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25年前、日本中が首をかしげた“違和感アイドルソング” 大人なりかけの4人が放った“再出発の第一歩”

  • 2025.8.15

「ねえ、“スープパスタに感動”って、どういう感情…?」

2000年の夏、ふと耳に入ったそのフレーズに、誰もが一瞬首をかしげた。

けれど、その違和感こそが、この曲の魔法だった。

タンポポ『乙女 パスタに感動』(作詞・作曲:つんく)――2000年7月5日リリース。

アイドルソングの枠にありながら、そこには完全な子どもでも、成熟した大人でもない、“その間”にいる女性の恋の感情が描かれていた。

恋をして、週末を心待ちにして、ふとしたことで泣きそうになる。

そんなまっすぐで、でも少し現実を知り始めた視点が、この1曲には詰まっている。

“大人っぽさ”からの脱却 変わりはじめたユニットの転機

タンポポは、モーニング娘。の派生ユニットとして1998年にデビュー。

石黒彩・飯田圭織・矢口真里の3人で構成され、当初は“大人っぽい”イメージを打ち出していた。だが2000年1月、石黒彩が卒業。2人体制の1.5期を経たのち、モーニング娘。4期メンバーとして加わった石川梨華と加護亜依が新加入し、2対2の新旧混成ユニットの4名体制として再出発する。

このタイミングで、つんく♂は従来の「大人っぽい」イメージを一新する判断を下した。新しい4人組には、“NEWタンポポ”としての姿が求められたのだ。

その再出発の第一歩としてリリースされたのが、この『乙女 パスタに感動』だった。

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2000年、2期スタート時のタンポポのメンバー。左から加護亜依、飯田圭織、石川梨華、矢口真里 (C)SANKEI

弾むビートと「ヘイ!」が伝える、“全部楽しい今の私”

イントロからすぐに感じるのは、弾むようなリズムと明るいテンポ感。

ドラムとベースの跳ねるビートにギターが絡み、恋が始まったときの、あの胸がふわっと浮くような感覚を自然と引き出してくれる。

「ヘイッ!」という軽やかな掛け声も印象的だ。

やりすぎることなく、どこか気の抜けたようなその一言が、恋に浮かれている気分を静かに肯定してくれるような温度を持っている。

いわゆる“アイドルらしい可愛さ”は備えていながらも、この曲は明らかにそれだけではない。

描かれているのは、もう子どもではない。でも、まだ完全な大人にもなっていない――そんな“あいだ”にいる女の子の気持ちだ。

学生というよりは、日々に追われる日常の中に身を置きながら、それでも週末に彼と会えることが、毎日のテンションを引き上げてくれる――そういう生活感を持ち始めた“ちょっと先のステージにいる乙女”の視点が、音全体から伝わってくる。

背景は“恋のドラマ”じゃない、ただの週末

この曲には、恋に落ちる瞬間や別れの痛みといった“イベント”は登場しない。

描かれているのは、もっと淡々とした、だけど確かな日常。

ちょっとした失敗や、うまくいった家事、出かけた先での偶然――そういう細々とした出来事が、すべて“彼と会える週末”に向けた助走のように感じられてしまう

恋をしているときの世界って、こんなふうに見える。

何をしていても、どこかで彼のことを考えていて、

平凡な毎日も、どこか浮いて見える。

そしてそんな感情のピークを象徴するように、タイトルには“スープパスタに感動”という言葉が置かれている。曲の中に何度も出てくるわけではない。

けれどこの一言で、今、主人公がどんな感受性の高さの中にいるのかが、すべて伝わってしまう

4人の声が描く、“変化の途中”のタンポポ

この感情を歌うのは、新しい4人のタンポポ。

飯田圭織の安定感ある大人っぽい声が全体の軸をつくり、矢口真里の明るく通る高音が楽曲に広がりを与える。

石川梨華の個性的なハスキーな声が、どこか不安定なリアリティを生み出し、加護亜依は、その年齢を感じさせない芯のあるボーカルで曲に深みを足す。

全員がバラバラの個性を持ちながら、それぞれが自然に絡み合い、「今だけのタンポポらしさ」をかたちづくっている。

それぞれが模索しながら手探りで鳴らすこのハーモニーこそが、今しか出せない音になっている。

恋をして、全部が楽しくなる“あの時期”を忘れない

この曲は、何か大きなことが起きるわけじゃない。

なのに聴き終えたあと、「わかるかも」と、なぜかちょっと胸があたたかくなる。

恋をしているときって、ほんの小さなことに笑ったり泣いたりする。

日常が少しだけ特別に見えて、どんな瞬間にも意味がある気がしてくる。

『乙女 パスタに感動』が描いたのは、恋の中にいる“いまこの瞬間”の気持ちを、そのまま肯定することだった。

可愛いだけじゃない。

リアルなだけでもない。

ちょっとだけ背伸びをして、それでもまだふわっとしたまま恋に浸っている乙女の姿を、まっすぐに描いたこの曲は、

“NEWタンポポ”としての第一歩にふさわしい、等身大の名曲だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。