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念願のマイホームを購入もまるで独房…数値だけを追い求めた40代夫婦が陥った“落とし穴”【一級建築士は見た】

  • 2026.2.9
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「性能のいい家を建てたはずなのに、どうしてこんなに息苦しいのでしょうか……」

そう語るのは、Dさん(40代・夫婦+子ども1人の3人暮らし)。

数年前に念願のマイホームを建てました。テーマは「一年中快適に過ごせる家」。設計段階では断熱と気密の性能を最優先し、工務店の勧めもあって窓をできるだけ減らした設計を採用しました。

完成した家は、冬でもエアコン1台で暖かく過ごせるほどの高性能住宅。しかし、暮らし始めてしばらくすると、思いがけない“息苦しさ”に気づいたといいます。

「冬は暖かいのに、心は冷えていく」

「たしかに暖かいです。結露もありませんし、冷たい風も感じません。でも、昼間でも照明をつけないと暗くて、空気が重く感じます」

Dさんのリビングには、南側に掃き出し窓が1枚だけ。壁と天井には高性能断熱材がぎっしり詰められ、他の面には開口部がほとんどありません。

外の光は限られ、風も抜けない。冬の快適さと引き換えに、リビングはまるで“閉じ込められた箱”のような空間になっていました。

「朝起きてカーテンを開けても、外の景色が見えない。子どもが『今日は晴れ?くもり?』と聞くたびに、なんだか申し訳なくなります」

一級建築士が見る原因――“数値だけを追いかけた設計”

筆者(一級建築士)の目から見ると、Dさんの家の問題は「断熱性能の数値を目的化してしまったこと」にあります。

近年は、住宅業界全体で“高断熱・高気密”がブームになり、多くの工務店やハウスメーカーが「UA値」や「C値」という性能指標を前面に掲げています。UA値とは「家の外へ熱が逃げにくい度合い」、C値は「家のすき間の少なさ」を表す数値です。いずれも数値が低いほど性能が高いとされています。

こうした流れの中で、一部の住宅会社では、少しでも良い数値を出そうとする傾向も見られます。そのため、窓を極力減らしたり、開口を小さくしたりして、熱損失を抑える設計が採用されることもあります。

もちろん、すべての会社に当てはまるわけではありません。ただ、“性能を上げる”ことが“快適さを上げる”こととイコールではないという点は、もっと知られるべきです。

「数字では測れない居心地」

「性能の数値を聞いたときは、正直うれしかったです。こんなに良い家が建てられるなんて!と感動しました」

しかし、その満足感は長く続きませんでした。リビングにいても外の気配が感じられず、閉鎖的な空気に息苦しさを覚えるようになったといいます。

「家族で過ごす時間が多いリビングなのに、なぜか落ち着かない。休日になると外出したくなります」

Dさんの“暖かい家”は、数値的には成功でも、暮らしの実感としては失敗でした。その違和感は、光と風を遮断したことがもたらした結果でした。

性能と心地よさを両立させる“窓の設計”

筆者がDさんに伝えたのは、「窓を減らす」のではなく「窓を設計する」ことの重要性です。窓は確かに熱の出入りが最も大きい部分ですが、同時に自然光と通風を生む“家の呼吸口”でもあります。

性能と快適さを両立するためには、以下の工夫が有効です。

  • 断熱性能の高い樹脂サッシやペアガラスを採用し、開口を確保する
  • 高窓や天窓を活用して、光を取り入れながらプライバシーを守る
  • 吹き抜けや階段窓で上下の空気を循環させ、冷暖房効率を高める
  • 庇(ひさし)や外構の植栽で日射をコントロールする

このように、断熱・気密・採光・通風を“セットで考える”ことが、本当の快適さにつながります。

“数値の家”より、“心が落ち着く家”を

Dさんは今、リフォームを検討しています。「リビングにもう一つ窓を増やして、外を感じられる空間にしたい」と話していました。

断熱や気密の性能を高めることは、もちろん大切です。しかし、それを目的化してしまうと、「数字上は優秀でも、住み心地は劣る家」になりかねません。

家づくりのゴールは「数値」ではなく「体感」です。

どれだけ性能が高くても、そこに“光と風”がなければ、心は温まらない。性能を追うあまり、住まいの原点である“快適さ”を見失わないこと。それが、これからの高性能住宅に求められる本当のバランスなのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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