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“徒歩通勤なのにバス代申請”で公務員大量処分「会社員が同じことをしたら横領罪になるの?」弁護士が解説

  • 2025.11.3
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出典:PhotoAC ※画像はイメージです

通勤手当は、働く人にとって日々の交通費を補う大切な手当です。多くの会社員が当たり前に受け取っているものですが、その申請内容が「実態と異なっていたら」どうなるのでしょうか。

2025年10月23日、東京都八王子市は、通勤手当の不正受給に関与していた市職員、監督責任のある管理職・両副市長、計108人の処分を発表しました。報道によると、バスや電車などの公共交通機関を利用していると申請しつつ、実際には徒歩や自転車で通勤していたケースが多いとのこと。

この事件を受けて、SNS上では「ただ歩いただけなのにダメなんだ?」「これは横領でしょ」「会社員が同じことをしたらどうなるのか」という疑問の声が多く上がりました。

はたして、通勤手当の不正受給は懲戒処分で済むのか、それとも刑法上の罪に問われるのでしょうか?気になる疑問について、弁護士に詳しく話を伺いました。

刑法上の罪に問われる可能性も…弁護士が詳しく解説

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

刑法上の罪に問われる可能性はある?

---実際には徒歩や自転車で通っているのに電車やバス等の定期代、交通費を申請・受給した場合、刑法上の罪に問われる可能性はあるのでしょうか?

寺林弁護士:

会社に対して電車通勤と偽って定期代を申請し、実際には徒歩や自転車で通勤していた場合、以下のような刑法上の罪に問われる可能性があります。

1、詐欺罪(刑法第246条)
人を欺いて財物や利益を得る行為について成立します。法定刑は10年以下の拘禁刑(旧懲役刑)です。

<成立例>
・実際には電車を使っていないのに、電車定期代を申請して受給した場合
・引っ越して通勤距離が短くなったのに、以前の住所のまま申請し続けた場合

会社を「騙す」意図があるかどうかが重要です。意図的であれば詐欺罪が成立する可能性が高いです。

2、業務上横領罪(刑法第253条)
業務上占有している他人の財物を不法に自分のものにする行為について成立します。法定刑は10年以下の拘禁刑(旧懲役刑)です。

<成立例>
・会社から交通費として預かった金銭を、通勤に使わず私的に流用した場合
・会社の決済用カードで不要な交通費を使った場合

会社から「預かった」交通費を本来の目的に使わず流用した場合に該当します。

一般企業の「会社員」はどのように処罰される?

---今回は公務員のケースでしたが、一般企業で同様のケースが発覚した場合、どのように処罰されるのが一般的でしょうか?

寺林弁護士:

通勤手当の不正受給が発覚した場合、企業は就業規則に基づいて懲戒処分を行うことができます。処分の重さは、行為の悪質性・金額・期間・返還意思などによって判断されます。

1、軽度なケース:戒告・けん責
例えば通勤経路の変更申告漏れ、少額の差額受給の場合、故意性が低く、本人が反省・返還意思を示している場合に行われます。

2、中程度のケース:減給・諭旨解雇
例えば、数万円〜数十万円の不正受給、数年にわたる申告虚偽の場合、過去には、約15万円の不正受給に対する諭旨解雇が「重すぎる」と判断され、無効とされた例もあります(東京地裁平成25年1月25日判決)。

3、重度なケース:懲戒解雇
例えば、初めから虚偽申告、定期券未購入、隠蔽工作をした場合などは、過去には、バイク通勤を隠して定期代を受給していた大学教員に対する懲戒解雇が有効と判断された例があります。この例では不正受給額が200万円にのぼっていました(東京地裁令和3年3月18日判決)。

「通勤手当の不正受給」での裁判例

---他にも「通勤手当の不正受給」で裁判になった事例はありますか?

寺林弁護士:

1、光輪モータース事件(東京地裁平成18年2月7日判決)
概要:通勤経路を変更したにもかかわらず、約4年8カ月にわたり旧経路の定期代を受給し続けた従業員に対し、会社が懲戒解雇処分を実施しました。

争点:不正受給の金額(約36万円)は高額か?悪質性は詐欺に匹敵するか?会社の管理体制に問題はなかったか?

判決:懲戒解雇は「重すぎる」として無効とされました。

2、大阪府教委事件(大阪地裁令和5年9月28日判決)

概要:教員が自動車通勤をしながら電車通勤と申告し、通勤手当を受給していました。校長から複数回注意を受けても改善しませんでした。

争点:通勤手当の支給要件(常例利用)注意指導後の継続的違反

判決:停職3カ月の懲戒処分は有効とされました。虚偽申告と指導無視が問題視されました。

「ただ歩いただけ」では済まない。悪質性によっては刑事罰も

通勤手当の不正受給は、金額や期間、悪質性によって詐欺罪や業務上横領罪といった刑法上の罪に問われる可能性があるとのことです。民間企業では懲戒処分が一般的ですが、過去の裁判例を見ると、金額が比較的少額でも懲戒解雇が認められるケースもあれば、逆に「処分が重すぎる」として無効になったケースもあります。

「ただ歩いただけなのにダメなのか」という声もありますが、虚偽の申請によって本来受け取るべきでない手当を受給するのは、不正行為です。会社からの信頼を裏切る行為であり、場合によっては刑事責任を問われることもあります。

通勤手当は、実際にかかる交通費を補うための制度です。引っ越しや通勤方法の変更があった場合は、速やかに会社に申告することが求められます。


参考:
報道されている職員の通勤手当の不正受給について(八王子市)
職員の懲戒処分等について(八王子市)

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