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47階建てタワマンで「まさか自分の家が…」6年前、800戸超を襲った“思わぬ大誤算”

  • 2025.8.23
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「豪華な暮らし」が一変した日から学ぶべきこと

都市生活の象徴ともいえるタワーマンション。眺望、アクセス、最新設備と、華やかな魅力を備え、多くの人が「いつか住んでみたい」と憧れる住まいです。しかし、その“安全神話”が揺らいだ出来事がありました。

2019年10月、台風19号(令和元年東日本台風)によって神奈川県川崎市・武蔵小杉に建つタワーマンション2棟が、長時間の停電・断水という深刻な被害を受けました。この記事では、一級建築士の視点から「なぜそんなことが起きたのか」「次に備えるにはどうすればいいのか」を掘り下げていきます。

「豪華タワマンが無力化した日」――武蔵小杉で起きた停電・断水被害

被害を受けたのは、47階建てと22階建てのマンション2棟、総戸数800戸超の大規模タワーマンション。想像してみてください。台風が過ぎた後、自宅の電気が使えない、水が出ない、トイレが流れないという状況が数日間続く生活を。

エレベーターは機能停止。高層階の住民は何十階もの階段を上り下りして飲料水や食料を運ばなければならず、SNSには「まさか自分の家がこんな状況になるとは」という驚きと戸惑いの声が溢れました。

この出来事は、「タワーマンションは安全で快適」という前提に、大きな疑問符を投げかけるものだったのです。

なぜ被害は起きたのか?一級建築士が語る“構造的弱点”

このトラブルの主因は、地下に設置された電気設備が浸水し、電力供給が遮断されたことです。

マンションの設計では、建築コストや敷地効率を理由に、変電設備や配電盤といった電気室を地下に設けるのが一般的です。しかし、この“当たり前”の設計が、豪雨や台風によって地下が浸水した場合には大きな弱点となります。武蔵小杉のマンションでも、地下の電気室が浸水→配電停止→マンション全体の電力・給水停止という連鎖的な機能停止に陥りました。

また、非常用電源もわずか数時間〜1日程度しか稼働できず、長期停電には対応しきれませんでした。非常用発電機は本来、避難や初期対応のための“つなぎ”の電源。数日規模の被害を想定した設計にはなっていないことが多く、それが現実となって表面化したのです。

住民を苦しめた“想定外の現実”とそこから得られる教訓

都市生活の“安心”は、電気・水道・エレベーターなどのインフラに支えられています。タワーマンションはその依存度が高く、1つ止まると生活全体が崩れてしまう構造です。

高層階に住む住民は、電力が止まったことでエレベーターが使えなくなり、日常生活が成立しなくなりました。水が出ない、トイレが使えない、ゴミが出せない――災害が過ぎても、生活は元に戻りません。自家発電などの“備え”がなければ、自宅にいながら避難生活に近い状態になるのです。

また、設備の停止は居住者だけでなく、管理会社や清掃業者など外部スタッフの作業にも影響し、建物全体が“機能不全”に陥りました。これは、タワーマンションという巨大な「生活インフラ」に暮らしていることの裏返しでもあります。

次の災害に備えるには――購入・入居前に確認すべきポイント

同じような被害を避けるために、どんな視点を持つべきなのでしょうか?
購入・入居前に確認しておきたい重要ポイントを紹介します。

電気設備の位置を確認する

電気室や配電盤が地下にある場合、浸水リスクが高くなります。設計図や重要事項説明書などで設備配置を確認し、浸水対策(止水板やポンプ)が講じられているかチェックしましょう。

非常用電源の稼働時間を把握する

非常用発電機は設置されていても、稼働時間が短いことが多いです。何日分の電力が確保されているのか、エレベーター・給水ポンプ・照明など、どこまでバックアップされるかは要確認です。

防災マニュアルや備蓄体制をチェックする

管理組合が防災マニュアルを整備しているか、備蓄倉庫に食料・水・簡易トイレなどの最低限の備えがあるかを確認しましょう。災害時に連絡をとる体制も重要です。

住民の防災意識にも目を向ける

どれだけ設備が整っていても、最後は住民の意識と行動がカギを握ります。管理組合の活動内容や防災訓練の有無などを通じて、「非常時に協力しあえるコミュニティかどうか」も大切な判断材料になります。

暮らしの安心は“想定外”への備えから

タワーマンションなら安心――そう思っていませんでしたか?たしかに平常時には快適な暮らしが実現できるかもしれません。しかし、災害時にもその安心が続くとは限りません。自然災害が激甚化している今、万一のときに備えた“構造・設備・住民意識”があってこそ、本当の意味での安心が得られます。

もし、これからタワーマンションの購入や入居を検討しているのであれば、パンフレットやモデルルームの美しさだけで判断するのではなく、「災害時にこの建物はどうなるか?」という視点を一度立ち止まって持ってみてください。
その小さな“ひと手間”が、将来の自分や家族を守ることにつながります。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。