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これを間違えると親子関係が悪化することが多い…FPは知っている「親の介護で絶対手を出してはいけないもの」

  • 2025.7.30

親に介護が必要になったときに気をつけるべきことはなにか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「介護については早めに親と相談しておくことが大切だ。そのときに、前提としてほしいことがある」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

老人ホームで高齢者の手を握っている看護師の手
※写真はイメージです
団塊ジュニア世代が親の介護に直面

1947年から1949年に生まれた「団塊の世代」が今年、全員75歳を超え、後期高齢者が人口の5人に1人となる見込みです。医療や介護のお世話になる人が増える中、親の介護、そして自分自身の老後に不安を抱えている人が大半ではないでしょうか。

そこで今回は、親の介護に直面した方々が経験した落とし穴について、お伝えしたいと思います。

私もお客さまも順当に歳を重ねた結果、毎年、介護のお金に関するご相談が増えています。特に今、40代後半から50代前半となった団塊ジュニア世代が親の介護に直面しており、伊藤みかさん(仮名/52歳)もまさにそのお一人でした。

介護サービスや施設をすべて拒否する父

80代のお父さんとずっと二人暮らしをしてきた伊藤さん。地元の工務店で事務をしていましたが、ある日お父さんが転倒したことを機に、介護が必要な状態になってしまいます。「あまりに突然で誰に何を聞けばいいのかもわからなかった」という伊藤さん。病院のソーシャルワーカーに相談をし、地域包括支援センターのケアマネジャーとつながることができました。

そこでお父さんは要介護認定を受けたものの、介護サービスや施設での介助をすべて拒否。デイサービスに見学に行ってダンスなどのレクリエーションを見ると、「あんなの一緒にできるかい!」。入浴介護を頼もうとすると、「他人様に世話なんかさせられるか!」――。仕方なく、伊藤さんは介護と仕事を両立させるためにパートに切り替え、働く時間を大幅に減らすことになってしまいました。

伊藤さんのパート収入は現在、手取りで毎月13万円で、正社員だった時の半分以下になっています。お父さんの年金は月10万円ほどですが、今後介護サービスの手に頼るとなると、最低でも月5万円はかかることがわかり、生活にまったく余裕はありません。「自分がフルタイムで働くには介護サービスを使いたいけど、父の気が変わるのか……。でも、このままだと私も介護疲れで共倒れになりかねない」と、不安を募らせていました。

老人ホームに入居した母親が「ここは嫌」

飯島聡美さん(仮名/49歳)は、親の介護で一気に約200万円を失いました。出張の多い仕事柄、以前から在宅介護は無理だと思っていた飯島さんは、76歳の母親と相談し、老人ホームに見学へ。母親が楽しく時間を過ごせそうな老人ホームへの入居を決めます。

しかし、5カ月ほど経ったある日、母親が「どうしてもここは嫌」と、退去を熱望。「もともと内向的な人ではあったから心配ではあった」と言うように、お母さまはどうしてもその施設の雰囲気に馴染めなかったそうです。結局、別の老人ホームに移ることにしたものの、その際、入居一時金として支払った600万円のうちの3割、180万円を初期償却で差し引かれてしまったそうです。

「入居から90日以内であれば、短期解約特例制度が適用されてもっとお金が戻ってきたそうですが、勉強不足でした」と、飯島さん。「次に移る老人ホームでは、3カ月以内に母の気持ちを確認して対処したいと思います」ということでした。

介護施設
※写真はイメージです
介護認定を受けている親の家をリフォームしたら…

飯島さんと同じく、思わぬ落とし穴にハマったのが、穴水健吾さんです(仮名/54歳)。80代の両親が介護を受けやすくするため、実家の階段に手すりをつけるといったリフォーム代を穴水さんが出しました。その後、介護認定を受けている人であれば改修費用の一部が介護保険から支給されることを知った穴水さん。しかし申請すると、自治体から、「改修工事後ではなく、工事の前に申請がいるんです」と聞いて、がっかりしたそうです。

介護保険を使った住宅改修では、やむを得ない事情がある場合を除き、ケアマネジャー等に相談をし、自治体に事前申請した上で、はじめて改修工事、という流れになります。こういったことも、経験しないとなかなかわからない、まさに“落とし穴”かと思います。介護でまとまったお金が必要だとわかったら、一度、地域包括支援センターに相談するのがベストでしょう。

“遠距離介護”で導入したIT機器

そして最後のケースは、“遠距離介護”をすることになった福島孝男さんです(仮名/52歳)。大阪に暮らす実家の母親に介護が必要になったことから、福島さんは毎週末、東京から大阪に帰省するように。週末は共働きの妻に子育てを丸投げし、1カ月、遠距離介護を続けましたが、家庭の雰囲気は険悪に。金銭的にも精神・体力的にも限界を感じました。

そこで福島さんは介護の専門家を交えて話し合い、“見守りカメラ”を設置しました。これによって、大阪まで帰省せずとも母親の様子がこまめにチェックでき、何かあれば、すぐに介護サービスの人に駆けつけてもらうこともできるようになったのです。

福島さんは、「親の一番の望みは私がそばにいることだとは思いますが、それを叶えようと思うと我が家が崩壊してしまうと思い知ったので、苦渋の選択ですね」と語っていました。

介護について早めに親に確認することが大切

4名の団塊ジュニア世代が経験した介護のリアルを紹介しましたが、皆さんに共通するのは、「準備の不足」だったように思います。

たしかに、伊藤さんのケースのように、突然の事故や病気で介護が必要になることは誰にでもあり得ます。そういった突発的なことも見据えた上で、親の定年やご自身の仕事・家庭の変化といったタイミングで、いつかはお世話になるであろう介護のこと、そして老後をどう過ごしたいのかについて、親に確認しておくことが大切です。

女性が椅子に座って話している
※写真はイメージです

そこで「施設に入りたい/入りたくない」という親の気持ちを事前に把握しておけば、希望に沿った老後の体制をどう実現するか、具体的な話に進むことができるでしょう。まさに、親子それぞれにとってのライフプランニングであり、マネープランニングですね。

親の介護費用は、親自身のお金でまかなう

そして、具体的なプランを立てる際に前提になるのは、「親の介護費用は、親自身のお金でまかなうこと」です。これまでさまざまな方から相談を受けてきましたが、子どものお金で親の介護を担うことになると、その後、親子関係が悪化するケースが非常に多かったのです。

伊藤さんは介護のために前の仕事を辞めてしまいましたが、「自分の貯金には絶対に手をつけない」ことを線引きにされていました。彼女の貯金は約400万円。伊藤さん自身の老後を考えると、私はその決断は正解だと思います。ベストは、伊藤さんがフルタイムの仕事に復帰し、介護は人の手を頼る。そうして長く働き続けられる環境をいち早く取り戻すことが、親子にとってもプラスになるのでは、とアドバイスしました。

生命保険文化センターの調べでは、月々の介護費用は平均9万円、介護期間は平均4年7カ月となっていて、在宅で介護した場合、総額500万円ほどの介護費用が必要になる計算です。

経済的な事情で親だけでは介護費用を捻出できない方もいるかと思いますが、まずはケアマネジャーや自治体に相談し、自分の負荷をなるべく最小限にすることを心がけてください。小さな負荷でも、それが長期間に及ぶと、心理的にも経済的にも追い詰められがちです。親の希望に沿いつつ、自分の人生も大切に。なにはともあれ、なるべく早めに、親御さんと今後について話し合ってほしいと思います。

構成=小泉なつみ

高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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