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「部屋が暗すぎる」15分おきにナースコールを鳴らす70代の患者さん…看護師たちの考えた“対応策”に本音がポロリ

  • 2025.8.24
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

こんにちは、現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟で働いていると、一見「困った行動」に見えるものが、実は患者さんのSOSサインであることがあります。ナースコールを頻回に押す70代女性の患者さんも、そのひとりでした。

最初は過剰な行動に感じましたが、背景を知ると、病院生活への孤独や不安を伝える手段だったのです。看護師が背景に目を向け、安心できる方法を見つけると、ナースコールは徐々に減り、本人も落ち着いて過ごせるようになりました。

この経験は、行動だけで判断せず、「なぜその行動をしているのか」に注目する大切さを教えてくれます。困った行動の裏には、必ず声にならないSOSが隠れているのです。

夜中に何度も鳴るナースコール

70代の女性患者・Aさんは軽度認知症とうつ症状があり、数年前に夫を亡くしてからは長男家族と同居していました。

抑うつ気分と不眠の悪化から精神科病棟に入院。当初は落ち着いており、スタッフにも笑顔で挨拶していました。ところが入院3日目の夜、0時を過ぎたころからナースコールが鳴り始めます。

「お水が欲しい」「トイレに行きたい」

最初は具体的な用件でした。けれど1週間が経つころには昼夜を問わず1時間に3〜4回の頻度に。

「部屋が暗すぎるの」「眠れない、落ち着かないのよ」「胸がドキドキするの…もう少しここにいて」

訪室すると落ち着くものの、離れるとすぐにまたコールが鳴ります。夜間対応に追われる中、他の患者さんから「話し声がうるさくて眠れない」との苦情も出始めました。

ある夜、訪室したときのことです。

「ごめんなさいね、特に何もないんだけどね…」とAさん。

私は椅子に腰を下ろし、「大丈夫ですよ。Aさんが安心できるまで、そばにいますからね」と答えました。

その言葉に少し安堵したのか、Aさんは小さくうなずきました。

日中の何気ない会話で見えたナースコールの本当の理由

翌日、自室で世間話をしていると、Aさんがふと口を開きました。

「夜はね、家族と一緒にテレビを見てから寝るの。1人で夜を過ごすのは怖いのよ」

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなります。

「怖いんですね。病棟の夜は静かすぎますし、家とは違いますもんね」そう返すと、彼女は少しうなずき、続けました。

「廊下の物音が人の声に聞こえて…。部屋も冷たくて、すごく寂しいの」

その声はかすかに震えていて、目元は涙でにじんでいました。ナースコールの多さは単なる要求やわがままではなく、彼女にとって孤独や不安を誰かに確かめてもらうためのサインだったのです。

思えば、コールを押したあとの彼女は、症状の訴えよりも「ありがとう」「ごめんなさい」を繰り返していた。あれは、ただ誰かが側にいてくれることへの安堵の言葉だったのかもしれません。

小さな工夫がもたらした安心感

そこでチームで話し合い、夜を安心して過ごせるようにいくつかの工夫を取り入れることにしました。

就寝前には必ず病室を訪れ、「おやすみなさい。これから少し暗くなりますよ。でも心配はいりません」と穏やかに声をかける。その一言はあなたはひとりじゃないというメッセージを込めた合図のようなものでした。

照明は常夜灯と頭元の豆電球だけを残し、真っ暗にならないように調整すると、Aさんは「これなら急に怖くならないわね」と小さく笑みを見せてくれました。

さらに、ご家族にも協力をお願いし、自宅でずっと使っていた枕を持ってきてもらうことに。夫と並んで眠った記憶が染み込んだその枕は、Aさんにとってただの寝具ではなく、大切な人とつながっている証のような存在だったのでないでしょうか?

数日後、ナースコールは半分以下に減り、夜の病棟で彼女の姿にも少しずつ落ち着きが戻ってきました。ある晩、枕を抱えながら彼女がつぶやいたのです。

「この枕ね、主人と一緒に使っていたの。ここでも落ち着くのよ。安心して眠れてる気がするわ」

その表情には安堵の色が浮かび、長い間張りつめていた心がやっと緩んだように見えました。孤独と不安で押されていた心に、ようやく居場所が戻ってきたように見えた瞬間に思えました。

困った行動の奥にあるサインを見逃さない

今回の経験で改めて強く感じたのは、「困った行動」と見えるものの背後には、必ず理由や意味が隠れているということでした。ナースコールを減らすことそのものが目的ではなく、Aさんが安心して夜を過ごせる環境を整えること。その結果として行動が落ち着いていったのです。

ただ「ナースコールが多い患者」として片づけてしまえば、私たちは彼女の孤独や不安に気づけなかったでしょう。行動の奥にある感情や背景に目を向けること。それこそが看護の本質だと、改めて思わされました。

そして驚かされたのは、大きな治療や特別なケアではなく、ほんの小さな工夫。声のかけ方、灯りの残し方、慣れ親しんだ枕。それだけで人はこれほどまでに安心できるということです。「誰かが自分を理解しようとしてくれている」その実感が、人を支える大きな力になるのだと思います。

Aさんの穏やかな笑顔に出会えたことは、私たち看護師にとっても大きな励みとなり、「看護の原点」を思い出させてくれる出来事となりました。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。