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面会後に「自分が甘えているのかな…」うつ病患者が家族からかけられた言葉とは?現役看護師が語る「声かけの重要性」

  • 2025.8.25
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

こんにちは、精神科病棟で働く看護師ライターのこてゆきです。

患者さんの回復には、医療や薬だけでなく、人との関わりが大きく影響します。中でも家族の存在は特別です。しかし、その言葉や態度が、時には回復の流れを大きく揺らすことがあります。

今日は、入院治療を受けていた30代の女性患者さんと、そのご家族とのやり取りを通して見えた、「家族の思い込みが患者さんに与える影響」についてお話しします。

少しずつ戻ってきた日常

30代女性のAさんは、うつ病と不安障害の診断を受け、長く続く食欲低下や不眠、体の芯まで染み込むような強い倦怠感を訴えて入院しました。入院当初は、声をかけても目を合わせず、枕元で膝を抱えたまま動かない日もありました。

「今日は少しでも食べられそうですか?」と声をかけても、首を小さく横に振るだけ。

「無理しなくて大丈夫です。少しずつでいいですよ」と私が続けても、その目は遠くを見つめているようでした。

それでも入院から10日ほど経つ頃、少しずつ表情に柔らかさが戻ってきました。午前中には病棟の廊下を静かに散歩し、午後は窓辺で日記を書くのが日課に。

「昨日より歩くのが楽になった気がします」と、ぽつりと笑みをこぼしてくれたとき、私は心の中で「よし、このままゆっくりでいい」とと思いました。

「あなたは病気じゃない」面会後に崩れた静けさ

入院2週目頃、久しぶりにAさんの母と弟が面会に訪れました。談話室で3人になったその時間、母は何度もこう言ったそうです。

「あなたは病気じゃない。家に帰れば元気になるのよ」

弟も「そうだよ、ずっとここにいたら逆に悪くなるって」と同調していたといいます。私たちはその場に同席していなかったため、面会後に病室へ戻るAさんを見た瞬間、異変に気づきました。歩く速度が早く、足音が響き、視線は床の先をまっすぐに見つめています。

「どうしました?」と看護師が問いかけても、「すぐに退院したい」「ここにいる意味がない」と早口で繰り返しました。

その夜彼女は眠れず、涙を流しながらナースコールを何度も押しました。枕元で私は「落ち着かなくて苦しいですね。ここにいても大丈夫ですよ」と声をかけ続けましたが、彼女の焦燥はすぐには収まりませんでした。

家族の気持ちと本人の思いがすれ違う瞬間

数日後、少し落ち着いた時間を見計らって、私は彼女のベッド脇の椅子に腰を下ろしました。

「面会の日、何か気になることがありましたか?」

彼女は少しためらった後、うつむいたまま話し始めました。

「母が…病気じゃないって言って。帰れば治るって。弟もそうだって」

私は頷きながら、「それを聞いて、どんな気持ちになりました?」と静かに問いかけます。

「…自分が甘えてるのかなって思った。でも…まだ動けない日もあるし…」

「甘えているわけじゃないですよ。今は体と心の充電期間なんです。回復の速さは人それぞれで、Aさんのペースが一番大事です」

Aさんはそれ以上は何も語りませんでしたが、軽く息を吐いた後、視線を私に向けました。それからは、Aさんが安心できるように好きな話題に切り替え5分ほどお話しをして過ごしたのです。

「やっと落ち着いてきたところ…」本音が届いたとき

主治医へ報告後、早急に家族を交えた病状説明を行いました。

母は「薬が余計に悪化させているのでは」「入院が長すぎる」と強い口調で訴え、弟もうなずいています。

私は横で、彼女の表情を見守りながら、「この場で自分の気持ちを話せるだろうか」と胸の中で祈っていました。しばらく沈黙の後、彼女は小さな声でこう言いました。

「やっと落ち着いてきたところだし…帰ってもまた動けなくなるのが怖い」

母の顔から張り詰めた表情が消え、「そんな不安があったの…」と彼女の手をそっと握りしめたのです。

主治医から、薬やこれまでの状態、回復へ向けた治療法についての説明があり、母と弟は何も言わずに頷いて聞いていました。

それ以降、面会直後の数分間は看護師が同席し、Aさんの言動に不安が現れていないか確認するようにしました。面会前には「今日はこういう状態なので、こんな声かけが安心できます」と、看護師と家族の間で事前に伝え合うようになったのです。

やがて彼女は再び日課の散歩や日記に取り組めるようになり、夜も少しずつ眠りを取り戻していきました。母もまた「焦らず治療を続けようね」と、以前とは異なる柔らかい声色で寄り添うようになっていきました。

言葉は薬にも刃にもなる

今回の出来事で痛感したのは、精神科では家族の言葉が患者さんの回復に大きな影響を与えるということです。回復を願ってかけた一言が、症状を揺らすきっかけになることもある。

だからこそ、面会のタイミングや会話の内容は、医療者と家族で共有し、患者さんが安心して療養できる環境を守ることが大切です。言葉は薬にもなれば、刃にもなります。

そして、患者さんのペースに寄り添いながら、安心と理解をつなぐ橋渡しをするのが、私たち看護師の大切な役割だと感じました。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。