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60代夫婦「最寄りのスーパーはあるけど…」夢のニュータウンに住むも…直面した“予想外の現実”【一級建築士は見た】

  • 2026.2.6
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

1960年代から80年代にかけて、日本各地に開発されたニュータウン。なかでも大阪府堺市にある泉北ニュータウンは、広大なエリアに整備された道路、公園、団地群が並ぶ「未来の郊外住宅地」として注目を集めました。

当時、子育て世帯を中心に多くの住民が移り住み、一時は16万人以上が暮らしていたこの街も、いまでは人口減少と高齢化に直面しています。外からは“静かに見える”街のなかで、実際に暮らす人々が直面している課題とはどんなものなのでしょうか。

「便利なはずの街」が、暮らしにくくなる理由

泉北ニュータウンは当初から生活利便施設や公共交通網を備えており、成熟した住宅地として発展してきました。現在でも買い物や病院、文化施設などの機能は一定程度維持されています。

しかし、筆者が地域の住民に取材をしたところ、次のような声がありました。

「最寄りのスーパーはあるけど、そこまでの坂道がつらい」
「駅まではバスを使うが、本数が限られていて不便」
「子どもを連れて買い物に行くのに、車がないと厳しい」

このように、“機能としては整っている”はずの街であっても、実際の地形や移動手段、体力の衰えといった要素が重なることで、「生活のしづらさ」として浮かび上がってくるのです。

毎日の“坂道”が、想像以上に体と心を削る

泉北ニュータウンは丘陵地を活かして整備された街です。坂道や高低差が多く、街区によっては最寄りの駅や商業施設へ向かうために、長い階段や傾斜のある道路を通らなければなりません。

高齢になると、これまで気にも留めなかった“ちょっとした上り坂”が、生活のハードルに変わります。

実際に筆者が取材した60代のご夫婦は、「体調を崩してから、買い物に行くのも一苦労」「車が運転できなくなると一気に不便になる」と語ってくれました。さらに、通院のためにタクシーを使う機会も増え、出費もかさむようになったといいます。

「便利に暮らせると思っていた街が、いつの間にか“外に出るのが億劫な街”になってしまった」――これこそが、高齢化するニュータウンで多くの人が直面する“避けられない現実”なのです。

交通・買い物・医療の“ちょっとした不便”が積み重なる

泉北ニュータウンでは近年、オンデマンド交通の導入が進んでおり、AIを活用した乗合バスが一部エリアで運行を開始しています。買い物や通院といった日常の移動手段として、地域住民の新たな足として活用されはじめています。

とはいえ、こうした新しいサービスが地域全体に浸透するには、時間と住民の理解が必要です。高齢者にとってはスマートフォンの操作が難しく、事前予約制のサービスを使いこなすこと自体がハードルになる場合もあります。

また、街の中心部から外れたエリアでは、今も車での移動が基本であり、「運転できるうちは快適、できなくなれば不自由」という二極化した暮らしが浮かび上がっています。

「老後も住み続けられる街」への転換には何が必要か

泉北ニュータウンでは現在、UR都市機構や自治体による再生プロジェクトが進行中です。エレベーターの後付け設置や空き家の活用、子育て世代向けの住戸リノベーションなど、多方面からの施策が実施されています。

それでも、真に「住み続けられる街」へと再生していくには、個々の建物だけでなく街全体の再設計が求められます。

  • 移動を支える地域交通インフラの強化
  • 医療・買い物施設の身近な場所への再配置
  • 世代間交流を促す公共空間の整備
  • 情報格差を埋めるデジタル支援

これらを組み合わせながら、“移動しなくても暮らしが成り立つ街”への転換が、今後の課題といえるでしょう。

「理想の住まい」が将来の不安に変わらないために

住宅を選ぶとき、「広さ」や「価格」「間取り」といった条件はもちろん重要です。しかし、それ以上に大切なのは、「その街で何十年先も、自分らしく暮らし続けられるか」という視点です。

泉北ニュータウンでいま起きている変化は、決してこの街だけの特殊な話ではありません。これから高齢化を迎える他のニュータウンや郊外住宅地でも、同じ課題が表面化していく可能性があります。

「いま便利だから」「子育てしやすいから」だけで判断してしまうと、将来思わぬ“大誤算”につながるかもしれません。

街を選ぶことは、未来の暮らしを選ぶこと。今後住宅購入を検討する人々にとって、この“現実”を知っておくことは決して無駄にはならないはずです。


出典:AIオンデマンドバスの取組(堺市)



ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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