえて窓を作らなかったのです。

ある雪の日、友人の結婚式に出席するため、EさんはWICの奥にしまっていた礼服とコートを取り出しました。

すると、黒いコートの表面に、白い粉のような斑点がびっしりと付着していたのです。

「嘘でしょ……と思って隣の革のバッグを見たら、それも緑色のカビに覆われていました。慌てて他の服も確認しましたが、奥のほうに掛けていた冬物ほど被害がひどくて。クリーニング屋さんに持って行きましたが、『根が深いので完全には落ちないかも』と言われ、涙が止まりませんでした」

なぜクローゼットだけが狙われたのか?

Eさんの家で起きた悲劇は、単なる湿気の問題ではありません。

「温度差」と「水蒸気の移動」が生み出した必然的な結露被害です。

1、水蒸気の性質
湿気(水蒸気)は、絶対湿度が高いところから低いところへ移動する性質があります。つまり、加湿器や料理で湿度の上がった暖かいLDKから、乾燥しているように見える寒い部屋へと湿気は猛スピードで流れていきます。

2、北側の冷え込み
北側に配置されたWICは、家の中で最も温度が低い場所です。特に外壁に面している壁は、断熱材が入っていても冷たくなります。

3、露点への到達
LDKから流れ込んだ湿った空気が、WICの冷たい壁や、冷え切った服に触れた瞬間、空気中にいられなくなった水分が水滴(結露)に変わります。

EさんのWICは、「湿気を呼び込み、冷やして水に戻し、カビを培養する装置」として機能してしまっていたのです。

一級建築士が教える“収納計画の鉄則”

建築士の視点で見ると、Eさんの失敗は「収納をただの“箱”だと思っていた」点にあります。

特に空気が滞留しやすいWICを北側に配置する場合、以下の対策が不可欠でした。

1、換気ルートの確保
WIC内に排気ファン(換気扇)を設けるか、扉の上下にガラリ(通気口)があるものを選び、常に空気を動かし続ける必要がありました。

2、詰め込みすぎない
「収納力」を求めるあまり、服をぎゅうぎゅうに詰め込むと、空気の通り道がなくなり、壁際の服からカビていきます。壁と服の間には拳一つ分の隙間が必要です。

3、扉を開け放つ
冬場、LDKとWICの温度差をなくすため、人がいない時間は扉を開け放ち、サーキュレーターで暖気を送り込むのが有効です。

大切なのは“空気の道”を作ること

「日焼けを気にして窓をなくしましたが、風通しまでなくしてはいけなかったんですね」

Eさんは現在、WICに除湿機を常設し、定期的に扇風機で風を送っていますが、失ったコートは戻ってきません。

収納計画を立てる際、「どれだけ入るか(量)」や「どこにあると便利か(動線)」ばかりに目が行きがちです。しかし、そこに置くのは大切な家財道具です。

「その場所の空気は、淀んでいませんか?」

これから家を建てる方は、収納の中の空気環境まで想像を巡らせることが、大切な持ち物を守るための唯一の手段なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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