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「どんどん好きになっていく」「とても良い」大躍進中の竹内涼真、8年前の朝ドラで演じていた“静かに熱を持つ男”

  • 2025.11.6

2017年放送の朝ドラ『ひよっこ』で、製薬業の御曹司・島谷純一郎を演じた竹内涼真が、現在放送中の火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』では昭和的価値観に凝り固まった海老沢勝男を体現している。どちらも料理が人間関係の媒介になる物語だが、前者が“思いやりの共有”としての料理であったのに対し、後者はいわば“価値観の矯正”としての料理で始まる。料理というモチーフは共通していても、物語の推進力が反転している点がおもしろい。この8年の軌跡を“台所”を通じて読むことは、読者の記憶と現在を最短距離で結ぶはずだ。

『ひよっこ』の萌芽:静かに熱を持つ男・島谷純一郎

2013年放送の朝ドラ『あまちゃん』において、ヒロイン・アキ(能年玲奈 現・のん)の母・春子(小泉今日子)の少女時代を演じた有村架純。それをきっかけに彼女がヒロインの座を務めたのが『ひよっこ』である。有村架純演じるみね子が、赤坂の洋食屋・すずふり亭で働くことになり、併設するあかね荘でともに暮らすようになる一人が島谷だ。

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竹内涼真 (C)SANKEI

竹内演じる島谷は理知的で誠実、慎重に言葉を選ぶ青年であった。あかね荘での住民たちとの炊事や、すずふり亭を介した食卓の時間は、彼の繊細さを手つきや姿勢で語らせている。

自分の特権性を恥じ、相手の立場に歩み寄ろうとする倫理感が、恋のシーンの温度をゆっくり上げていくのが印象的な本作。竹内が演じる役は常々、SNS上でも「切ない恋が似合う」と評価されるが、それは奪うのではなく“相手の自由を守る”ために退く覚悟が、表情の端々に宿っていたからではないか。

竹内の演技は、台詞よりも沈黙の時間が雄弁で、視線のフォーカスと呼吸の浅深で心理の段階を見せていた。

化石男・海老沢勝男はなぜ魅力的に映るのか

ここで『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の勝男に目を向けてみる。彼は“女性は料理ができて当然”と心底信じている、少し痛々しい価値観の持ち主だ。恋人の鮎美(夏帆)からプロポーズを断られたのを機に、会社の後輩たちからのアドバイスを渋々受け、自ら包丁を握るところから人生を立て直していく。

どちらにも共通するのは、叶わぬ切ない恋をしている点だ。結果的に島谷がみね子と結ばれることはなく、勝男と鮎美が選ぶ未来はまだ示されていないものの、その雲行きは怪しい。両作とも“料理”を媒介にしているのがなんとも示唆的で、とくに勝男を演じる竹内は、頬の強張りがほどける瞬間、肩の力が抜ける微細な変化で“学習している身体”を提示している。料理の上達がそのまま人間性の回復に直結して見えるのは、手元の寄りや噛みしめのショットで、心の移り目をちゃんと刻んでいるからではないだろうか。

『ひよっこ』のあかね荘での共同炊事は、分け合うことで打ち解ける“共同体の原体験”を描いた。一方、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の勝男は、最初は独りで作る。孤独ゆえに、自分の味付けの癖や技術の拙さに気づき、他者の基準に触れたくなる。やがて“誰かのため”に献立を考え始めるとき、彼は初めて島谷の領域である“他者中心の考え方”に足を踏み入れていくはずだ。

台所は、人が変わる場所?

竹内涼真の恋愛ドラマ適性は、“待つ力”を芯に持つところにある。島谷では相手の選択を尊重して退いた。勝男では、時代遅れの自分を置き去りにし、新しく前に進む勇気を持つことで、相手に追いつこうとしている。

どちらも“自分こそが正しい”を降ろす所作だ。切なさの質は変わったものの、根にある優しさは同じ。視聴者が彼の演技を見て「とても良い」「どんどん好きになっていく」と言うのは、恋の勝敗ではなく、人としての成熟に感情移入しているからかもしれない。

有村架純は『あまちゃん』で存在感を刻み、オーディションを経ず『ひよっこ』のヒロインに直指名され、朝ドラ由来の国民的信頼を背負った。朝ドラは“未来の主役”の温床であり、俳優の基礎体力とも言える所作や間合い、集団芝居の呼吸を養う現場でもあるだろう。

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有村架純 (C)SANKEI

竹内もそこで、生活の重みのある手つきや、群像のなかでの温度調整を身につけた。だからこそ、勝男のような“痛い出発点”も、ただの滑稽さに回収せず、更新可能性のある人間として立ち上げることができた。

台所は、価値観がもっとも露出する場所。『ひよっこ』での共同炊事は愛情の共有を、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』での孤独な自炊は自己刷新を描いた。竹内涼真は、料理の場面で“相手を見る目”が変わっていくプロセスを、顔の角度や咀嚼のテンポまで含めて設計できる俳優である。8年前の切なさは、令和の彼にも似合う。

ただし、その切なさは“別れを美しくする”ためではなく、“関係をもう一歩先へ進める”ために使われている。料理も恋も、学び続ける者に味方する。竹内涼真は、その真理を身体で証明している。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_