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「クマを追い払う園長先生」映像をよく見ると…“デマ”に弁護士が警告「過去には880万円損害賠償請求も」

  • 2025.10.29
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

近年、クマの出没や被害に関するニュースが増加し、多くの人が不安を感じています。そうした中、SNSではクマに関する情報が飛び交い、中には衝撃的な映像も多数投稿されるようになりました。

SNS上で「クマ被害動画」と称される映像が拡散され、視聴者に大きな衝撃を与えています。しかし、AI技術などを用いて生成された可能性のある“クマ被害動画”も散見されており、実際の事件と無関係であることが確認されているケースも多数あります。

例えば、マンションの壁をクマが登っている様子を撮影しているかのように見えるものや、保育園に侵入してこようとするクマを園長が追い払うというものです。

はたして、AI生成による偽のクマ被害動画を投稿することは、法的にどのような問題があるのでしょうか? 気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

SNSでの偽情報の拡散に総務省も注意喚起

TikTokやX(旧Twitter)などのSNSプラットフォームでは、「クマが人を襲う」「施設に侵入する」といった様子を“撮影したかのような”AI生成動画の投稿も散見され、拡散されています。コメント欄を見ると、こうした映像を本物だと信じ込んでいる人も少なくありません。

実際、2024年1月に発生した能登半島地震の際には、災害に便乗した偽情報の拡散が問題となり、総務省が注意喚起を行う事態となりました。

さらに、AI技術の発達により、本物と見分けがつかないような精巧なフェイク動画の生成が容易になり、フェイクニュースや誤情報が拡散しやすい状況が生まれています。

参考:災害時における偽・誤情報への対応(総務省)

AI生成の偽動画の法的問題点を弁護士が解説

今回は、AI生成の偽動画の法的問題点について、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

動画を投稿したらどんな罪になる?

---クマ被害の偽動画をAIを使って生成し、SNSに投稿したらどのような罪に問われるのでしょうか?

寺林弁護士:

以下のような罪に該当する可能性があります。

1、名誉毀損罪(刑法230条)
実在する人物や団体が、動画内で誤解を招く形で登場し、社会的評価を低下させる場合には名誉毀損罪が成立する可能性があります。たとえば「保育園の園長がクマを追い払った」とする偽動画が拡散され、実在の園長に誤認が及ぶようなケースです。

2、偽計業務妨害罪(刑法233条)
虚偽の情報により、企業や施設の業務を妨害した場合に適用されます。たとえば「スーパーにクマが侵入した」とする偽動画が拡散され、店舗の営業に支障が出た場合などです。

3、軽犯罪法違反(軽犯罪法1条)
虚偽の風説を流布して社会的混乱を招いた場合、軽犯罪法違反に問われる可能性もあります。

4、著作権法違反
実在する映像や音声を無断で使用・改変した場合、著作権侵害に該当する可能性があります。

フェイク動画を掲載しているSNS側の責任は?

---プラットフォーム側に法的責任はあるのでしょうか?

寺林弁護士:

AI生成による偽動画がSNSで拡散された場合、プラットフォーム側(X、TikTok、YouTubeなど)に法的責任が問われるかどうかは、投稿内容の違法性や対応の有無によって異なります。

SNS運営会社は「通信の媒介者」として、原則として投稿内容に対する責任を負いません。これはプロバイダ責任制限法(旧法)や情報流通プラットフォーム対処法(新法)に基づく考え方です。

ただし、投稿が明らかに違法であり、かつ被害者から削除要請があったにもかかわらず放置した場合、運営会社が損害賠償責任を問われる可能性があります。

---プラットフォーム側は、削除要請に応じる義務はあるのでしょうか?

寺林弁護士:

情報流通プラットフォーム対処法(2022年施行)により、SNS運営会社は「権利侵害情報」に対して削除対応や発信者情報開示請求への協力が求められます。削除要請は、被害者本人または代理人(弁護士など)から行うことができ、運営会社はガイドラインに沿って審査・対応します。

各SNSには「通報機能」や「報告フォーム」が設けられており、違反投稿を報告可能です。削除されない場合は、仮処分や発信者情報開示請求などの法的手段を取ることができます。総務省はSNS事業者に対し、偽情報・誤情報の削除や通報窓口の設置を要請しており、社会的責任としての対応が求められています。

虚偽情報を投稿して逮捕された例は?

---虚偽情報を投稿して逮捕、摘発された例、裁判になった例があれば教えてください。

寺林弁護士:

代表的なものとして以下のものが挙げられます。

1、熊本地震「ライオン脱走デマ事件」(2016年)
2016年4月14日に発生した熊本地震直後、「動物園からライオンが逃げた」とするツイートと共に、映画のワンシーンを添付した偽画像が投稿され、2万人以上に拡散されました。

熊本市動植物園に100件以上の問い合わせが殺到し、業務に支障が生じました。投稿者は偽計業務妨害罪で逮捕されました。最終的には不起訴処分(起訴猶予)となりました。

2、東名高速あおり運転事故に関するデマ(2017年)
実際の容疑者とは無関係の企業名や人物がSNSで拡散され、誤認被害が発生しました。企業にいたずら電話が殺到し、営業停止に追い込まれました。

デマ投稿者8人に対し、総額880万円の損害賠償請求が提起されました。刑事告訴は不起訴となったものの、検察審査会が「起訴相当」と判断し再捜査されました。

3、大学教授に関する虚偽投稿(2024年)
「阪神タイガースが優勝したら単位を与えると、講義で教授が発言した」という虚偽の内容を、大学生がSNSに投稿し拡散されました。大学教授が名誉毀損で提訴し、30万円(慰謝料20万円+弁護士費用10万円)の損害賠償命令が下されました。

情報リテラシーと責任ある情報発信を

AI生成による偽動画の投稿は、名誉毀損罪や偽計業務妨害罪など、複数の罪に問われる可能性があります。また、過去には虚偽情報をSNSに投稿したことで逮捕者が出たり、多額の損害賠償を命じられたりした事例も存在します。

AI技術の発達により、誰でも簡単にリアルな動画を作れるようになった今、軽い気持ちでの投稿でも、大きな法的責任を負うことになりかねません。特に災害時や緊急時のデマは、社会的混乱を招き、実際の救助活動や支援の妨げになる恐れがあります。

一方で、情報を受け取る側も注意が必要です。衝撃的な動画ほど拡散されやすく、知らないうちに偽情報の拡散に加担してしまう可能性があります。情報源を確認し、安易にシェアしない姿勢が求められます。

SNSは便利なコミュニケーションツールですが、その影響力の大きさを理解し、責任ある情報発信を心がけることが何より大切なのではないでしょうか。

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