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29年前、流行の裏で放たれた“ギターポップの魔法” “軽いのに薄っぺらくない”ワケ

  • 2025.12.23
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※Google Geminiにて作成(イメージ)

「29年前、あの冬の街に響いていた“ポップスの眩しさ”、覚えてる?」

1996年の始まり。街のスピーカーからは相変わらず勢いのある新曲が流れ、ファッションも音楽も華やかさを保っていた。ただその裏側には、説明できない“軽いざわつき”のようなものが漂っていた。平成が成熟しはじめ、日々のスピードが少しずつ変わりつつあった頃だ。

そんな季節に、都会の温度をそのまま音にしたような1曲が生まれた。

L⇔R『GAME』(作詞・作曲:黒沢健一)――1996年1月19日発売

前年12月のアルバム『Let me Roll it!』収録曲からのリカットとして発表された10枚目のシングル。派手な仕掛けをしないバンドらしい“自然な届け方”でありながら、この時期の空気にもっともよく馴染んだ、クールで軽やかなポップロックだった。

都会のスピードに寄り添う“爽快なポップロック”

『GAME』を聴くと驚くのは、その軽快さだ。ギターが刻むエッジの効いたリフ、スッと前へ進むようなドラム、そして90年代らしい明るさを帯びたバンドアンサンブル。はっきりと“動きのあるポップサウンド”がこの曲の中心にある。

にもかかわらず、音の隙間にはほんの少しだけ陰影が差し、冬の冷たい空気を思わせるニュアンスが宿っている。それがL⇔Rらしく、明るさの奥に“余白”がある。その微妙な温度が、当時のJ-POPとは一線を画す佇まいを生んでいた。

黒沢健一の声が持つ“軽さと芯”

黒沢健一のボーカルは、透明感がありながら、ふわりと漂う甘さと、芯のある強さが同居している。

『GAME』ではその魅力がより前面に出ていて、ビートの上を軽快にすべりながらも、言葉の輪郭ははっきり耳へ届く。力で押すのではなく、音と一緒に転がっていくような歌い方。

その“抜けの良さ”がバンドアンサンブルと重なることで、聴いた瞬間にスピードと心地よさが同時にやってくる

“軽いのに薄っぺらくない”という矛盾の美学

当時のJ-POPシーンは、派手なダンスナンバーや壮大なバラードが主軸を占めていた。そんな中で『GAME』が貫いたのは、流行に迎合しない“L⇔Rのポップス”。

ギター中心のバンドサウンドでありながら、空間を広く使い、メロディはシンプル。構成は明快なのに、どこか理知的な表情を見せる。この“軽快さ × 知性”という組み合わせは、L⇔Rの特徴そのものだ。

目立つために速度を上げたのではなく、自分たちのテンポで都会を切り取ったからこそ生まれた鮮度が、この曲の魅力を決定づけている。

あの冬の空気まで閉じ込めたような一曲

リカットシングルという控えめな形でのリリースだったにもかかわらず、『GAME』は1996年の空気に寄り添うようにして浸透していった。

日常の中で何度も聴きたくなる、飽きのこないテンポ感。派手さよりも心地よさが勝つ、絶妙なバランス。気づけば、あの頃の街灯や歩道橋の影までもが音の中に蘇る。

それはきっと、“流行”ではなく“景色”を映す曲だからだ。あの冬の街を思い出すとき、ふと頭の中に流れる。『GAME』はそんな、時代と日常をそっと閉じ込めたポップロックの小さな名曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。