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看護師と付き合っていると思い込む患者「他の男と話すなよ」その後、病室の空気が張り詰めた“まさかの発言”

  • 2025.8.14
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

こんにちは、現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科で患者さんに寄り添うことは、安心や回復への大切な支えになります。しかし、その優しさが時に妄想を強めてしまう。そんな矛盾に直面することがあります。

「安心できる存在でありたい」という思いが、結果的に依存や誤解を深めてしまう。逆に、距離を取ることが冷たさと受け取られ、信頼を壊してしまうこともある。精神科看護では、この「寄り添いと距離のバランス」に悩まされます。

今回は、特定の看護師への強い信頼が妄想へと変わり、その関係の持ち方をチームで見直す必要が出てきた統合失調症患者さんのお話をご紹介します。

信頼が特別な関係に変わっていった

「Bさんは、俺の彼女なんです」

40代の統合失調症の患者Aさんがそう口にしたとき、病棟の空気が一瞬止まりました。

心を閉ざしていたAさんがようやく信頼を寄せた相手。それは若い女性看護師Bさんだったのです。

入院当初、Aさんはほとんど他者と目を合わせず、「監視されている」「周りが俺を陥れようとしている」といった被害的な言葉を繰り返していました。

それでも看護師Bさんが粘り強く声をかけるうちに、少しずつ会話が増えていき、「Bさんが来ると安心する」「味方はBさんだけ」と話すように。

その言葉は、信頼関係が築かれた証だと思っていました。しかし、次第にAさんの発言の中に妄想が混じり始めます。

「Bさんは俺と付き合ってる。他の看護師は邪魔してる」「他の男と話すなよ。俺がどれだけ心配したか分かる?」

そこからはナースコールのほとんどがBさんに集中し、他の看護師が訪室しても「君じゃない」と拒否することが増えていったのです。

チームでの話し合い。いきなり距離を取るのではなく、説明から始める

状況が深刻になり、カンファレンスが開かれました。

「Bさんが悪いわけじゃない。むしろ信頼を得られたのは素晴らしいこと」「でも、妄想が強化されてしまっている。今のままでは依存が悪化する」

結論は、関係のフェードアウト。Aさんが安心できる範囲を保ちながら、少しずつBさんから離れ、他の看護師とも関係を築いていく必要がありました。

最初のステップは、Aさんへの説明です。

「Aさん、Bさんは他の患者さんのケアもあって、ずっと付きっきりというわけにはいかないんです。でも、私を含めていろんな看護師がAさんをサポートできます。安心してください」

Aさんは視線を落としたまま、しばらく黙っていました。沈黙が続いたあと、突然顔を上げて言いました。

「…結局、Bさんを俺から引き離したいだけやろ。そういう作戦やろ?」

その言葉に、一瞬病室の空気が張り詰めます。私は少し呼吸を整え、声のトーンを落として伝えました。

「Aさんがそう感じるのも無理ないと思います。大事な人がいきなり遠ざかるって思ったら、つらいですよね。でも、BさんはAさんを見捨てるんじゃないんです。これからも看護師全員でAさんを支えていきたいんです」

「…ほんまに?」

「はい。Aさんが安心できるように、いろんな人が関わっていくほうが、もっと安心できる時間が増えると思うんです」

Aさんは腕を組んだまま少しうつむき、「…今はわからん。でも…考えるわ」とつぶやいたのです。完全な納得ではなかったけれど、ようやく会話が次に進む一歩になりました。

少しずつ、他のスタッフと話せるように。振り返りの場でのAさんの言葉

その後、Bさんの訪室回数を減らし、代わりに私や他の看護師がケアに入ることに。

最初はAさんの反発も強く、「Bさんじゃないなら、来なくていい」「他の人と話すと、裏切られた気がする」と何度も拒否されました。

それでも世間話やちょっとした頼まれごとから関係を広げていく。ある日、Aさんが談話室で別の看護師に「その本、面白い?」と声をかけているのを見たとき、ほんの少し安心したのを覚えています。

フェードアウトが進んだ頃、私たちはAさんと一緒に振り返りの時間を設けました。

「最初はBさん以外と話すのが嫌だったけど…今は誰とも普通に話せる」

「その変化、Aさん自身はどう思いますか?」

「…自分は、Bさんと付き合ってるって思ってたけど…。そうじゃないってちょっとずつ分かってきた。Bさんも、俺を心配してくれてたんだなって」

優しさが依存に変わる、その先にある看護の難しさ

今回のケースを通して痛感したのは、精神科看護における距離感の難しさです。

患者さんとの信頼関係は、回復への大きな力になります。しかし、その安心できる存在が妄想や依存を強めてしまうこともある。優しさが患者さんを支えるはずなのに、その優しさが妄想の材料になってしまう。そんな矛盾を抱えることは、精神科の現場では少なくありません。

距離を取ることは、決して冷たさではないのだと思います。関係を調整することが、結果として患者さんの安心や回復の幅を広げることにつながる。

「今の言葉は支えになっただろうか」「もう少し寄り添うべきだったのではないか」

そんな迷いを抱えながらも、私たちは日々、最善の関わり方を模索し続けています。

この経験は、距離感のバランスが信頼を守るため、そして患者さん自身が病気と向き合うための大切な支援であることを改めて教えてくれました。どんな言葉を選び、どんな距離で寄り添うか。その問いに終わりはなく、看護師1人ひとりが考え続けていく必要があるのだと実感しました。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。