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「はじめて見た」「狂ってる」深夜ドラマ史に残る“魔女”爆誕… 今クール、“狂気的な女”で花開く若手女優たち

  • 2025.11.13

深夜ドラマ帯(午後11時〜)を中心に、驚くほどの密度と熱量をもって、狂気的な女たちが増えている。その多くは、GP帯(午後7時〜11時)では見かけにくいような振り切った設定と大胆な演出のなかで、女優たちの新たな顔が花開く舞台でもある。なかでも2025年秋クール、強烈な印象を残しているのが、山崎紘菜・齊藤京子・樋口日奈・井頭愛海といった若手女優たち。彼女たちは、ただの悪女や怖い女という枠に収まらない。むしろその“得体の知れなさ”こそが、観る者を惹きつけ、物語を飲み込んでいく。

凪子という“人間兵器”『そこから先は地獄』山崎紘菜の怪演

なかでも群を抜く存在感を放っているのが、山崎紘菜だ。日テレ系ドラマDEEP枠で放送中のドラマ『そこから先は地獄』で彼女が演じるのは、夫の涼(豊田裕大)に暴力を奮っているDV妻・凪子。いわゆる“修羅場妻”のテンプレを軽く飛び越えてくるその演技は、観ていて背筋が凍るレベルである。

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山崎紘菜 (C)SANKEI

たとえば第5話、凪子は夫の浮気相手・莉沙(井桁弘恵)に対し、イベント会場のど真ん中で大声で糾弾し、「私の夫と手を切ってください」と泣き崩れる。これだけならまだ“感情を爆発させた妻”で済むかもしれない。

しかし真に恐ろしいのは、その後だ。なんと凪子は、夫と莉沙のやりとりを逐一把握しており、涼を使って莉沙を陥れるよう“指示”していたことが判明する。天国を見せたあと、地獄に突き落として相手を絶望させる……笑顔でそう企てる凪子は、最早ひとつの“兵器”だ。

山崎はこの役において、精神が壊れている人間ではなく、“狂いながらも、計算ずくで人を壊す人間”を見事に表現してみせた。しかも、どこか“儚さ”や“傷ついた過去”のにおいを漂わせながら。SNS上でも「怖すぎるけど……」「狂ってる」「ここまで怖いタイプはじめて見た」という声が挙がっているほど、なぜか目が離せなくなる本作。深夜ドラマ史に残る“魔女”の誕生である。

完全変身の齊藤京子『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』

深夜ドラマ帯における復讐モノの系譜を辿るのが、『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』である。

本作で齊藤京子が演じるのは、全身整形で25歳の姿に変貌した復讐の化身、という難役。ママ友たちからの執拗なイジメによって亡くなった娘・河井優奈(大友花恋)を失った55歳の母・篠原玲子(水野美紀)が全身整形で若返り、“新米ママ”レイコとしてママ友地獄に再潜入するという驚愕のストーリーだ。

アイドル出身とは思えぬ大胆な変貌で、齊藤は“幼稚園ママカースト”というミクロな舞台に、“制御不能な怒り”をじんわりと染み出させる。笑顔で話しながらも、目の奥だけが笑っていない。そのギャップが、視聴者に不穏さを植え付ける。とくに、ママ友グループのボスである沙織(新川優愛)に接近し、静かに追い詰めていく過程はサイコサスペンスとしても極上。齊藤の目の演技、声のトーン、ほんの数秒の“無言”が、すでに恐怖を語っている。

彼女がこの役で証明したのは、“アイドル出身”という枠を軽々と壊していける実力派であること。変身を遂げた“仮面の女”の狂気が、夜のドラマ枠に完璧にフィットしている。

嫌われ役に宿る信念『できても、できなくても』樋口日奈

宇垣美里主演のドラマ『できても、できなくても』に登場するのが、主人公・翠の元後輩で、翠の幸せを執拗に妨害する“あざとい女”・滝沢だ。演じるのは元乃木坂46の樋口日奈。無表情の中に滲む意地の悪さ、金持ちの妻になりたいがゆえに企てる非人道的な計画など、バリエーション豊かな嫌味行動が印象的だ。

一見するとただの意地悪キャラだが、樋口の演技には“自分が理解してあげないと”という不思議な寄り添いの視点がある。記者会見で本人も「演じる私だけは理解者でありたい」と語ったように、彼女の滝沢には“狂気の裏にある孤独”が確かに存在する。

樋口は、自身の役について「とにかく強烈で、すごく攻撃的なので、私自身もどうやって理解したらいいのかなと悩んでいました。でも、知ろうとすればするほど、演じる私だけは理解者でありたいなと思うようになりました」とコメント。出典:オリコンニュース 2025年9月30日配信

そのため、ただの嫌な女では終わらない予感がある。観ているうちに“この人、きっと何か満たされないものを抱えているんだろうな”と感じさせる力があるのだ。静かな狂気、という点で非常に奥行きあるキャラクターに仕上がっている。

可愛い顔に潜む毒『地獄は善意で出来ている』井頭愛海の裏表

最後に、完全オリジナル脚本で注目を集めている『地獄は善意で出来ている』から一人紹介したい。社会復帰プログラムを舞台に、元受刑者たちの人間模様が描かれる本作に登場するのが、井頭愛海演じる元美人局・一ノ瀬夢愛だ。

彼女の持ち味は、あどけなさと妖しさの同居。この人、こんなに目が大きくて可愛いのに、どこか信用できない……そう思わせる底知れなさが、絶妙だ。夢愛は常に笑顔を絶やさず明るいが、その笑顔の裏に、何か別の計算が潜んでいる気配がある。

物語が進むにつれて、彼女の言動に対して周囲の警戒心が募っていく様子が、視聴者の心理ともリンクする。善意に見せかけた狂気、あるいは“自分でも気づいていない狂気”が、井頭の演技からじわじわと立ち上がってくるのだ。

“狂気を演じる”ではなく、“狂気を孕んでしまう”女優たちへ

今回紹介した4人の女優たちに共通するのは、あえて“狂気を演じている”感がないことだ。ただ演技が上手いというだけでなく、この人、本当にこういう部分を抱えているのでは? と錯覚させるほどの没入感がある。その一因は、彼女たちが“表情で語る”ことに長けている点にあるだろう。

また、共演者や物語全体とのバランスをきちんと取ったうえで、自分の役の毒を最適な温度で注ぎ込めるセンスも見逃せない。狂気は、一歩間違えば浮いてしまう。しかし彼女たちは、作品の空気と調和しながら、芯を食った演技で視聴者を引き込んでくる。

深夜帯のドラマは、“挑戦”の場でもある。そのなかで、ここまで危うくも魅力的な“狂気の華”を咲かせられる俳優たちの存在は貴重だ。今後、彼女たちが昼のドラマや映画でも、また違った“顔”を見せてくれることを楽しみにしたい。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_