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「なぜ日本が先に出さない?」中国の軽EV「ラッコ」が本気の参入。国内メーカーがEV化に“消極的”なワケ

  • 2025.11.28
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監修・写真提供:川辺謙一さん

ジャパンモビリティショー(JMS)で世界初公開され、ひときわ大きな注目を集めた車があります。中国BYDの「J6コンセプト」、通称「ラッコ」です。

日本独自の規格であり、国内市場の“聖域”とも言える「軽自動車」。そこに合わせたEV(電気自動車)の登場は、日本の軽自動車市場にどのような影響をもたらすのか。

そして、「なぜ日本メーカーが先にこの形を出せなかったのか?」という疑問について、交通技術ライターの川辺謙一さんに詳しく解説していただきました。

人気のタイプを狙い撃ち? BYDの「本気度」とは

---今回のジャパンモビリティショー(JMS)で、中国のBYDが日本の軽自動車規格に合わせた「ラッコ」を発表しました。プロの目から見て、この「ラッコ」をどう評価しますか?

川辺謙一さん:

「本気の『競合』と私は捉えています。

なぜならば、『ラッコ』は日本の軽乗用車ユーザーに人気があるカテゴリーに的を絞った電気自動車(EV)だからです。

屋根が高い箱型ボディで室内空間を最大限に広げ、スライドドアを採用して乗り降りをしやすくして、日本のユーザーのニーズをしっかりと押さえていると言えます。

これまでは、日本メーカーは、軽乗用車市場をほぼ独占しており、軽乗用車のEV化に消極的でした。
いっぽうBYDは、『軽自動車規格』に合わせたEVを発表した。これは、軽乗用車市場に参入する意思の現れと言えます。」

なぜ日本メーカーは、このEVを先に出せなかった?

---読者の最大の疑問は「なぜ日本メーカーが“一番乗り”できなかったのか?」です。技術やコストの問題でしょうか?

川辺謙一さん:

「“一番乗り”という表現は、正確ではありません。

たとえば三菱自動車は、『i-MiEV(アイミーブ)』と呼ばれる軽乗用車規格に準じたEVを開発し、2009年から販売した実績があります。「i-MiEV」は、リチウムイオン電池を搭載した世界初の量産型電気自動車でした。

ただ、先述したように、日本メーカーが軽乗用車のEV化に消極的だったのは事実です。また、「軽スーパーハイトワゴン」というカテゴリーにおいては、これまでEVが存在しませんでした。「軽スーパーハイトワゴン」は、屋根が高い箱型ボディとスライドドアを採用したもので、日本で人気がある軽乗用車のカテゴリーです。

日本メーカーが「軽スーパーハイトワゴン」をEV化しなかったのは、技術力が足りないのではなく、車両価格の上昇を避けるためと言えます。EV化には、電源となるバッテリーの搭載が必要です。ただし、軽乗用車ならではの制約をクリアしながら、航続距離(1回の充電で走行できる距離)を延ばし、利便性を高めようとすると、バッテリーの価格が上がり、結果的に車両価格を引き上げることになります。

軽乗用車の大きな特長は、購入や維持にかかるコストの低さです。その特長がEV化でなくなってしまっては、ユーザーが離れてしまうので、日本メーカーは慎重にならざるを得ません。
いっぽうBYDは、バッテリーメーカーでもあるため、自社でバッテリーの小型軽量化や低価格化を図りつつ、軽乗用車のEV化の実現性を高めることができます。「ラッコ」は、このような同社の強みを前面に出したEVと言えます。」

「ラッコ」発売で、日本の軽市場はどう変わる?

---もし2026年に「ラッコ」が発売された場合、日本の市場は激変するのでしょうか?

川辺謙一さん:

『日本の軽乗用車市場が大きく変わる』とは、私は思いません。

なぜならば、日本ではEVのシェアが低く、軽乗用車市場を脅かす存在になっていないからです。Argus Mediaが2025年2月7日に発表した資料には、日本の国内新車乗用車におけるEVのシェアは1.4%と記されています。

ただし、日本の乗用車市場では、軽乗用車は大きな存在です。乗用車新車販売台数のおおむね3割が軽乗用車です。日本の自動車産業にとって軽乗用車は、いまなお重要なジャンルです。

それゆえ三菱自動車と日産自動車は、2022年に「軽」のEVを発売しました。日本ならではの市場に一歩踏み込んだのでしょう。BYDの「ラッコ」は、この波に乗るためのEVとも考えられます。

このため、「ラッコ」の発売は、日本の軽乗用車市場を急変させる要因にはならないものの、ユーザーの選択肢を増やし、新しい風を吹かせる要因にはなると、私は推測します。

「軽EVラッコ」がもたらす私たち消費者へのメリット

「コスト」という高いハードルに対し、得意の「バッテリー技術」を生かして切り込んできたBYDの「ラッコ」。これが日本の「軽」の牙城を崩す存在になるかはまだ未知数ですが、「消費者にとって選べる車が増える」というのは嬉しい変化です。

この黒船の到来は、日本メーカーにとっても良い刺激となり、軽自動車市場全体がさらに面白くなっていくきっかけになるかもしれません。


監修者:川辺謙一
交通技術ライター。図解が得意な元技術者。乗りものを支える技術をわかりやすく翻訳・紹介。近著に『最新図解 鉄道の科学』(講談社ブルーバックス)、『図解まるわかり 電気自動車のしくみ』(翔泳社)がある。